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Data.54 電脳暴走族

「さて……少し面倒なことになったね」


 私もうるみもリュカさんの言葉には特に驚かない。それはすでに察しているからだ。


「ゼトが言ってた『惨堕亞暴琉斗(さんだーぼると)』っていうのは組合(ギルド)の名前さ。漢字を使った当て字でサンダーボルトって名乗ってるだけあって、電脳暴走族とも言える荒くれ者集団さ」


 このゲーム荒くれ者多くない?

 まあ、ツジギリ・システムがある以上そういうプレイヤーが増えるのも当然か。あと、竜美が昔からオンラインゲームはプレイヤーの民度が低くなりがちとか言ってたっけな。


「でも、リアルで暴走せずゲーム内で暴走してるなら、案外常識のある集団な気もしますね」


「確かに触れてはいけないほど悪い奴らってわけじゃないね。暴言は吐くけどあくまでも運営にBANされない程度だし、動画サイトのコメント欄やSNSでも暴れてるけど、絶妙に消されないラインを守ってる……まあ、だからこそうっとおしい奴らだね」


 リュカさんの総評は『うっとおしい奴ら』か……。ただ、そういう人たちは気持ちよくぶった斬れそうだから、向かってくるならぜひとも向かって来てほしいものだ。


「ちなみに『惨堕亞暴琉斗(さんだーぼると)』は今度の戰に参加する組合(ギルド)の1つだよ。もちろん敵側としてね」


 ……斬りたい理由がまた1つ増えたねぇ。相変わらず妙な縁に恵まれてるなぁ私。


「そのサンダーなんたらはどれくらいの強さなんですか?」


「規模的には『隙間の郎党』より少ない20人くらいの組合(ギルド)で、プレイヤーの質も同じか、少し上くらいじゃないかな? でも、リーダーを含めてもザイリンに及ぶプレイヤーはいないね」


 総勢20人でメンバーの実力が『隙間の郎党』と大差ないなら、返り討ちにするのは難しくなさそうね。それに分隊はすでにゼトさんが全滅させているらしいし、山に入っている人数はさらに絞られているはずだ。


「でも、油断しちゃいけないよ。山の中は死角が多いし、地形によっては攻める側が圧倒的に有利になる場合もある。いつも通りの実力を発揮できないまま死ぬことなんて、山の戦いではよくあることさ」


 うーむ、リュカさんの言う通りだ。敵が先に私たちを捕捉した場合、絶対に作戦を立ててから攻めてくるだろう。逆に私たちが敵を先に見つけた場合は、先手を打って攻撃することが出来ない。


 だって、私たちはツジギリ・システムを使わないからね。厄介な集団から距離を取るか、あえて前に出てツジギリ・システムを使わせて返り討ちにするか……くらいしか選択肢がない。私としては後者を選択したいところだけど。


「まっ、でも気にしすぎることもないね。アタシたちは飛んでいくわけだから、ばったり遭遇したって無視して先に進むことは簡単だよ。それに余裕があれば逆にアタシたちに有利な地形に敵を誘い込んで戦ってもいい。空を飛ぶ限り選択権はこちらにあるのさ!」


 新たな厄介事への対応を話し合ったところで、私たちは当初の目的を果たすべく道具屋に入る。そこで念力回復や体力回復の道具を補充した後、『月下村』の外へと向かう。


 予定では村人NPCから情報を集めるはずだったけど、リュカさん曰く『あいつのことだから村人から話も聞いているはずさ。つまり、ゼトから貰った情報がこの村で手に入るすべてだよ』とのことだったので、そのまま山に向かうことになった。


 村の外に出たら再び【優雅蝶召喚】を発動し、その背中に乗り込めば登山の準備は完了だ。


「さあ、いよいよ出発だけどアタシから1つ言っておきたいことがある! アタシがやられると当然優雅蝶も消滅するよ! だから、私を守っておくれ! こう見えて、いざとなるとテンパっちゃう乙女な一面もあるからね!」


 乙女な一面もよく知ってます……とは言わず、素直に『はい!』と言っておく。こうして、私たちは『月読山』へと足を踏み入れた。


 優雅蝶は木々の間を()って飛んでいく。これはなかなかスリリングなアトラクションだ!


「もっと高度を上げて木の上を飛んでいかないんですか?」


「それはダメね。狙い撃ちにされるから」


 狙い撃ち……?

 まさか、弓矢や銃を扱う魔物でも出るの?


 その疑問の答えは向こうからやってきた!


「ふんっ!」


 突如飛来した何かに対して私は刃を振るう。ガキンッという音を立てて弾き飛ばされたそれは……石!? 弓矢でも銃でもないもっと原始的な飛び道具だ!


「くっ……いきなり目をつけられるとは運が悪い……! 厄介事を惹き付けちゃう大物のオーラでも出てるのかね……!」


 リュカさんはすでにテンパり気味だけど、何とか優雅蝶を制御して石が飛んで来た方向から離れていく。そこへ2度目の投石が来た! しかも、さっきとは違う方向から……!


「やあっ!」


 またもやガキンッという音と共に刃で受け流す。普通の刀なら刃こぼれしちゃうような使い方も、頑丈さがウリの鹿角刀なら耐えられる。


 でも、防戦一方というのは面白くない。敵の正体と位置を探らなければ……!


 石が飛んで来た方向をジーッと見つめると、木々の間を移動する影が見えた。あの姿は……大きなサルかな? 筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の長い腕をしならせ、プロ野球選手顔負けの剛速球を抜群のコントロールで投げ込んでくる!


「うおりゃ!」


 しかし、私の動体視力と刀(さば)きはその剛速球についていける! さらに石を受け流すたびに当てるタイミングが良くなっていく!


「ここだ……っ!」


 ジャストミート!

 振り抜かれた渾身の一太刀が石の中心を捉える! すさまじい勢いで打ち返された石は弾丸のような速度で飛んでいく……サルの方に!


 自分の投げた石を打ち返され、それを頭に食らったサルの体力ゲージは一瞬で削られ消滅! 美しいピッチャー返し……これでゲームセット!

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― 新着の感想 ―
[一言] ・・・なんだ、変態か。(まっすぐ返すってプロでも無理だろ・・・)
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