Data.68 稲妻、走る
「じゃあ、私から見ていきますね!」
うるみはステータスを開き、装備タブと技能タブをチェックする。私とリュカさんはその様子を後ろから覗き込む。
「どうやら、私の撃破報酬はこれみたいです!」
◆裁きの雷
階級:上級 形態:妖術 武具:杖
属性:風雷 念力消費:大 修練値:0/1000
〈天より凄まじい雷を地上に落とす〉
表示されたのは風雷属性の上級技能! ついにうるみは雨だけじゃなくて雷も落とせるようになったということだ!
「早速試し撃ちしてみますね。裁きの雷!」
うるみが杖を掲げると、上空に小さな暗雲が発生。それはゴロゴロと音を立てながら大きくなり、内部の雷の力がピークに達した瞬間、地上へ向けて矢のように鋭い稲妻を走らせた!
「ぎゃああああああっ!?」
思った以上に近くに落ちたのでビックリする私たち。すさまじい轟音もまたリアリティがあるから、本能的に体が反応してしまう。
でも、この迫力だ。攻撃力の方はかなり期待できる。消費念力が『大』というのも、それだけ威力が高いことの裏付けだ。
うるみの攻撃技能は貫通力に優れるけど攻撃範囲がイマイチな【虹の閃光】と、軌道を自由自在にコントロールできるけど威力が低い【蟒蛇水流】が主力だった。
そこへ発動から落雷まで多少タイムラグがある代わりに威力が高い【裁きの雷】が加わることで、攻撃の幅がグッと広がる。ラグに関しては、敵の動きを鈍らせる【呪血の雨】でカバーすることもできそうだしね。
「今度は少し遠くに……裁きの雷!」
うるみの指示を受けて雷雲は数メートル離れたところに発生し、その真下に向けて雷が落ちた。
「ちゃんと狙った位置に雷を落とすこともできるみたいですね」
「そりゃよかった! じゃあ、次はアタシの番かな!」
リュカさんはザッとステータスを確認し、すぐに新しい技能を発見した。
◆紙片嵐舞
階級:上級 形態:妖術 武具:本
属性:風雷 念力消費:中 修練値:0/1000
〈念力の風に乗って舞う無数の紙片が自らを守る盾となる〉
「風雷属性の中でも『風』の方に寄った防御技能っぽいねぇ。まっ、こういうのは説明を読むより、実際に発動した方が理解が早い! 紙片嵐舞!」
発動と同時に、リュカさんの武具である本から無数のページがちぎれ飛ぶ! うわぁ、もったいない……!
でも、ページを失ってるはずの本が薄くなることはないし、ちぎれとんだページたちはリュカさんから離れることなく、その体の周りをぐるぐると回り続けている。
「なるほど、このページの1枚1枚が盾ってわけだ。流石に薄くて耐久力は低そうだけど、これだけ枚数があれば軽い攻撃や不意打ちくらいは防げそうだね。召喚獣をメインにした本使いは自分自身への意識が薄くなりがちだし、なかなか悪くない報酬じゃないか」
リュカさんは戰において大将を務める。つまり、リュカさんが死んだ瞬間、私たちの敗北が決定する。そう考えると、今ここで身を守る技能を得られたのは大きいと思う。不意打ちだろうと、死んでしまったら負けは負けだもの。
「あとは効果持続時間が長かったら万々歳だね。【硬化術】よりも手軽な防御技能として働いてくれそうだよ」
「では、最後は私ですね!」
私の撃破報酬もみんなと同じく技能だった!
◆雷兎月蹴撃
階級:上級 形態:体術 武具:全
属性:風雷 念力消費:大 修練値:0/1000
〈兎のように跳び上がり、空中から稲妻の如き蹴りを繰り出す〉
この名前、この雰囲気、この説明!
まさか、この技能はあの飛脚の万雷兎が使っていたキックじゃないの!?
「雷兎月蹴撃!」
テンションが上がった私は、深く考える前に技能を発動していた! リュカさんも言ってたじゃない。『こういうのは説明を読むより、実際に発動した方が理解が早い』ってね!
「うおおおおおおおおおっ!!」
力みなぎる脚で、強く大地を蹴る! ぴょーんと宙に舞った私は、勢いそのままにくるりと宙返りを決める。そして、右足を地面の方に突き出し、ヒーローのキックのような姿勢をとる!
「やああああああああっ!!」
誰もいない地面に狙いを定め、稲妻のごとく一気に落ちる! 足が地面と接触した瞬間、山が震え、白煙が立ち上る……ことはなかった。
衝撃はそれなりにあったけど、この大きな山を震わせるほどじゃないし、立ち上るのは白煙というより土煙という感じだ。
まあ、異名持ちの必殺技とまったく同じ性能ってわけにはいかないよね! ジャンプの高さも万雷兎より低かったし、この技能はあのキックを少し控えめにしたバージョンのようだ。
でも、ある程度は同じというのなら、もしかして……。
「稲妻スライディング……できる!」
私の体から稲妻がほとばしり、地面をすさまじい勢いで滑る! やはり移動距離と速さは本家に及ばないけど、それが逆に使いやすいかも!
さらにスライディングは途中でキャンセルできるから、発動とキャンセルを繰り返し、稲妻のようにジグザグ滑ることも可能! しかも、早めにキャンセルすれば消費した念力の一部が返ってくる!
とはいえ、元々の消費念力が『大』なので、キャンセルしても【雷虎影斬】と同等の念力を失ってしまう。使いどころを見誤って連続発動なんてした時には、一気に戦況が不利に傾いてしまう。まあ、それも含めてこの技能は面白い!
ジャンプキックとスライディングキックを使い分け、状況に応じてキャンセルも織り交ぜれば、攻撃だけでなく私が追い求めていた移動系の技能としても活用できる。
また、刀を必要としない技能だから、緊急時に一時撤退する時や、相性の問題で刀が通用しない敵が出てきた時にも活躍できる。消費念力的に威力も期待できそうだしね。
「うーん、一気に戦いの幅が広がったな!」
2日後の戰までに新しく手に入れた技能に慣れてしまえば、あのザイリンをぶった斬ることだってそう難しくはない!
「どうやら、トラヒメちゃんにとっては最高の報酬だったみたいだね」
「はい! これも異名持ちの討伐に誘ってくれたリュカさんのおかげです! この恩は『烏合の衆』の勝利という形で返そうと思います!」
「な、なんて頼もしい言葉……! 大船に乗ったつもりでいるからね!」
「ええ、任せてください!」
実りのある戦いを終えた私たちは、優雅蝶に乗って山を下る。『惨堕亞暴琉斗』との戦いもあったから、想像以上に長い時間遊んでる。今日は『いろはに町』に戻らず、山のふもとの『月下村』でログアウトするとしようかな。





