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Data.62 進化する光

 飛び立つリュカさんを見送った後、私たちは戦利品のチェックに入った。


 ツジギリ・システムを発動したプレイヤーを2人撃破したわけだから、装備か技能を2つ入手しているはずだ。それにデスペナルティで落とした道具類も拾ってあるから、場合によってはかなりのステータス強化が望める……!


「えっと、技能タブには……弓の中級技能【撃ち方・雨】が追加されてる!」


 これはライオーが使っていた矢を雨のように連続かつ大量に放つ技能だ。使い勝手が良さそうな技能だったし、ライオーにとっては痛い損失だと思うけど、ツジギリ・システムはそのリスクも含めて1つのシステムだからねぇ~。


「ん-と、技能は1つだけかな。じゃあ、装備タブ……って、こっちは何も追加されてない!?」


 装備一覧には見慣れた装備しか並んでいない。ツジギリ・システム発動者を2人倒したわけだから、手に入るものは2つのはずなのに……!


「うるみ、こういうことってあるの……?」


「ありません! この場合はおそらく……道具タブを開けば答えがわかると思います」


 うるみに言われて通り道具タブを開くと、一覧の中に『敏捷増強Ⅱの巻物』という無視することができない道具が入っていた! でも、道具は共通のデスペナルティで落とすものであって、ツジギリ・システムのペナルティとは関係が……。


「習得している技能と同じ技能は習得することができない。電脳戦国絵巻の基本ルールです」


「……あっ!」


 つまり、サハラからは中級技能【敏捷増強Ⅱ】を奪ったわけだ。しかし、私もまた【敏捷増強Ⅱ】を習得している。同じ技能を2つ習得することはできないから、奪った分は巻物になって道具の方に収納されていたんだ!


「巻物も技能と同じく消費することで修練値に変換することができます。習得している技能と同じ巻物を手に入れても、決して無駄にはなりません」


「それはありがたいね。拾った道具の中には『上級指南書』もあったし、そろそろ【雷虎影斬】を上級技能にランクアップさせたいなぁ~」


 とはいえ、中級技能の修練値は0/200だ。これをMAXにするには1つで40の修練値になる中級技能を5つ消費する必要がある。手元にあるのはまだ2つだし、先は遠いかも……。でも、間違いなく前進しているのは事実だ!


「うるみの方はどうなの?」


 視線の先のうるみは……震えていた。それが何の震えなのかは判断できないけど、少なくとも今回の戦利品が関係しているのは間違いなかった。


「えっと……大丈夫?」


「つ、ついに来ましたよ……! 私の手元にも『中級指南書』が! これで【虹の閃】を昇級させることができます!」


「おおっ! それはすごい!」


 うるみのお気に入り技能であり、戦術的にも重要な役割を担う光属性の下級技能【虹の閃】。その修練値はダンジョン『滝の裏の遺跡:裏』で手に入れた不要な中級技能【大遠投】を消費することでMAXにすることができる。


 足りないのは『中級指南書』だけだったんだ。それを異名持ちとの戦いを控えたこのタイミングで手に入れたとあらば、嬉しくて震えるのも無理はない!


「今すぐ昇級させます! えいっ!」


《技能昇級! 下級技能【虹の閃】は中級技能【虹の閃光(せんこう)】に昇級しました!》


 なんと変化の少ない直球なネーミング! でもそれは技能の性能が変にアレンジされることなく、純粋に強化されていることを表している!


「早速試し撃ちしてみますね!」


 うるみは少し離れたところに転がっている大きな岩に狙いを定め、右手に持った杖を突き出した!


「虹の閃光!」


 杖の先端から放たれたまばゆい光は、何事にも邪魔されることなく直進し、大岩の真ん中に風穴を開けた! その穴の大きさを見れば、【虹の閃】よりも攻撃範囲が拡大していることがわかる!


 具体的に言えば、人間の拳程度の攻撃範囲から、人間の頭より一回り大きい範囲を攻撃できるようになった。そんなに爆発的に広がったわけじゃないけど、攻撃範囲が広くなればそれだけ当てやすくなり、直撃時のダメージも大きくなる!


 そして何より、【虹の閃】の時と使い勝手が変わってなさそうなのが大きい。光だけあって発動から着弾までが速く、貫通力にも優れているという強みはそのままだ。昇級した途端、今までとまったく違う使い方を求められたって困るからね。


「うん! うん! これなら異名持ちが相手でも負ける気がしませんよトラヒメさん!」


「ふふっ、頼りにしてるね」


 私は現段階で強化はできなかったけど、うるみが強くなってくれるのは嬉しい。私の戦闘スタイルではどうしようもない遠距離攻撃を(にな)ってくれるから……というのもあるし、純粋にゲーム友達が楽しそうにしている姿は良いものだ。


「ごめーん! 遅くなった!」


 優雅蝶に乗ったリュカさんが帰還する。でも、その表情は冴えない。


「ザッと探してみたんだけど、崖の下に道具らしきものは落ちてなかったよ……。敵を叩き落したのは確かだし、ゲーム側も私によって生み出された落下ダメージで敵が死んだと認識して、技能を1つ奪い取っている……。なのに道具だけがどこにも落ちてないんだよね……」


「うるみ、こういうことってあるの?」


「相手が道具を1つも持っていなければありえます。でも、今回の敵は中堅組合(ギルド)惨堕亞暴琉斗(さんだーぼると)』のメンバーで、その目的はおそらく私たちと同じく異名持ちの討伐だったはず……。ならば、普通はたんまりと回復道具を持ち歩くはずです」


「だよね~。でも、本当に回復道具の1つも落ちてないんだよ。私はよく道具を使うから、転がってれば本能的に視界に捉えることができるはずなんだけど……衰えたかな……」


 確かに不可解な現象だけど、リュカさん曰く『戦闘の流れの中で叩き落したから、落下ダメージで死ぬ瞬間を見たわけじゃないのよね』とのことだ。もしかしたら、落ちた位置が思っていたよりもズレているのかもしれない。


 きっと、捜索範囲を広げて時間をかければ見つかると思うけど、それをせずに戻って来たということは、道具の回収よりも本来の目的を優先するということだ。


「切り替えていくよ。邪魔が入ったけど、これから私たちは当初の目的通り、この『月読山』の山頂に巣くう異名持ち『飛脚の万雷兎(ばんらいと)』を狩る! 準備はいいかい!?」


「いつでもどうぞ!」


「問題ないです!」


 優雅蝶に乗り込み、私たちは邪魔者がいなくなった山を頂上に向かって飛ぶ!

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