Data.51 異名とは
「トラヒメさん、異名技能とはその名の通り異名を持つプレイヤーに与えられる技能なんですが、これを説明するにはまず異名について説明する必要がありますね」
今まであまり発言していなかったうるみが、ここぞと言わんばかりに説明してくれる。いつも本当に助かっている。
「魔物の異名は基本強さの証明でしかありませんが、プレイヤーの異名は名声が高まった結果、運営から与えられる称号のようなものなんです」
「名声ねぇ。良いことをすればいいってこと?」
「はい。NPCからの難しい依頼を解決したり、異名持ちの魔物を倒したり、ツジギリ・システムで罪を犯した罪人を成敗したりすると名声値が上がり、それが一定の数値に達すると異名が与えられると言われているんです」
すごいことをすれば異名が貰える……か。ある意味、リアルと一緒なわけね。
ちなみにその『名声値』というのはプレイヤーからは見えない数値らしい。だから、どの程度の活躍で異名が貰えるのかはわからないってことだ。
私も意図せずとはいえ派手に活躍してるし、案外早めに異名が貰えるかもしれないな! どんな異名になるだろう? そのまま虎姫になって『虎姫のトラヒメ』みたいなことになるかも?
あとは人斬りとか? うーん、カッコいいと言えばいいんだけど、悪者感が強い。それに今は人以外のものも斬ってるからねぇ。
むしろ、ツジギリ・システムを使いまくっているであろう『隙間の郎党』のメンバーの方がよっぽど人を斬ってるんじゃないだろうか。
……ん? そういえばズズマもジャビも異名を持ってるけど、あいつらもそんなにすごいことをしてきたのかな? ザイリンは実力的に異名持ちも狩れそうだけど。
「しかし、異名を得る方法はもう1つあると言われているんです。それは悪名を轟かせること!」
うるみの説明はまだ続いていた。そして、それが私の疑問への答えだった。悪名は無名に勝る……ということね。
「悪名に関しても、どれだけ悪行を重ねれば異名が貰えるのかはわかっていません。ただ、名声にしても悪名にしても、大きな組合に所属していると高まりやすいとは言われています」
「所属しているだけで箔がつくって奴ね」
グループの看板を背負って自分を大きく見せるというのはリアルもゲームも一緒ね。私もどこかの組合に入った方がいいのかな?
今回はあくまでもゲストとして『烏合の衆』の戰に助太刀するだけだから、入るかどうかという話にはなっていない。
まあでも、組合に所属せず孤独にすごいことをやる人ってのも、それはそれで箔がつく気がするけどな。お母さんも『フリーのグラフィックデザイナーなのに、こんなに仕事をこなせてすごい!』って、自分で自分を絶賛してるからね。
「……あっ! また説明が長くなりましたね。それで肝心の異名技能の話ですけど、この技能は異名を貰うと同時に獲得できるそのプレイヤーだけのオンリーワン技能なんです」
「へ~……って、オンリーワン!?」
「そうです。1つしかない技能です。でも、ナンバーワンではありません。通常の技能の方が単純な性能では上と言われていて、異名技能はそのプレイヤーの個性をより尖らせる変わり種みたいなポジションなんです」
まあ、オンリーワンの技能がナンバーワンになったらヤバイっていうのはゲーム初心者の私でも理解できる。
でも、プレイヤーの個性をより尖らせる技能って……興味ある! というか、知らず知らずにうちに私は異名技能を見てきたのかもしれない。
ズズマの場合は隙間鼠だし、【脚斬鉄鼠】がそれだと思う。足元を駆け回るネズミのような低姿勢とスピードで敵の脚を潰す技みたいだったけど、その強さが発揮される前に倒しちゃった。
ジャビの場合は隙間蛇だし、あの麻痺させる蛇みたいな鞭……。いや、あれは武具として使っている鞭そのもの効果だったっけ?
だとすると……そうだ!
あの時、ジャビは正面にいるのに鞭は背後から襲いかかってきた。おそらく、本物の蛇のように鞭を長く伸ばし、地を這わせる技能を使ったんだ。そうして草に隠した鞭を動かして背後から……。確かにプレイヤーの個性がよく出ている姑息な技だ。
私の場合はどんな技能になるんだろう? 個性を尖らせると……よりバンバン敵を斬れる技能? なんかあんまり変化がなさそうな予感……。
「うるみ、説明してくれてありがとう。異名技能のことがよくわかったわ」
「トラヒメさんのお役に立てて良かったです! あんまりハッキリしたことは言えませんけど、トラヒメさんなら近いうちに異名を貰えるような気がします!」
「ふふっ、実は私もそう思ってたり?」
まあ、今は何も気にせず目の前の敵を斬るだけだ。がむしゃらな戦いの先に名声が待っているのもリアルと一緒ってね。
それで、私たちを戦いの場に連れて行ってくれるリュカさんは……渾身のボケをスルーされたショックから立ち直ったみたい。
「頑張れアタシ……頑張れアタシ……! ふぅ……! んじゃ、気を取り直して山に飛んでいくよアンタたち! でも、町中じゃ技能は使えないから、優雅蝶のお披露目は外に出てからさ!」
「了解です!」
元気よく返事をし、私たちは池から街の外へと歩き出した。その時、竜美が一文だけチャットを送ってきた。
《一緒にいて楽しい人たちだね》
それに対して、私も短い言葉で返した。
《でしょ?》





