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Data.61 リュカの流儀

「ま、マタの兄貴……大丈夫かっ!?」


「ぐおぉ……ぐふぅ……っ!」


 蛮骨蜂の針は確かにマタサブロウの胸を貫いたが、そこは中堅組合(ギルド)の幹部クラス。弱点を突かれたとはいえ一撃で即死することはない。


 しかし、問題は彼の体内に入った液体の方だった。蛮骨蜂の針は毒を分泌することができ、その毒は『麻痺』と『猛毒』の状態異常を付与する。


 麻痺は『長草原』の戦いでトラヒメが食らったものと同じく、時間と共に体が痺れて動きにくくなる効果があり、猛毒は時間と共にじわじわと体力を削っていく効果がある。


 どちらもカスった程度では致命傷にならない状態異常だが、マタサブロウは急所である心臓に直接撃ち込まれてしまった。弱点に対する攻撃でダメージが増加するように、状態異常もまたその効果を強めた状態でマタサブロウに付与された。


 彼はもうすでに満足に体を動かせず、回復しなければこのまま死に至る状態にある。


「クソォ……ッ! よくも兄貴を! このクソ蜂めぇ!!」


 カゼサブロウは銃を撃ち鳴らして蛮骨蜂を遠ざける。まだ彼の兄貴は死んでいない。常備している回復道具の数々を使えば問題なく戦闘を続けられる。回復の効果が現れるまで、俺が兄貴を守る……彼はそう決意した。


「こっちを狙えムシババア! 俺が相手になってやる!」


「初めからお前狙いだよ」


「な、なにっ……?」


 蛮骨蜂に抱えられ滞空しているリュカから、縄のようなものがカゼサブロウに向けて放たれた。その縄はまるで意志があるかのようにカゼサブロウに絡みつき、その無数の足でガッチリと彼をホールドした。


「これは……ムカデ!? き、気持ちわりぃぃぃ……!」


縄状百足(じょうじょうむかで)……フォール!」


 リュカは【縄状百足】で捕まえたカゼサブロウを空中へと引っ張り上げ、そのまま蛮骨蜂を大回転! ぶんぶんと十分にスイングした後、近くにある崖へと放り投げた! カゼサブロウに飛行の技能はない!


「うわあああああああああああああああーーーーーーーーーッ!!」


 断末魔の悲鳴と共に、彼の体は崖の下へと落ちていった。この高さからの落下……地面に激突した時のダメージは、防具などで防げはしないだろう。


「ババアで悪かったね。おばさん非力だから、状態異常や自然の力を上手く使わないと勝てないんだよ。おかげで組合(ギルド)のみんなからは頼りないと思われてる」


 状態異常に苦しむマタサブロウに再度の【死針骨】でトドメを刺し、リュカはこの不利な状況での戦いに勝利した。


 いや、本来なら彼女にとって深い山の中というのは有利な環境だ。それこそ、敵が2人いようと関係ないほどに……。ただ、それに気づくまでに時間が必要だっただけなのだ。


「トラヒメちゃんとうるみちゃんを助けに行かなきゃ! きっとアタシの助けを待っているはず……! とりあえず念力を回復して……!」


 小瓶の中身をがぶ飲みし、リュカは急ぐ。すでに戦いを終え、特に助けを求めていないトラヒメとうるみの元へ……。


 ◇ ◇ ◇


「トラヒメちゃ~ん! うるみちゃ~ん! どこだ~い!」


 優雅蝶に乗り、空から2人を探すリュカ。こればかりは自分の目に頼るしかない。


 優雅蝶や蛮骨蜂は見えている対象への攻撃命令はそつなくこなすが、どこにいるかわからない仲間を探して連れて来るとか、上手く姿を隠している敵を探し出せとか、複雑で注意深い動きはあまり得意ではない。


 そこはあくまでも上級技能によって生み出された召喚獣。その性能も上級技能の範囲に収まるレベルである。


「……あっ! あそこだけ雨が降り出した! きっとうるみちゃんの雨の技能だねっ!」


 局地的に雨が降る場所に向かうと、そこにはリラックスした様子のトラヒメとうるみがいた。まだ『惨堕亞暴琉斗(さんだーぼると)』の刺客と戦っている最中だと思っていたリュカは、呆気(あっけ)に取られながら地上へと降り立った。


「あ、リュカさん無事だったんですね」


 うるみがリュカの元へ駆け寄る。


「うん、まあ、なんとか無事だったんだけど……2人とも誰かに襲われたりしなかった?」


「ええ、ゼトさんが言っていた『惨堕亞暴琉斗(さんだーぼると)』のメンバーに襲われました。私の相手は1人だったから割と楽でしたけど、トラヒメさんは2人……それも総長と副総長に襲われたみたいで……」


「総長と副総長に!? 私より全然ヤバイ状況じゃない!? でも、生き残ってるってことは、それを倒しちゃったってこと!?」


 目を見開くリュカに対し、トラヒメは照れ笑いを浮かべる。


「えへへ、私もまあそんなには苦戦しませんでしたけどね」


「そ、そうなの……」


 リュカはトラヒメを『末恐ろしい子……!』だと思った。同時に、これほど頼もしい味方はいないと確信した。彼女は天性の人斬りなのだ……!


「アタシたちなら、この山の異名持ちを倒して『隙間の郎党』にだって勝てるはず! さあ、邪魔者はいなくなったわけだし、すぐに山頂を目指すよ!」


「あ、待ってください。私たち今この戦いで得た戦利品をチェックしてたところなんです。装備でも技能でも、もしかしたら異名持ちとの戦いに役立つものがあるんじゃないかと思って」


「それは確かに……あっ!」


 リュカは思い出した。倒した敵のうち1人を崖下にぶん投げたせいで、そいつが死んだ際にばら撒く道具とお金を回収し(そこ)ねていることに。


 道具の中には、昇級指南書のようなレアなものが含まれているかもしれない。仲間の無事と『惨堕亞暴琉斗(さんだーぼると)』の全滅を確認した今、来た道を引き返してでもお金と道具を回収すべきだ。


「じゃあ、2人はここでゆっくり戦利品を確認してて! アタシは回収し忘れた敵の道具を拾ってくるからさ!」


 再び召喚した優雅蝶に乗り込み、リュカは飛び立った。

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