Data.64 ウサギ狩り
「とりあえず今は……逃げる!」
立ち止まって考えさせてくれるほど、あのウサギさんは甘くない。上空でキックの体勢に入った後、落ちて来るまでのスピードはなかなかのものだ。それこそ、まさに稲妻のよう……!
《ピヤァァァァァァァァーーーーーーッ!!》
奇妙な鳴き声と共に繰り出されるキック!
またもや山が震え、白煙が立ちのぼる。
今のところ1つだけ良い情報があるとすれば、この山の地面は本当に硬いということだ。あのキックの直撃を受けても、表面が削れて土煙が上がるだけで済んでいる。逃げているうちに足場をどんどん削られていく……みたいな展開はなさそうね。
しかし、逃げるだけでは勝ちもない。どうにかして、このジャンプとキックのループを断ち斬らねば……!
「トラヒメちゃん、うるみちゃん、アタシに良い考えがある。詳しく説明したいところだけど、時間的に余裕がない。ただ、次のキックを回避した後、攻撃する準備をしておいて」
リュカさんが真剣な顔で言う。どういう考えなのか、私にはまったく想像できないけど、このリュカさんの表情は信用できる! 言われた通り、次のウサギのキックの後は攻撃を行う!
白煙を吹き飛ばして、またウサギが宙を舞う。回避にだけ専念すれば、避けきれない攻撃ではない。私とうるみはウサギの落下地点を予測し、そこから十分に距離を取る。しかし、リュカさんはその途中で立ち止まった!
「硬化術・金!」
リュカさんの体が淡い金色のオーラに覆われる。【硬化術】って確か、長草原の戦いの後に私もゲットした覚えがある。その効果は『敏捷性が低下する代わりに防御力を上昇させる』というものだったはず……。
私は敏捷性が下がるのはすっごく困るということで、すぐ【虎影斬】の修練値にしちゃったけど、召喚獣をメインに戦い、移動も召喚獣を使うリュカさんにとっては、ほぼほぼリスクなしで防御力を上げられる技能というわけね。
しかし、いくら防御力を上げてもダメージはゼロにならない。というか、今回の場合はウサギの攻撃力が高すぎて、防御を固めた状態でも大ダメージを負う確率が高い。なのになぜ、落下地点の近くでウサギを待つんだろう……。
疑問はあったし、不安もあった。
でも、ここはリュカさんを信じる!
三度目のウサギキックで山が震える。リュカさんはその余波で吹っ飛ばされることなく、さらにウサギへと近づいていく……!
「縄状百足! ボール・アンド・チェーン!」
リュカさんの体から伸びた縄のようなムカデが、ウサギの足首に絡みついた! まさか、あれでウサギを引っ張って動きを止めるつもりなの!?
ウサギはあの赤鬼よりは小さく、全長は3メートルくらい。体つきは細身で、下半身だけがガッチリしている。でも、リュカさんよりは間違いなく重い! 跳ぶ力だって強いから、プレイヤーが1人足にくっついたくらいでは……!
ここままじゃ、リュカさんを連れて上空へ跳び上がり、落下ダメージで彼女が死んでしまう! かくなる上は突撃を……!
「さあ! 今のうちに攻撃して!」
リュカさんからも攻撃命令が出る。私は一心不乱に駆け出した。だが、当然ウサギは跳躍のために深くしゃがみ込む。このままでは到底間に合わない……!
……と思いきや、ウサギは軽く数メートル飛んだだけで地面に着地した。リュカさんも一緒に軽く浮かび上がった後、地面に叩きつけられたが死んではいない!
「か、顔から落ちちゃった……。で、でも、【硬化術・金】があればまだまだ大丈夫……! この技能は動きが遅くなる代わりに防御力がすごく上がるだけじゃなくて、自分の重量も増加するんだよ! だから、私が落下ダメージの蓄積で死ぬまでの間は、こいつの足枷になれる!」
あの【硬化術】にそんな隠された効果が!
どんな技能も使い手と使いどころ次第ということね……!
跳ぶことができず、地面を削り取って白煙を起こすこともできなくなった今、ようやく飛脚の万雷兎の顔をしっかり拝むことができた。
ベースはウサギの顔だが、鋭く出っ張った前歯が凶悪で、黒目だけの目がグレイ型宇宙人を連想させて非常に不気味だ。お世辞にもかわいいとは言えない。まあ、かわいい敵は斬りにくいから、悪そうな奴の方がありがたいんだけどね。
「さて、ウサギ狩りだ!」
跳べないウサギはただのウサギだ!
接近して斬り刻めばいい!
だが、相手はただのウサギではなく異名持ちだった。跳ぶことをスッパリと諦めたウサギは、リュカさんを引きずりながらスプリンターのように走り出した!
「ぎゃあああああああああっ! アタシのはだけた着物からのぞく玉のような素肌が削れちゃううううううっ!」
リュカさんの受難はそれだけでは終わらなかった。ウサギはキックのタイプを変更し、地面を滑るような蹴り……すなわち、稲妻スライディングキックで私たちに襲いかかってきた!
「どうしてこう異名持ちって足技に自信アリなのかしら!」
赤鬼の時も足元に潜り込んで脚を斬っていたら、フェイントを入れつつサッカーボールのように蹴り飛ばされそうになったことがある。
ただ、今回の危険度はそれの比ではない。稲妻スライディングキックは意識を集中させていないと回避できないレベルのスピードだ!
「でも、とにかく敵は地上にいるんだ。さっきまでより事態は好転している!」
地上にいてくれさえすれば刃は届く!
ここから活路を見いだすんだ!





