Data.58 見えざるモノ
「ああああああ……っ!」
サハラの左肩から右腰にかけて刃を滑らせ、袈裟斬りにする! 私が言うのもなんだけど、この一太刀はそんなセクシーなサラシだけで防げるものじゃない!
手ごたえはある……!
これは撃破まで持っていけた!
「……って、ええっ!?」
そのセクシーなサラシが今……ほどけている! いや、私が斬り裂いたから当然か!
サラシがほどけたことによって、抑え込まれていた大きな胸が暴れる。そして、危ない部分が見え……そうで見える前に、サハラの体は赤黒い煙となって消えた。
ああっ、もう! 期待してた私がバカみたい! このゲームは全年齢向けだって!
でも、途中まででも破壊力抜群だったな……。これ小さい子とか大丈夫なのかな? いや、私も世間的には小さい子なんだけどさ。
というか、今までこんなわかりやすく斬ったプレイヤーの服が脱げたことあった?
うーん、ズズマは頭を刺したし関係ないか。でも、ジャビと愉快な仲間たちは、それなりに胴も斬ったはず……。特にジャビ本人は首から股にかけてを叩き斬っているし、服も真っ二つになっているはずなんだけど……。
私は男の裸に興味がないから覚えていないか、すぐに記憶を消去したのかもしれないな。だって、見たくないもん! 覚えておきたくもない!
シュッ――!
「ぐええっ!?」
私の肩に……矢が刺さっている! いきなりのことだったので、女の子らしくない汚い悲鳴が出てしまった! くっ……戦いの最中に敵の裸に見惚れてる私が悪いか!
前衛のサハラがいなくなった以上、もうライオーが誤射を気にする必要はなくなった。ここからは容赦ない矢が飛んでくることになる! ここはまた木の陰に隠れよう……!
「サハラの犠牲……無駄にはせん! 必ずこの猛虎を仕留めてみせようぞ!」
まさに矢継ぎ早に矢が飛んで来る! もしかして、矢は無尽蔵なのか? なら、弾切れを待つというのは得策ではなさそうね。
ここは正攻法……つまり、接近して斬るのが一番確実だ。もうサハラの横槍を気にする必要はなくなったもの。武具を鹿角刀に持ち替え、木々の間を抜けて接近を試みる!
「ムゥ……! すばしっこい奴め!」
【敏捷増強】は機能している。足運びが、身のこなしが、理想に近くなっている。この速さの私に矢を当てるのは、よほどの達人でもない限り難しいはず。
そもそも弓矢はソロプレイ向きの武具じゃない。頼れる前衛がいてこそ機能する。サハラを失った時点でこの勝負は見えているんだ。もう少し……もう少しでライオーをこの刃の範囲に捉え、戦いを終わらせることが出来る!
「まだだ……! まだ終わらせはせんぞ! 爆炎脚!」
ライオーが再び爆風で宙を舞う。
もちろん、この技能による逃げも想定内だ。
私は最初のライオーとの戦いの時から、サハラの存在を相当気にしていた。相手は電脳暴走族と言われる組合。最初は1人で戦うというのは嘘で、隙を見せたらもう1人が横槍を入れてくると思っていた。
そして、それは現実になった。私があの横槍を想定していなかったら、普通に攻撃を食らって負けていたかもしれない。それほどまでに、サハラには神経を使っていた。
でも、今は違う。
周りにライオー以外の気配はない。だから、ライオーだけに神経を集中させることが出来る。
目は口ほどに物を言う。
私を真っすぐに見据えて矢を撃っている最中、ライオーの視線はたまに私の後ろを見ている。それは【爆炎脚】で移動すべきポイントを探しているに他ならない!
飛ぶ前から彼女の移動する先に目星は着いている! だから、より素早く反応出来る!
「うおおおおおおおおおっ!」
足で自分の勢いに急ブレーキをかけ、くるりと反転。【爆炎脚】でライオーが飛んでいく木に向かって全力ダッシュする。そして、その木の幹を蹴って……駆け登る!
「なっ……!? そんなことが……!?」
「案外できちゃうのよね!」
もはや着地を狙う必要はない。空中でたたっ斬る!
「火激流血刃!」
大きく振りかぶって1回!
その勢いを生かして回転してもう1回!
おまけに頑張ってもう1回!
【三舞おろし】を使わない独力の3回転斬り! とはいえ、3回は3回だ! 優秀な部下と同じ斬撃で……散れ!
「ク、クソォ……! トラヒメがこれほどまでの猛者だったとは……! だが、次こそは必ず我らが勝つ! 戰こそが本当の勝負だ! お、覚えておれー!」
斬り刻まれ燃やされた彼女の羽織がはらはらと散る中で、私は刀を収めた。
きっと『惨堕亞暴琉斗』の本隊は彼女たちだけじゃない。うるみやリュカさんにも刺客が放たれているはず。
早く合流したいけど、流石に私も神経を使った。人を斬るのには慣れていても、絶え間なく飛んで来る矢を切り払うのには慣れていない。
それにライオーの弓のセンスは相当なものだと思う。特にサハラがやられてからは狙いを大きく外した矢がなくなった。おかげで1本1本丁寧に対応しないといけなかった。
もし、最初から最後まで精密機械のように狙った場所に矢を飛ばせるプレイヤーが相手だったら、流石の私も危ないかもしれない。
でもまあ、そんな人間離れした人はこの世にいないんじゃないかな?
「……あ、雨音が聞こえる! これはきっとうるみの技能ね!」
突然聞こえてきた雨の音を頼りに山を進む。私たちの目的はあくまでも異名持ちの討伐だ。こんなところで仲間を失うわけにはいかない!





