Data.67 まだ見ぬ星
「あ、終わった」
私が地上に降り立った瞬間、万雷兎に変化があった。体力がゼロになったことにより、異名持ち特有の専用撃破演出が始まったんだ。
月から伸びる光の柱に照らされた万雷兎の体は、みょんみょんみょんと妙な音を立てながら月へと昇っていく。まるでUFOにさらわれる家畜のように!
「やっぱりウサギじゃなくて宇宙人だったのかも……」
万雷兎はそのまま月に吸い込まれて消えた。
地上に視線を戻すと、そこには籠手が転がっていた。手の甲と腕を守る金属製のプレート部分には、激しい雷と吹きすさぶ風がそれぞれ金色と銀色で描かれている。
赤鬼の時と同じパターンなら、この装備はレアドロップであって撃破報酬ではない。撃破報酬はすでに装備タブか技能タブに登録されているはずだ。
レアドロップも撃破報酬も早くチェックしたい気持ちはあるけど、まずは……。
「お疲れ様です! いやぁ、強敵だった……」
死闘を制した仲間と勝利の喜びを分かち合う。これはとても大事なことだ!
「本当ですね……! 紅血鬼の時もなかなか大変でしたけど、今回に比べれば楽だったと言わざるを得ません。もちろん、戦闘スタイルや属性の違い、私たちとの相性などを考えると、単純には比較できませんが……」
「一応は紅血鬼と戦ったことがあるアタシから言わせてもらっても、今回のウサギさんはめちゃくちゃ強かったねぇ……。これがもし『悪鬼の森』の方にいたら、村に逃げ込む前に全滅してたよ」
やっぱり、異名持ちの中にも強い弱いがあるのね……。でも、それは戦ってみないとわからない。異名持ちとの戦いは常にハイリスクハイリターンだ。
ということで、ハイリスクを乗り越えて得たリターンである籠手をチェックしてみよう!
◆疾風迅雷の籠手
種類:装飾 評価:三つ星
装備技能:【風雷増強Ⅲ】【風雷拳】
〈激しい風と雷の力を封じ込めた籠手〉
【風雷増強】! それも『Ⅲ』!
私の【雷虎影斬】がまたまた強くなっちゃうぞ!
「レアドロップが三つ星の装飾ってことは、あの万雷兎も強さのカテゴリーでは紅血鬼と同じってことですね」
喜んでいる私の隣で、うるみが興味深いことを言った。
「どういうこと?」
「敵が強ければ強いほど、撃破した時に得られるものも強くなる。それはつまり、得られるものの強さで敵の強さを測れるということです。紅血鬼のレアドロップは三つ星の武具『血判の槌』でしたから、同じ三つ星装備を落とした万雷兎と同カテゴリーと言えるんです」
「なるほど~。もっと強い奴らは四つ星とか五つ星の装備を落とすってことだ」
「そうですね。ただ、四つ星装備を落とすような強敵は、このゲームが始まってから今日までに片手で数えられるくらいしか討伐されていません。五つ星に至っては……おそらく、まだ倒せるプレイヤーが存在しないと考えられます」
今だ誰も倒すことができないほどの強敵が、この世界にはいるってことか……。三つ星の異名持ちを2体倒している私でも、流石にこれ以上の強敵を倒せる自信はまだない。あくまでも『まだ』だけどね……!
こうやって強敵を倒して強い装備や技能を手に入れて、さらなる強敵に挑み続けていれば、いずれは四つ星や五つ星にも手が届くだろう。今日もまた明日に繋がる一歩というわけだ。
「あっ、でも、レアドロップって撃破報酬と違って1つしかないんですよね?」
私はハッとなってリュカさんに尋ねる。1つしかレアドロップが存在しないのなら、この籠手は私が受け取っていいものとは限らない。
「そうだね。討伐に参加した人数や貢献度によって報酬のレアリティが変わる撃破報酬と違って、レアドロップは何百人参戦していようが出現するのは1つ。そして、レアリティも変わらない。だからこそ、魔物の強さを測る指標になるわけだよ」
「じゃあ、この籠手は……」
「もちろん、トラヒメちゃんのものだよ」
「でも、今回の戦いで一番活躍したのはリュカさんです。正直、私はあまり……」
「いやいや、今回の戦いはみんなのおかげで勝てたのさ。それにアタシは異名持ちを討伐できた時点で大きな目標を果たしている。今頃、大高札にはアタシたち3人が『飛脚の万雷兎』を討伐したという情報が張り出されているはず! それを見れば、戦意を失っている『烏合の衆』の仲間たちも、きっと奮い立ってくれる……! それで十分なのさ!」
「そういうことでしたら、ありがたく……いや、うるみはどう思う?」
うるみだって【虹の閃光】で万雷兎にダメージを与えていた。それに私がいろいろ作戦を考えられたのは、万雷兎がうるみの方をよく狙っていたからだ。その活躍を考慮すれば、彼女にも籠手を受け取る権利はある。
「私もトラヒメさんが受け取るべきものだと思います。私とリュカさんよりも属性的に上手く使いこなせるでしょうし、戰を考えればザイリンを直接斬りに行くトラヒメさんを強化するのがベターですから」
そうか、そろそろ本格的に戰を意識しないといけないのね。とりあえず、お互いの陣営に大将が存在し、その大将を先に倒された陣営が負けというルールは把握している。そして、敵の大将であるザイリンを倒すのが私の役目だということも……!
でも、本番までにはもっと細かいルールも勉強しとかないといけないな。この山からの帰り道にでも、リュカさんに教えてもらうとしよう。
「では、ありがたく受け取らせていただきます!」
装備している静電の腕輪を外し、新たに疾風迅雷の籠手を装備する。
金属プレートが入っているのでそれなりに重いと思いきや、その着け心地は非常に軽い。正直、何も着けていない時と変わらないくらいだ。指周りも柔軟に動くし、これなら刀を握るのにも振るのにも支障はない!
あと気になる部分といえば、装備技能の【風雷拳】くらいだ。
◆風雷拳
階級:下級 形態:体術 武具:全
属性:風雷 念力消費:小
〈拳に風と雷をまとわせる〉
おっ、思ったよりこじんまりとした技能だ。メインは【風雷増強Ⅲ】の方で、こっちはおまけみたいなものかな? その効果も名前のまんまでひねりがないし、威力もおそらく高くはない。
でも、どんな武具を装備していても発動できる懐の広さがある。逆になんの武具も持っていない、刀を落としてしまった時なんかでもこの技能だけは発動できる。そう考えると、おまけとしては十分すぎる性能を持っているのかもしれない。
レアドロップである疾風迅雷の籠手だけでも結構な強化になったけど、私たちにはまだ撃破報酬がある。3人それぞれがどんな力を手に入れたのか、チェックしておかないとね!





