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Data.48 誘蛾灯のリュカ

「……到着!」


 待ち合わせ場所の池は思ったよりも大きい!形状はいわゆる『ひょうたん池』で、くびれに当たる部分に立派な橋がかかっている。


 池の周囲には公園によくある屋根付きのベンチがいくつかあって、プレイヤーたちはそこに座っておしゃべりを楽しんでいる。ここは待ち合わせスポットとして人気の場所みたいだ。


 さて、うるみはもう来ているかな? 彼女は全体的に真っ白で目立つから、来ているならすぐ目につくはずだ。


「うーん……あ、いた!」


 屋根付きベンチの1つに、見知らぬ人と一緒に座っているうるみを発見! 彼女も私を探していたようでバッチリと目が合う。


「ごめん待った?」


「いえいえ、さっき来たばっかりですよ」


 そうは言ってるけど、うるみの性格的にかなり早く待ち合わせ場所に来てそうだよね。怖いので具体的な時間は聞かないけど……!


「トラヒメさん、こちらが『烏合(うごう)(しゅう)』のリーダーのリュカさんです」


 うるみの対面のベンチに座っていた女性が立ち上がって一礼する。


 ()を思わせる毒々しい着物から右肩を出し、目には濃い目のアイシャドー、後頭部にはこれまた()を思わせる大きな髪飾りがついている。全体的に怪しい雰囲気だけど、とろんとしたタレ目からは柔らかな印象を受ける。


「初めまして、誘蛾灯(ゆうがとう)のリュカです。以後お見知りおきを」


「あ、初めましてトラヒメです……!」


 リュカさんが差し出した右手を握ると彼女はすかさず左手を出し、両手で私の手をギュッと握る。そして、その感触を確かめるようにモミモミしてくる。


「キミさぁ……強いんだってね……?」


「ええ、まあ、それなりに自信はありますよ」


「へぇ、そういうことハッキリ言えるの……カッコよくてお姉さんキュンとしちゃうなぁ……」


 なんか……ねっとりしてる人だなぁ。見た目は勝気な(あね)さんって感じだけど、実際はすごく腰が低い。上目遣いで私のことを見てくる……!


「それで……アタシたちと一緒に『隙間の郎党』と戦ってくれるって……本当?」


「はい。今日はそれをお願いしに……」


「お願いなんてとんでもない! むしろお願いしたいのはアタシたちの方だよ! このままじゃ勝ち目もないまま戰に挑んで、蹂躙(じゅうりん)されるのが目に見えてるんだ……!」


 リュカさんが手を握ったままどんどん腰を低くするから、こっちも引っ張られて頭が下がる! それに戰って合意の上に行うんだよね? どうして勝ち目のない戦いになってしまうの!?


「と、とりあえず座って話をしましょう!」


「わかった……」


 リュカさんを椅子に座らせ、握っている手を離してもらう。これでやっと落ち着いて話が出来そうだ。さあ、まず聞きたいことは……。


「どうして勝ち目のない戰に合意したんですか?」


「合意した時は勝ち目があると思っていたからだね……」


「なるほど、後から『これは勝てない』と思うことがあったと」


「そう! その通りなんだよ……! 思った以上に向こうのリーダーのザイリンが強くてね……」


 リュカさんの話によると戰に合意したのは1週間以上前。その時から今日まで戰の前哨戦とも言える小競り合いが組合(ギルド)間で発生している。


 流れとしては『隙間の郎党』がツジギリ・システムを使って『烏合の衆』のプレイヤーに攻撃を仕掛け、戰の前に戦力を削ろうとしている形だ。


 もちろん、ツジギリ・システムには私もよく知っているデメリットがあるから、襲撃者を返り討ちにしてしまえば逆に『烏合の衆』が強化されることになる。


 所属しているプレイヤーの数は『烏合の衆』の方が多いため、フィールドでは常に大人数で固まって動くことで襲撃に備えていた。


 しかし……ザイリンは数を質で上回っていた。


 もちろん、ザイリンが優れたプレイヤーであることは知られていた。でも、強さが数値で表示されない『電脳戦国絵巻』の世界では、本当に強いのかどうか戦ってみないとわからないところがある。実際、私はろくに技能がない状態でズズマに勝っているしね。


 ということで『烏合の衆』のプレイヤーたちは『本当は俺の方が強いじゃないか?』とか『実際に戦ってみたら楽勝なんじゃないか?』とか『ここで勝ったら俺も有名人!?』とか考えた結果、ザイリンの襲撃を正面から受け止め……散っていったというわけだ。


 不意打ちで倒されるならまだしも、野心を持って反撃して倒されるのは言い訳が出来ない屈辱的な敗北だ。装備や技能が奪われたこと以上に、この事実が組合(ギルド)の士気を低下させた。


 困ったリュカさんは戦力の増強と士気の向上を目指して、ある魔物の討伐を計画する。そう、その魔物こそ……私たちが倒した『血判の紅血鬼』だ。


 未開の地『悪鬼の森』に異名持ちの魔物が存在することを『烏合の衆』は前々から知っていた。だが、その情報を他のプレイヤーに公開することなく、いずれは自分たちで討伐しようと考えていた。


 そして、小競り合いで戦力と士気が低下した今こそ、異名持ちを討伐して報酬と名声を得ようとしたんだ。


 でも、結果は……知っての通り。道中の雑魚鬼を蹴散らして異名持ちの赤鬼にたどり着いたまでは良かったけど、撃破には至らず命からがら森を出て『芝草村』に逃げ込んだ。


 しかし、鬼もまた芝草村までやって来て、プレイヤーが逃げ込んだ民家を破壊した。それが原因でレキは激怒し、単独で森に鬼を狩りに行ってしまった。そこを偶然通りかかった私とうるみがおばさんの依頼を受けて森に向かい、赤鬼を討伐した……という流れだ。


 あの時からすでに『烏合の衆』と私のつながりは出来ていたんだ。しかも、そのつながりが出来た原因は『隙間の郎党』との小競り合いにある。


 さらにさらに、私はその『隙間の郎党』の幹部を2人ぶった斬っているから、結果として『烏合の衆』を大きくアシストする形になっている。


 そして今、私は戰に参加してザイリンを倒そうとここにやって来た……。


 世間とはなんと狭いものか……。事実だけを並べれば、リュカさんが私に頭を下げるのもわかる大活躍……! まあ、好き勝手暴れ回っていただけなんだけどね!


「アタシたち『烏合の衆』が追い込まれている理由はこれで理解出来たでしょ? でも、肝心なのはここからだよ……! 今の戦力で勝つための話を始めようじゃないか!」


 リュカさんはだいぶ調子が出てきたようだ。しかし、依然として組合(ギルド)『烏合の衆』全体の士気は下がったまま……。


 この状態でどうやって戰に勝つのか。そもそも、何をすれば戰は勝ちなのか。そこらへんの話を聞いた上で、私は私の戦い方を考えよう。

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