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Data.63 満月の山頂

 『月読山』の山頂は深い霧に覆われていて見えない。いや、山の標高を考えれば、霧というより雲なのかもしれない。


 優雅蝶は山肌に沿ってぐんぐん高度を上げ、ついに背の高い木が生えていない山の森林限界にまで到達した。流石にここまで来ると石を投げてくるサルも出ず、地上には鹿の群れや熊がちらほら見えるくらいだ。


 しかし、空となると話は違う。高いところには鳥型のモンスターが多く、山頂を目指す優雅蝶にとって大きな脅威となる。特に口から雷を吐き出す『雷々鳥(らいらいちょう)』や、羽をマシンガンのように撃ち出してくる『荒羽撒鷲(あらばまわし)』などは、優雅蝶の【誘蛾鱗粉弾(ゆうがりんぷんだん)】を撃ち落してしまうので動きを鈍らせることができず、苦戦を強いられた。


 そこで活躍したのが【虹の閃光】だ。攻撃範囲と威力が増した光線は、鳥型モンスターの翼をやすやすと貫く! 飛べることが最大の強みである鳥型モンスターにとって、翼への大きなダメージはそのまま死に直結する。


 光が走るたびに群がる鳥が地に落ちる。光が私たちの進路を切り開く!


 まあ、つまり……私の出番が全然ないのよね……。雷や無数の羽はサルが投げてきた石みたいに打ち返せないから、ただただ振り落とされないように優雅蝶の座席にしがみついているだけだった……。


 逆にうるみは【虹の閃光】をより正確に当てる練習も兼ねて、鳥型モンスターたちを撃ち落しまくった。その姿を見ていると、私も1つくらい射撃系の技能が欲しいなぁと思わざるを得ない。例えば『飛ぶ斬撃』みたいな技能があれば私も……!


 そんなことを考えていると、優雅蝶が山頂を覆う雲に突っ込んでいた。しばらく視界が真っ白になった後、私たちを待ち受けていたのは……満月が浮かぶ夜空。そして、草一つ生えていない白い山肌だった!


「時間的にはまだ夕方のはずなのに、これは……!」


「このフィールドは外界の影響を受けない特殊な空間なんですね……」


「常に夜で満月が浮かぶ場所……か。ロマンチックではあるんだけど、アタシたちはお月見に来たわけじゃあないんだよね!」


 全員が神経を尖らせ、周囲を警戒する。もちろん意識しているのは異名持ち『飛脚の万雷兎』の存在だ。パッと見た感じだと、この山頂に生命の気配はない。それこそ植物の気配すら……。


 情報源があのゼトさんじゃなければ、ガセネタを掴まされたと思ってしまいそうなほど、山頂は静寂の中にあった。


 優雅蝶に乗ったまま、山頂付近をぐるりと回る。山頂の地形は平らで、中央に向けて少しだけ傾斜がある。例えるなら、コマをぶつけて戦わせるためのフィールドみたいだ。


 あれなら多少吹っ飛ばされても傾斜のおかげで滑落しにくいし、降りて戦うには最適な地形に見える。それはつまり、戦う相手も用意されているということ……!


「とりあえず、降りてみないことには始まらなさそうだねぇ……」


 リュカさんは意を決して優雅蝶を山頂に下ろした。地面は白く硬く、上から見るよりもずっと広く感じた。まるで月面の巨大クレーターの中にいるみたいだ。


 でも、月は夜空に浮かんでるんだよね……。


「……ん?」


 金色に輝く月を背に、白い物体がこちらに迫って来ている。なるほど、ウサギさんだからお月様からやってくるってことなのね。なかなか粋な演出じゃない。


 みんな敵の位置を察したようで、それぞれの武器を構えて狙いを定める。白い物体はどんどん大きくなり、その特徴的な長い耳や発達した後ろ足がハッキリ見えるようになってきた。


 今現在、飛脚の万雷兎は片方の前足をこちらに突き出し、まるでヒーローのキックのような姿勢で真っすぐこちらに突っ込んできている。体からは稲妻がほとばしり、その落下速度はどんどん上がっているように思える。


「……みんな、散れ!」


 これは登場演出じゃない!

 れっきとした攻撃だ!


 あの高さ、あの速度で繰り出されるキックを受け止めるパワーは私たちにない! 今は少しでもウサギの落下地点から離れるんだ!


「来るよ……!」


 右足から地面に衝突したウサギ。その衝撃はすさまじく、山が震える……! 落下地点にはもうもうと白煙が立ち上り、バチバチと稲妻が走る。もはや、ちょっとした隕石くらいのパワーだ!


「今の攻撃で足でもくじいて(・・・・)くれたらいいんだけど……」


 まあ、そんなことはなかった。白煙の中に浮かび上がる二足歩行のウサギのシルエット。上半身に対して下半身が異常に発達したその姿は、『私は足技に特化してます』と言わんばかりね。実際、あのキックを食らったら間違いなく即死しそうだけど……。


「うるみ、リュカさん、先手必勝よ。こういうタイプは動きを鈍らせるに限る!」


 私の言葉に2人はうなずき、それぞれ【呪血の雨】と【誘蛾鱗粉弾】を発動する。だが、この時点で私たちの動きは遅すぎた。


 白煙を吹き飛ばしながら再びウサギは空を舞う。月を背に高く高く跳び上がり、またもやキックの体勢に入った!


「まさか、この攻撃パターンを繰り返してくるの!?」


 あんな高いところまで跳ばれたら当然刃は届かない。着地を狙おうにも衝撃とスパークが激しすぎて、落下地点の近くで待機することもできない。でも、離れた場所からでは接近する前にまた跳ばれてしまう……!


 飛び道具があるうるみとリュカさんなら、空中のウサギにも攻撃が届くかもしれない。でも、近接戦闘用の技能しかない私は……。


「万事休す……なわけない!」


 きっと私にもできることがあるはずだ。考えろ、考えろ……。あのウサギを確実にぶった斬れる方法を!

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