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Data.77 竜虎、並び立つ

「あっ! 立ち止まって話し込んじゃったから遅刻……!」


「大丈夫だよ。最初からこの話をするつもりだったから、優虎ちゃんを早めに起こして準備させて、家を出る時間も調整したんだ」


「ははは……そうなんだぁ……」


 か、勝てない……! 人として!


 それどころか、1か月もしたらゲームでも勝てなくなっちゃいそうだ! もしかして、私はそのことを本能的に(さと)ったから、竜美をゲームに参加させたくなかったのでは……?


 いや、ゲームだけは負けないって! たとえ相手が竜美だったとしても……!


 なぜか最強の敵を作ってしまった気分だけど、裏を返せば最強の味方を作ったことになる。ただ、流石に完全な初心者にいきなり本番にぶっこむわけにはいかない。


 バトロワのエントリー締め切りは午後6時だ。締め切りと同時にエントリー済みのプレイヤーはバトロワ専用フィールドに送り込まれる。それまでになんとしても竜美をゲームに慣れさせなければ……!


 しかも、竜美は初回プレイになるから、アバターの設定や初期武具を選択する時間も必要になる。ゲームの先輩として何かアドバイスしておいた方がいいかな……。アバターのデザインはまだしも、武具に関しては相談に乗れるはず……。


 ……いや、やめておこう。竜美から聞かれた時だけ答えるようにしよう。


 竜美がゲームを遊ぶ理由は私のためだけど、それはそれとして自分で考えてゲームを楽しんでほしい。選択に迷うのもゲームの醍醐味(だいごみ)の1つだ。


 それに頭の良い竜美なら、どういうアバターにするのか、どういうスタイルで戦うのかをもう考えている気もする。


 実際にその後、授業中も休み時間も竜美はゲームについて尋ねてくることはなかった。様子も普段とほぼ変わらない。違う点と言えば、いつもより笑顔が眩しいことくらいだ。これは間違いなく何か考えてますな……!


 ◇ ◇ ◇


 そして、放課後! 

 私たちはそれぞれの自宅へ急いだ。


 当たり前だけどカプセル型VRデバイスは大きすぎて持ち歩けない。家に設置したなら、それぞれの家からゲームにログインするしかない。でも、大丈夫。すぐに会えるからさ!


 今日もお母さんは家にいない。少しくらいゲームを長く遊んでも(とが)める人は誰もいないということだ。部屋着に着替え、戸締りを確認した後、私はカプセルの中に入り、『電脳戦国絵巻』にログインした!


「……まあ、今は待つしかないな」


 竜美が同じタイミングでログインしたなら、今は名前を決めたりアバターを作ったりしてるタイミングだ。この段階ではチャットもできないし、私にできることは『いろはに町』で待つことだけ。


 待ち合わせ場所は初ログインのプレイヤーが必ず降り立つ町の広場だ。ここからは幅の広い道が伸びていて、そこを行きかう人の多さを見れば、このゲームの活気をその身をもって感じることができる。


「なんか緊張するな……!」


 よく知ってる人を待っているのに、すごくドキドキする。初デートの時、彼女がどんな服を着てくるのか、どんな場所の行きたいと思ってるのか、それを考えながら待つ人の気持ちってこんな感じなのかな。


 今回はどんな顔をしているのかもわからないから、よりドキドキしちゃうのかも。ああ、いろんな考えが頭を駆け巡る。早く来ないかな~!


「優虎……いや、トラヒメちゃん!」


 私に声をかけてきたのは、鮮やかな青に白のメッシュが混じる髪をツインテールにした女の子だった。ツインテールは長細いタイプではなく、チアリーダーが持ってるポンポンのようにフワッとしたタイプだ。


「もしかして、竜美?」


「うん! あ、この世界ではリオって名前にしたんだ。本当は虎の姫でトラヒメに合わせて竜の王でリュウオウにしようとしたんだけど、長すぎるから略してリオに落ち着いたの」


「そうなんだ。へぇ~」


「リアルじゃ大人っぽいってよく言われるから、アバターは思いっきり子どもっぽくしてみたんだ。でも、あんまり身長を変えると体の重心が変わって転びやすくなるらしいから、そこはほぼ同じに設定したよ。どう? かわいいかな?」


「うん、とってもかわいい!」


 いつもの大人っぽい竜美とは違い、リオは少女らしい幼さを感じさせる。確かに背丈はあまり変わってないし、顔にも面影があるけど、髪型1つでここまで印象が変わるものなのねぇ~。


 ……いや、髪以外にもリアルと大きく違う点が1つだけある。それは……胸だ! リアルの私と変わらないくらい慎ましいサイズになっている!


「あの、胸はどうして小さく……」


「いやぁ、ない方が身軽に動けると思ってね! 実際、リアルと比べて肩がすっごく軽くなって清々しい気分だな~」


「そ、そうなんだ。まあ、私は少し残念だけど……いいんじゃないかな?」


 髪型も胸も違うとなると、話しかけられるまで目の前のリオを竜美と認識できなかったのも納得だ。せめて胸が同じサイズならすぐに気づいた自信があるけどなぁ~!


「さあ、トラヒメちゃん! 今から何をする!? いきなり実戦訓練でも私はまったく問題ないよ!」


「う、うん。時間もあんまりないし、早速フィールドに出て戦いの基本を学んだ方がいいね」


 ハイテンションの竜美……じゃなくてリオを連れて『いろはに町』を出る。


 目指す場所はやっぱりあの森でしょ。私がフィールドで一番最初に訪れたスポットであり、私がこのゲームで初めて人を斬った場所でもある。


 町からも近いし、出現する魔物もそこまで強くない。リオの実戦訓練にはうってつけというわけだ。


 それにしても……隣を歩いててもまだ竜美とリオが同一人物だと認識できない。思ったよりも気合の入ったキャラメイクだ。


 せめて胸だけでも同じサイズにしてくれたらなぁ~、なんて自分からは言えないが、『電脳戦国絵巻』ではゲーム開始後3日間は自由にアバターの姿を変更できる。


 胸がない方が重りがなくて体が軽いのはわかるけど、この実戦訓練中に胸があることのメリットが見つかれば、竜美はアバターの姿を変えてくれるかもしれない。


 まあでも……そんなメリット思いつかないなぁ~!

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― 新着の感想 ―
[一言] 胸があればトラヒメちゃんが抱きついてくれるっていったら一発でしょうな
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