Data.60 リーダーの資質
超久しぶりの更新ですいません!
更新を再開するにあたって今までのお話をすべて見直し、改善すべきと思った部分を改稿する作業を行いました。変更された点が結構多いため、その詳細は作者ページの活動報告の方にまとめてあります。そちらもぜひ読んでいただけると幸いです。
トラヒメとうるみがそれぞれに放たれた刺客と戦っていた頃――。
「どうして誰も助けに来てくれないのよ~!」
リュカもまた『惨堕亞暴琉斗』の刺客に襲われていた。組合『烏合の衆』のリーダーである彼女に差し向けられた刺客は2人。いわゆるバズーカのような武具である『砲』の使い手『マタサブロウ』と、砲カテゴリーの亜種『銃』を扱う『カゼサブロウ』である。
このサブロウ兄弟は『惨堕亞暴琉斗』の中でも総長ライオー、副総長サハラに次ぐ実力者で、連携さえ取れれば総長&副総長コンビにも劣らないと評判だった。
その2人を差し向けられるということは、それだけリュカの実力を『惨堕亞暴琉斗』が評価しているということなのだが、リュカは1人になったことですっかり弱気になり、山の中を駆けずり回ってひたすら逃走を続けていた。
「こ、こう見えても寂しがりやなんだから、1人にされると困っちゃうんだから~!」
リュカは孤独を何よりも嫌う。それはゲーム内でも一緒で、ゆえに誰でも気軽に参加しやすい組合『烏合の衆』を作った。しかし、その『烏合の衆』は今空中分解の危機に瀕している。
『隙間の郎党』の激しい攻撃、起死回生の異名持ち討伐の失敗……。再び組合の結束を強めるためには、勝利という結果が必要だ。この『月読山』の山頂に棲む異名の兎『飛脚の万雷兎』を討伐し、その名声を世に知らしめなければ、『隙間の郎党』との戰に敗れるのは確実……!
リュカも頭ではわかっているが、いざその時になるとヘタレてしまう性格は、どうにもしようがなかった。だが、いつまでも逃げ続けることは叶わない。
(空から見た山の地形は覚えている……。確かこの先にあるのは崖! それも落ちたら落下ダメージで確実に死に至るレベルの崖だ! 2人の刺客が数的有利があるにもかかわらず攻め込んでこないのは、崖に追い込んで確実に仕留めることを優先しているから……!)
もちろん、リュカは優雅蝶で空を飛ぶことができる。念力も不足していない。ただ、相手が2人とも優れた飛び道具の使い手である以上、サイズが大きく派手で目立つ優雅蝶は的にしかならない。崖から飛び立とうとすれば即座に撃ち落とされ、地上へ真っ逆さまなのは容易に想像できる。
それにもしうまく飛び立ち逃げることができたとしても、それはトラヒメたちとの合流を諦めることを意味する。山の地形を把握してるのはリュカだけなのだ。
たとえ『惨堕亞暴琉斗』の刺客をトラヒメたちが返り討ちにしたとしても、リュカがいなければ山頂を目指せず、下山もできず、結果的にリアルのタイムリミットが来てログアウトせざるを得なくなる。
フィールドでのログアウトは、プレイヤーの意識が抜けたアバターが消えることなくその場に残ってしまうため、魔物に襲われてしまう。つまり、実質的な死なのだ。ここでリュカが逃げれば、自分の作戦に乗ってくれたトラヒメたちを見殺しにすることになる……。
そればっかりは、リュカにもできない。たとえ、孤独に耐えながら戦うことになったとしても!
「来いっ……! 蛮骨蜂!」
本のページの中から飛び出したのは、白い骨だけで組み上げられた蜂だった。もちろん、リアルの蜂にこんな立派な骨は存在しないし、サイズだってこの蛮骨蜂のように2メートルもない。
蛮骨蜂はリュカが持つ上級技能【蛮骨蜂召喚】によって呼び出された召喚獣であり、異名技能である【優雅蝶召喚】と並んで彼女の主力となる存在である。
蜂の胴体部分には人間の肋骨のような骨が存在し、そこを開いて中にリュカを挟み込めば、彼女を抱えたまま飛行することも可能だ。しかし、サイズ的に抱えて飛べるのはプレイヤー1人までで、飛行速度や飛行高度は優雅蝶に劣る。
また、優雅蝶のように射撃系の技能を持っておらず、攻撃に転じる場合はお尻の針を使った接近戦を行う必要がある。その場合、胴体に抱え込んだプレイヤーはとても邪魔になる。
「相手が2人いるなら、1人ずつ倒していかないとねぇ!」
リュカは蛮骨蜂に抱えられ、砲を操るマタサブロウに突撃する。銃に比べて砲の方が射程が長く、一発の威力も高い。しかし、連射が難しく砲自体の重量が大きいので、取り回しが悪いという欠点も抱えている。
ゆえに砲の使い手は接近戦が苦手である。リュカはそのことを理解してマタサブロウに攻撃を仕掛けた。だが、そんなわかりやすい弱点は使い手本人が一番自覚している。
「やはり……こっちに来たな」
マタサブロウに焦りはない。冷静に砲を構え、風の弾丸を発射する。それを回避しつつ接近を試みるリュカだったが、無慈悲にも側面から風の銃弾を浴びせられる。攻撃の主は当然もう1人の敵カゼサブロウだ!
「俺たち兄弟は2人とも飛び道具を使ってるんでね。戦いとなりゃ、みんなどっちかの懐に飛び込んで1人ずつ撃破しようとする。そのどちらかに毎回選ばれるのは、愚鈍なイメージのある砲使いの兄貴の方さ。おかげで俺たちは何の合図もなしに連携を行える!」
本来なら焦ってもおかしくない状況で正確な砲撃を続けるサブロウ兄弟。リュカはたまらず木々の葉の間を突き抜け、空へと逃れる!
「馬鹿め! まだ木が障害物になる森の中にいた方がマシだ!」
「狙い撃ちにさせてもらう!」
サブロウ兄弟が空を見上げる。その瞬間、砲のマタサブロウの体を大きな針が貫いた! 背中から腹へと突き抜けたその針は骨のように白く、表面には少し粘り気のある液体が染み出ている。
「兄貴っ!?」
「こ、これはあの蜂の……! しかし、蜂はあそこに……!」
確かに蛮骨蜂はリュカを抱えたまま空にいる。だが、マタサブロウを背後から襲った者の正体もまた蛮骨蜂だ!
「死針骨……スティング! 蛮骨蜂最大の強みは、2体まで同時に召喚出来ること!」
抱えられるプレイヤーは1人だけで、飛び道具を持たない。骨で作られた体は隙間が多く、攻撃を防いでもらおうとしたら、攻撃が骨の間をすり抜けて意味がないこともある。
しかし、優雅蝶と比べて手数は2倍……! 2匹の蜂を自由自在に操れることこそ、この技能がリュカの主力である理由なのだ!
「さっさとあんたら始末して、アタシを待ってる仲間の元に行かせてもらおうか」
その表情に孤独への恐れはない。冷たい瞳で敵を見下ろすその姿は、200人のメンバーを抱える組合のリーダーにふさわしいものだった。





