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Data.71 戰の掟

 私たちは『月読山』の山頂から、優雅蝶に乗って一気に駆け下りていた。行きしなに魔物を倒しまくって来たから、このスピードに乗った下山を邪魔するものはいない。あの『惨堕亞暴琉斗(さんだーぼると)』だって全滅させてきたわけだからね!


 とはいえ、完全に気を抜いてはいない。視界の中で動くもの、聞こえてくる音には注意を払っている。でも、山は登る時と打って変わって静かなもので、まるで山に棲む魔物たちが、強い私たちに『出て行ってくれ』と言ってるようにも思えた。


 ふふっ、お望み通り出て行きますとも!


 『月下村』にたどり着いた私たちは、そこでやっと気を抜くことができた。この村は石造りの防壁に囲まれた安全な村だから、『芝草村』と違って崩壊してしまう心配はほとんどないからね。


「異名持ちの討伐は無事達成できたし、とーってもいい気分だねぇ。この気分のまま今日の冒険は終わりにしとこうと思うんだけど、そっちはどうだい?」


 私とうるみもリュカさんの意見に賛成だった。


 時間的にそろそろログアウトして、晩御飯の準備をしないと行けない。今日は家に私1人だから……ん? いや、そうだったけ? 何か忘れてはいけない大事な存在を忘れているような?


「うーん……あっ! そうだ! リュカさんに戰の詳しいルールを教えてもらおうと思ってたんです!」


 本当は下山中に聞くつもりだったけど、風が気持ちよくってすっかり忘れていた。


「そういえば、まだ勝利条件しか教えてなかったね。よし! 良い機会だし、ここで全部教えてあげるよ! まずは戦場となるフィールドの説明といこうじゃないか!」


 リュカさんは私たちにも見えやすいように、フィールドマップを地面に対して水平に展開する。


「戦場となるのは『無の国』の北西にある2つの丘『竹林の双丘(そうきゅう)』。そして、その2つの丘の間に広がる『谷間の平原(へいげん)』さ」


 リュカさんの指さす場所,には2つの膨らみがあり、その間には淡い緑の大地が広がっている。


「それぞれの丘のてっぺんに大将が陣を構え、中央にある平原で主戦力がぶつかり合う……というのが基本的な流れになるね。平原は天然芝みたいに短い草で覆われていて、とっても動き回りやすいんだ。平原の戦いで相手の主力を押し返せる戦力があれば、まず負けはないね」


「なるほど。でも、『烏合の衆』にそれだけの戦力は……」


「ないね! 組合(ギルド)メンバー200人のうち180人くらいが戰に参加してくれたとしても、『隙間の郎党』及び仲間の組合たちを正面から突破するのは難しいと思う。むしろ、突破されないことに神経を集中させないといけない」


「じゃあ、かなり厳しい戦いになりそうですね……」


「まあ、それは元より覚悟の上さ! それにトラヒメちゃんが戦うのはこの平原じゃないから安心してくれていいよ」


「えっ!? そうなんですか!?」


 てっきり大河ドラマみたいに平原のど真ん中で敵味方入り乱れて戦うことになると思ってた!


「トラヒメちゃんは丘に陣取るザイリンを奇襲してほしいの。マップだと少しわかりにくいけど、草原の周りは森林地帯で、木々に身を隠しながら相手の陣がある丘に接近できる。丘もまた竹林に覆われている部分が多いから、上手く竹の中を駆け抜ければ一気に大将を狙えるってわけ!」


「ほほう……! それは魅力的な提案ですね!」


 一気に敵の大将を狙おうという発想が好きだし、私が一番戦いたいのはザイリンだ。幹部だからといって今更ズズマやジャビと戦ってもイマイチ盛り上がらない。すぐにザイリンと戦えるこの奇襲作戦は、私からしても願ったり叶ったりの作戦だ!


 しかし、魅力的な作戦には決まって穴があるもの……。この作戦も1つだけ不安要素がある。


「私、こう見えて結構方向音痴なんですよね……。ザイリンに勝つ自信はあるんですけど、それ以前に上手く敵陣までたどり着けるか、ちょっと不安で……」


「大丈夫! ちゃんとトラヒメちゃんの案内と護衛を務める部隊を用意してあるよ! 私たちだって大事なトラヒメちゃんを1人で突っ込ませようなんて思っちゃいないさ!」


「そうだったんですか……!」


「ただし、そんなに数は多くないよ。奇襲に人数を割くと正面突破される可能性が高まるからね。あくまでも敵陣への案内と、ザイリンの周りを固めている護衛を排除することを目的とした部隊だってことは覚えておいてね」


「了解です!」


 案内だけじゃなくてザイリンの周りの敵まで排除してくれるなんて十分すぎる。これで私は自分の役目を果たすことだけに集中できる……!


「戦場の説明はこんなところね。あと言うことがあるとすれば、戰が行われているフィールドに部外者は入れないってことかな。部外者にすれば冒険できる場所を奪われて迷惑だろうけど、戰の様子は生配信されるから、熱い戦いを観て楽しんでねってことになるね」


 戰の生配信か……。確か『電脳戦国絵巻』の人気コンテンツなのよね。全世界に私が戦う様子が発信されると思うと、無様な戦いは見せられないって気分になる!


 一方で、負けたとしても負けたのはリアルの私じゃなくてトラヒメだから、何も恥ずかしいことはないと考えることもできる。リラックスして、いつも通り……立ち塞がる敵を全部ぶった斬ってやる!


「さて、次は決着がついた後のやり取りを教えようかね。知ってると思うけど、戰の戦利品については戰を取り決めた時点で決定されているんだ。今回の場合は『敗北陣営のプレイヤー1人につき装備か技能を1つと5000両を勝利陣営に譲渡する』ということになっているよ」


 つまり、敗北すれば陣営の全員が損をするということだ。1人につき装備か技能1つ奪われるということは、言ってしまえばツジギリ・システムで殺されるのと変わらない。しかし、戰ではそれが人数分発生する。


 もし、『烏合の衆』の全メンバー200人が参加して負けたとすれば、200個の装備か技能が『隙間の郎党』とその仲間たちの手に渡る。そう考えると、勝敗がお互いに与える影響は大きいと言わざるを得ない……!


 さらに1人につき5000両も支払わなければならない。5000両とは、ズズマを倒した仕置き金2500両の2倍だ!


 ……この表現だと大したことないように聞こえてしまうけど、ズズマだって並のプレイヤーよりは強い。それにこちらも最大200人規模のお金の移動になる。その合計金額は100万両に及ぶんだ!


 これだけデカい代償と報酬を1人の大将の生死で決めるわけだから、そりゃ無関係な人間が無責任に見る分には面白いに決まってる! 戰の観戦に多くの人が熱中するわけだ!


 それにここまでは負けた時のことばかり考えてたけど、勝ちさえすれば私たちへの見返りもすさまじい!


 相手の戦力は最大120人。こちらが勝利した場合は120個の装備か技能、それにお金が120×5000で60万両も手に入る! これはすごい……ん?


「こちらのメンバーが200人集まって勝利した場合でも、得られる装備と技能の数は合計120個になる。ということは、頑張って戦ったのに戦利品が貰えない人も出てくるんですか?」


「あ、その点は問題ないよ。数が多い陣営が勝利した場合は、その数に合わせて追加で装備・技能・お金を支払う決まりになってるからさ!」


「それなら良かったです!」


 ……本当に良いことなのかな?


 今のところ『烏合の衆』のメンバーで戰に参加してくれそうなのは40人と聞いている。『隙間の郎党』連合の120人が揺らぐとは思えないし、現状では多くのものを払わされるのはこちらということに……。


 120÷40の答えは3。

 今回の異名持ち討伐でメンバーが戦う勇気を取り戻してくれなかった場合、『烏合の衆』はこのまま40人で戦うことになり、負けた時は私も3つのものを失う……。


 負けられないなぁ!

 最初から負ける気はなかったけど、その気持ちがより強くなった! たとえ数的不利が変えられない運命でも私は勝つ!


 戰は明後日(あさって)の正午!

 残された時間でさらに強くなれる方法を考えなくては!

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