Data.57 総長ライオー
「ザイリンは戰までトラヒメに接触するなと言っておったが、出会ったものは仕方がない! ここで血祭りにあげ、その醜態を電子の海にばら撒いてくれるわ! さすれば飢えた魚どもがわんさか食いつき、我が名も轟くことだろう……!」
要するに抜け駆けして私を倒し、その様子をネットに上げればたくさんの視聴者が来て、自分が有名になるだろう……ってことか。相変わらず数字稼ぎの道具と思われてるなぁ私。まあ、それだけ魅力があるってことなんだけどね。
「それに上級指南書を手に入れたゆえ、修練値の肥やしとなる技能も欲しかったところだ! 我が覇道の礎となれ! トラヒメェ!」
「御託はいい! ただ斬るのみ!」
飛び道具の使い手がこの距離で姿を晒している。状況は圧倒的に私の有利! 懐に入れば弓なんて使い物にならない!
「おっと! 虎というより猪だな! 爆炎脚!」
ライオーの足元が爆発し、その爆風に乗ってライオーの体が宙を舞う。自爆……いや、これもまた移動系の技能なのか! ライオーはふわりと私から離れた木の枝に着地した。
「弓使いは接近されれば終わり……。それは我自身が一番よく知っておるわい! つまりは当然対策済みということよのぉ……!」
くっ……私には移動系の技能がない……! 【敏捷増強】を持ってるから素の早さは私の方が上だと思うけど、爆風で飛んでいかれては追いつけない!
……本当に追いつけないかな?
ライオーの移動はザイリンのようなワープじゃない。しかも、空中を舞っている間や着地の瞬間はかなり無防備に見える。飛んでいく方向さえわかれば、走って着地点に回り込めるかも?
「フッフッフッ……! 悩んでおる悩んでおる! 矢の雨に撃たれながらゆっくりと考えるとよいわ! 撃ち方・雨!」
ライオーが無数の矢を発射する。本当に雨みたいね……! でも、無駄が多い! 武具を鹿角刀に持ち替え、自分に当たる矢だけを受け流しながらライオーに接近する!
「ナ、ナニィ!? そんなことが可能なのかぁ?! ムウゥ……爆炎脚!」
少し近づいただけなのに逃げるのが早いな。おかげでこっちは追いかけやすいのなんのって!
飛ぶ方向から着地する木を割り出し、そこへ全力ダッシュ! 先回りして再び武具を鰻斬宝刀に持ち替え、【三舞おろし】で木を伐採してやる!
「オ、オイ……ッ! やめ……!」
「三舞おろし!」
無慈悲に木を伐採する! さあ、これで地面に落ちて来るしかなくなった! 後は落ちてきたところに全力の一撃を食らわせるのみ……!
「火激流……ちいっ!」
バックステップで横槍を回避する。 そう、本当に槍だ! ライオーの仲間の水色お姉さんが槍で私を攻撃してきた!
「1対1の勝負だと思ってたんだけど?」
「ええ、不甲斐ない総長のせいで手が出てしまいました」
……こっちの人の方が強いかも。彼女の武器は槍……それも2本。普通の槍よりも短めで取り回しは良さそうだけど、それを2本操るとなると大変そうだ。
「いたーっ! ム、ムゥ……! 二度も恥を晒すとは……!」
また腰から地面に着地したライオーが腰をさすっている。すぐに仕留めてしまいたいけど、お姉さんに見られている以上その隙がない。
「サ、サハラ……助かったわい。あのままでは我は……」
「負け負けの負けでしたね。というか、私が入った時点で勝負は負けです」
「グオオ……!」
総長……味方の言葉に苦しめられてるなぁ……。でも、あの『サハラ』って呼ばれた水色のお姉さんは見た目通りクールね。
1対1の勝負に負けて総長の面目丸潰れでも、最終的に2対1で私を倒せば結果オーライという判断だ。戦いというのは、最後まで立っていたものが勝者だからね。
「いつも通りでいきますよ、総長」
「ああ……! もう慢心せんっ!」
ここからが本当の勝負……! とはいえ、敵が2人とわかった時点でこの展開は想定していた。むしろ、最初に1人で戦ってくれたおかげで、少しは手の内がわかった!
「個人的な恨みはありませんが、我ら『惨堕亞暴琉斗』のため、トラヒメさんには死んでいただきます。槍双魚のサハラ……参る!」
サハラが滑るように私との距離を詰める。いや、本当に滑っているんだ! 彼女の足元は即座に凍り、その上をブレードの付いた靴で滑っている! まるでスケート選手だ……!
「双連撃!」
両手の槍による連続の突き!
あまりの速さに残像が残り、槍がたくさんに見えるけど、本物の槍は結局2本だけ! 刀で受け流せないことはない!
「くぅ……やりますね」
サハラは滑って位置を変えようとする。でも、そうはさせない! 私は無理やり彼女の進路に割り込んだ!
「ど、どいてください……うぐっ!」
サハラの背中に矢が突き刺さる。その矢を放ったのは他でもない、サハラの後方で虎視眈々と私を狙っていたライオーだ。
彼女たちの連携は、まずサハラが近接戦闘で敵を足止めし、頃合いを見て位置を変え、背後で待機していたライオーが矢を射る……という流れだ。
これならライオーの姿はサハラに隠れて見えず、サハラが移動した瞬間は敵もその動きを追っているため、突然放たれた矢に対応しにくいというわけだ。
ただし、この連携には大きな弱点がある。ツジギリ・システムはプレイヤーへの攻撃が可能になる代わりに、自分もすべてのプレイヤーから攻撃を受ける状態になるんだ。
当然、味方からの攻撃も受ける状態になっているから、背後から矢を撃つ際は相当気を付けないと誤射してしまう。敵と味方が密接している近接戦闘の最中なんてなおさらだ。
だから、サハラは撃つタイミングをわかりやすくするため、露骨に位置を変えようとする。それを私が止めれば、矢の射線上にサハラが残ることになり、直撃を受けてしまうというわけね。
「す、すまぬサハラ……!」
「い、いえ、この程度……!」
いや、私相手にその隙は致命的だ。しかも、この至近距離……仕留められない方がおかしい!
「火激流血刃……三舞おろし!」
灼熱の血の刃をまとった状態で三度の斬撃! 過剰とも思える火力の刃を振るってでもこのチャンスは逃さない!





