Data.49 烏合の衆
「まずアタシたちの組合『烏合の衆』に所属しているプレイヤーの数は……約200人!」
に、200人……!
私たちの学校は1クラス20人だから、10クラス分の戦力! なかなかの大人数ね……!
「ちなみに『隙間の郎党』の戦力はどれくらいなんですか?」
「40人……戰を取り決めた時点ではね。日に日に組合の知名度は上がってるから、今はもっと増えてるかもしれない。でも、そういう後から入ってきたプレイヤーに関しては、今回の戰に関わらせないとルールを決めてあるから大丈夫よ」
つまり、200対40か。数だけならこちらが5倍の戦力を誇るし、いくらザイリンが優れたプレイヤーといっても1人で5人を相手にすれば……。
あっ、私は1人で10人をぶった斬ってたな……。そう考えると、5倍の戦力差ではザイリンを抑え込めないかもしれない。
でも、私が来た以上ザイリンは私1人で相手をするつもりだし、他に警戒すべきは幹部のジャビとズズマくらいのはず。ジャビはまだしもズズマは5人でかかれば楽勝でしょうし、それ以下のプレイヤーも同じ話だ。
うーん、ゲーム素人の私には私が来た時点で楽勝に思える戰だけどなぁ。
「ただねぇ……。問題はその200人が戰に参加してくれるかわからないってことなんだよ」
「えっ? どういうことですか?」
「200人もいるとねぇ……統率が取れないのよ。しかも、うちの組合はそういうオンラインゲームにありがちな面倒な指示とかナシだから気軽に所属してねって言ってるから、来ない人はいくら呼びかけても来ないかもしれないのよねぇ……」
なるほど、幽霊部員みたいな人もいるのか……。そりゃ10クラス分の人間がいれば、そういう人もいるよね。ましてやこれはゲームだし、他人の命令で行動を左右されたくないって気持ちはすっごくわかる。
じゃあ、なんでわざわざ組合に所属しているんだろうっていう疑問はあるけど、うるみ曰くオンラインゲームではギルドに所属すると得することが多いらしい。
活動はしないけど、美味しい話には乗りたいってことね。なんかそういうのリアルだなぁ。
「組合の名前になってる『烏合の衆』という言葉がぴったりの状況になっちゃってるんだよね」
「そもそもどうして『烏合の衆』なんて名前に?」
「なんか気取った名前よりは、気楽に参加しやすいかなって思ってね。まあその目論見は当たって、たくさんの人が参加してくれたから良かったんだけどさ。ただ、もう少しこういうお祭りごとには参加してくれるもんだと思ってたんだけどねぇ……」
気取った名前の組合で、守らないといけないルールもめっちゃあるところに比べれば、私も『烏合の衆』の方が所属しやすいとは思うけどね。
ただ、普段はそれでいいとして、戰をするとなるとやはり厳しく縛られた集団の方が強いのは間違いない。軍隊だってゆるゆるじゃ使い物にならないから厳しいんだろうしね。
「それで戰に参戦してくれそうなプレイヤーは何人なんですか?」
「……40人」
40人って『隙間の郎党』と一緒じゃん! 数的有利なくなっちゃったよ! いや、でもそこに私とうるみも加わるわけだから、あまり有利ではないにしても不利にはなっていない……!
「40対40プラス私たちなら、まだまだ勝ち目はありそうですね」
「あ……」
リュカさんのタレ目がさらに垂れるくらい弱気な表情をしている! これはまだ何か隠してるな!
「そのぉ、戰を取り決めた時にさぁ……。200対40じゃ絵的に全然派手にならないから、もう少しこちらの戦力を増やすってザイリンが言ってきてぇ……。アタシ、それを受け入れちゃったのよねぇ……」
「増やす……? どうやってですか?」
「えっと、『隙間の郎党』と仲良くしてる組合をいくつか参加させるんだ……」
「何人くらい……増えます?」
「120くらいはいっちゃうかねぇ……」
こちらの実質的戦力は40。それに対して相手は120……? 5倍差で有利って話がいつの間にか3倍差で不利になってるんですけど!
「もうこれ以上戦力に変更はありませんよね?」
「あ、ああっ! 流石にこれ以上はないよ!」
私なら3人相手くらいどうにでも……いや、ザイリンと戦ってる時に横槍を入れてくる奴が2人もいると考えると、私も余裕があるとは言えない。それにたとえ個人でザイリンに勝ったとしても、戰に負けては意味がない。
「戰はどうすれば勝ちになるんですか?」
「今回のルールは大将制……つまり、大将に設定された1人を討ち取れば勝ちだよ。向こうの大将は当然ザイリンで、こっちの大将は当然……私だよっ!」
つまり、私がザイリンを討ち取れば勝ちってことか!うんうん、それなら希望はいくらでもある! 勝負に勝って、戰にも勝ってやるんだから!
「では、私がザイリンを討ち取るってことで作戦は決まりですね」
「そうしてもらえるとありがたいよ。でも、組合の大将としてゲストに勝敗の行方を任せっきりでは格好がつかないだろう? 私は私なりに勝率を高める作戦を考えて来てるんだ」
リュカさんの弱気そうなタレ目が少しつり上がる。これは自信がありそうだ……!
正直、私もザイリンとの戦いには邪魔を入れてほしくないからね。他の雑魚たちを片付けてくれるんなら、こんなありがたい話はない。
「その作戦というのは……この戰に無関心な『烏合の衆』のプレイヤーを振り向かせること! つまり、200人の戦力をそのまま使おうっていう作戦さ!」
「おおっ! それでどうするんですか?」
「人を振り向かせるには派手なことをやる! 古来からの伝統さ。それをしようとしてアタシたちは異名持ちに挑み……敗北した。だから、もう一度異名持ちに挑む! このメンバーでね!」
リュカさんは見ている……私とうるみを!
「我が組合の情報網で集めた新たなる異名持ちを討伐すれば、大高札に大々的に名前が貼り出される! そうすれば組合の名声も高まるし、トラヒメちゃんという新戦力が戰に協力してくれることも宣伝できる! 勝ち目があるとわかれば、参戦してくれるメンバーも出てくるはずさ!」
参加しないメンバーが多いというだけで、ルール上は『烏合の衆』の200名全員が参加できることになっている。そして、参加したうえで自分の組合が勝てば報酬が貰えるのだから、勝率が高まれば興味を持つ人も増えるはず。
うん、筋は通っていると思う。異名持ちを倒せば強い装備か技能も手に入るしね。
ただ1つ気になることがあるとすれば、この作戦も割と私任せじゃない? 絶対私が異名持ちを倒すことに期待してるよね!?
まあ……それでも斬っちゃうんだけどね!





