Data.75 最高の仲間を紹介するぜ!
サブリーダーの『クミン』は少しトゲのある美女って感じだ。花にたとえるなら真っ赤なバラだね。
ちょっと前までは地下アイドルをやっていたんだが、今はバーチャル全盛期のご時世だ。リアルアイドルは界隈そのものが斜陽なのよね……。それでクミンは夢破れて俺と出会い、今じゃうちのチームのアイドルみたいなもんさ。
愛想が悪くてツンツンしてるが、そこが良いというファンは多い。その愛想のなさがアイドルとして致命的だったのでは……というツッコミはタブー! 普通に今でも未練はあるみたいだから、絶対に言っちゃあいけないぞ!
ただ、俺は『最初からバーチャルアイドルを目指してたら良かったのに』みたいなことは、クミンによく言っている。
美しい顔とスタイルをイラストや3Dモデルで隠すのはもったいない……というのは素人の考えだ。あの界隈はバーチャルのクセになぜかよく顔バレするし、顔バレして中身が美人と判明すると人気が上がっちまうらしい。生々しいねぇ……。
逆にそのぉ、コメントに困る顔だと……それでも別に大きく人気が落ちることはないらしい。信心深い良いファンたちが揃ってるね!
まあでも、仮面で顔を隠すにしても仮面の下はイケメンや美女の方が良いってわけだ。そう考えると、やはりクミンはバーチャルアイドルに向いている。なんなら、俺としては今からやってもらっても構わない。
え? 顔出し配信者のチームにバーチャルが混じっていいのかよって?
大丈夫大丈夫! かわいい女の子キャラの両サイドを三次元のオッサンが固めてる生配信とか見たことあるし、バーチャルってのはキャラを演じるのではなく都合のいいガワを被ることさ。
今のクミンのままでツンツンツンデレお嬢様みたいなガワを被ってくれたら、それだけで人気が数倍になりそうなんだけどなぁ~。
まっ、提案はしても強要はしないさ。それはパワハラだからね。
それにクミンはアイドルの夢破れてからゲームを始めた割にすごくプレイが上手い方だ。女でそういうタイプは珍しいから、現段階でも立派にチームに貢献してくれている。
ゲームの上手さと言えば、うちのチームで外せないのは『ガラム』だ。こっちは男だが、元競技勢ということで腕前は並じゃないぜ。
え? 競技勢ってなにかって?
うーん、簡単に言えば『本来の意味でのプロゲーマー』かな。ゲームの大会で良い成績を残して、その賞金で食っていこうっていうチャレンジャーな人種さ。
ただ、この時代ではゲームをプレイすることで金を稼いでたら、みんなプロゲーマーになる。
とんでもない縛りプレイで何時間もかけて苦行を乗り越える人もプロゲーマー、そのゲームのことを調べ上げて解説動画を上げてる人もプロゲーマー、俺たちみたいにチームを組んでゲームを攻略するところを配信してる人たちも当然プロゲーマーだ。
正直、大会の賞金だけで食っていくタイプのゲーマーの寿命は短すぎる。ファンを抱え込んで動画を再生させたり、投げ銭をさせたりしないと長持ちしない。悲しいことだけどね。
ガラムもまたそんな悲しい男さ。野心を抱いて大会一本で頑張ってきたけど、こいつはそれが叶うほどゲームが上手くないという、もっと悲しい現実も背負っている。だから、ちょうどそれなりに上手い奴が欲しかった俺が拾った。
しかしながら、ガラムは……すんげー口下手なんだ! ゲームばっかり遊んでたらバカになるというのはガセだが、ゲームしかできない奴は扱いに困るというのなら事実だ。
配信やるなら上手さよりトーク力が必要になる。こいつにその能力はまったくなかった……が! 俺はガラムを見捨てなかったぜ!
失敗を部下の能力不足のせいにする上司はバカだ。有能な部下しかいないなら、上司なんて首を縦に振るだけの福島名物『赤べこ』で十分だ。
クセのある部下を使いこなす……。それこそが上に立つ者に求められる資質!
実は俺、人の話を遮って話そうとする『おしゃべり野郎』で、それが嫌いとか不快とか言われることが多かった。だから、そもそもあんま話さないツンツンクミンや口下手ガラムで脇を固めたら、思う存分ベシャれるってわけよ!
なんでも適材適所……。人の一面しか見れない人間は、甘いケーキの材料に塩を使って塩は使い物にならないと言ってるみたいなもんさ。うーん、良いこと言うね俺。
さてさて、『電脳戦国絵巻』におけるうちの主力は俺とこの2人かな。合計3人しかいないが、今は3人だからこそいいんだ。計画は順調に進んでいる! さらに今からその計画についてのミーティングを行う!
『SpicieS』はこれでもリアルに小さな事務所を持っている。ストリーマーに事務所なんて不要、オンライン会議で十分って奴は、人間が未だに肉体という物理的な器を捨てられていないことを忘れている。
寝ても覚めても縛られるこの肉体を、仕事をするべき場所という明確なポジションに置いてこそ、仕事に必要な能力が最大限に発揮される。そうは思わないかい?
そう思う俺はもう少し大きい事務所が欲しい。だって、広い方がテンション上がるじゃん? あー、リ・デビュー計画が成功したらそーしよ!
「あっと、ぐるとク~ン! あの動画の素材、チェックして編集しといてくれたかな?」
うちの事務所には動画の編集や配信機材のチェックをする専門のスタッフも雇っている。全部自分でやる人も多いが、この方が効率的だし、チーム感が増してテンション上がるだろ?
テンションを上げる環境を作りって、バカにならない効果があるんだぜ?
ついでにメンバーにはテンションが上がるというか、一体感が生まれるネーミングを心がけている。要するに『SpicieS』なので、メンバーの名前はスパイスを元にしてる……とかね!
あ、技術スタッフの名前に法則性はないよ。あくまでも表に出るメンバーだけのルールさ。これからチームが大きくなってメンバーが増えた時、スタッフにカッコいいスパイスを取られてもう良いのがありません……では困っちゃうからさ。
「え? あの動画は誰かの手が入る前に自分でチェックしたいってハッカクさんが……」
「俺そんなこと言ったっけ? 言ってないと思うんだけどなぁ~」
「僕、何度も早くチェックしなくていいんですかって確認しましたよ」
「ふーむ、聞いてないな~」
ごめん、ぐるとクン。そういえば俺そんなこと言った気がするわ!
でも、みんなが集まってるところでド忘れしてたことを認めちゃあ、そろそろリーダーもオッサンでボケてきたなとか思われそうじゃん? それは避けたいわけよ。
「まっ、どっちでもいいわ! じゃあ、今からでいいから編集しといて。最優先でねっ!」
「そ、そんな! 他の仕事もあるんですけど……!」
「ごめんごめん! これはお互い様ってことで!」
集団をまとめるためにはリーダーの威厳は必須。そのための犠牲になったと思ってくれたまえ、ぐるとクン。働きの割に高い給料払ってるんだからさ!
「さ~て、集まってるな! それではこれから新参者限定三位一体生存競争の~って、長いうえにダサいわ! えー、バトロワに関するミーティングを始めます! 返事!」
「……は~い」
「……はい」
クミンとガラムの生返事はいつも通りさ。これでも良いトリオなんだぜ? 本当だよ?
俺たちがバトロワのチャンピオンを余裕でかっさらわせていただきますから、まあ見てなって! くくくっ、絶対に勝つための根回しだってもう始まってるんだぜ……!





