Data.47 修復の時
装備を直せる職人NPCは『いろはに町』に何人もいる。
職人によって料金が違ったり、直した後の出来栄えが違うみたいな話を聞いたけど、軽度の損傷を直すだけなら誰を選んでも大差ないとのことだった。ならば、できる限り混雑していない工房を選んで時短といこうじゃないか!
工房が入っている建物はのれんや看板を見ればすぐにわかる。町の中心である大高札に近い工房はいつも混んでいる。ここはパスだ。
逆に町の外側、フィールドに近い工房が空いているのかと思いきや……それも違う。フィールドに近いということは、それだけ戦いを終えたプレイヤーが通る場所ということなので、こちらもなかなか混雑してることが多い。
以上のことから、空いている工房というのは町の中心から少し離れているけど、言うほど町の外側でもない、そんな中途半端なポジションにある!
この理論で私は良い感じに空いている工房を見つけ、そこに入った。工房ではお金で装備を購入したり、新しい装備の作成を依頼することも出来る。つまり、工房に来るプレイヤーのすべてが装備の修復を目的としているわけではない。
私は工房の受付に座っているおっとり顔の女性NPCに今回の要件を伝える。頑固一徹の職人さんに直接依頼するわけじゃないっていうのは少し気が楽ね。
「あのぉ、装備の修復をお願いしたいのですが……」
「かしこまりました。では、修復を行う装備をこちらにお渡しください」
あ、修復の時は装備を一旦脱がないといけないのね。早速『春雷の姫衣』を脱いで、その間は代わりの防具を……って、私が持ってる防具は全部ボロボロだ!
初期防具である『質素な着物』はジャビの鞭でボロボロになり、鬼との戦いで着ていた『草の葉衣』は灼熱の血を浴びて焦げ焦げになっている!
この防具たちは『春雷の姫衣』が無事なうちは出番がないけど、この機会に予備の防具として直しておいた方がいいな。もしもの時に裸では格好がつかないし!
……まあ、このゲームを始めてから私の格好がついている時間はほとんどないけど。
ただ、今回ばかりは恥を忍んで裸になるしかない。これも修復のため……・竜美からツッコまれることを覚悟で防具を外す。
防具をすべて外して裸の状態になっても、全年齢向けゲームである『電脳戦国絵巻』で本当の裸の状態になることはない。黒一色のぴっちりとしたインナーが着せられ、危ないところはちゃんと隠されているんだ。
でも、こういう体のラインがそのまま出る服装って、裸よりもいかがわしい場合がある。だというのに、竜美は特にチャットを送ってこない。
それもそのはず! さっきまで着ていた『春雷の姫衣』と比べて布面積が増えているからだ! 装備がない状態よりも布がない装備ってすごいね!
「こちらの3点でよろしいですね?」
「はい、お願いします……!」
「かしこまりました。では、椅子におかけになって少しお待ちください」
言われるがまま待合室の長椅子に座り、修復が終わるのを待つ。この間に竜美が上手くゲームの映像を見れているか確認しよう。
《どう? 映像が途切れたり止まったりしてない?》
《うん、全然大丈夫! 私が自分でセッティングしたんだもん。優虎ちゃんの姿がバッチリくっきり見えてるよ! あ、今はトラヒメちゃんかな?》
あはは……余計なお世話だったようだ。というか、もし映像にトラブルが起こったとしても、竜美より知識がない私には何もできないもんね。
《そうね、今はトラヒメの方で呼んでくれた方が雰囲気が出るかな。あと、竜美が大丈夫ならいいんだけど、あんまり画面を見すぎて酔ったり、頭が痛くなったりしたら、すぐに見るのをやめて私のベッドで休むのよ》
《わかったよ。心配してくれてありがとう!》
この反応を見るに、竜美は私のハレンチ装備に関してはある程度納得してくれたみたいね。正直ここを突っ込まれると苦しかったから、切り抜けられて心底安心している。後はいつも通りこのゲームを楽しむだけだ!
「防具3点の修復でお待ちのトラヒメ様~! 修復が完了しましたので受け取り窓口までお越しくださ~い!」
早い! もう修復できた!
まるでファーストフードのようなスピードだ!
「はい、私がトラヒメです!」
新品のように綺麗になった3つの防具を受け取り、料金555両を払う。『春雷の姫衣』が500両、『草の葉衣』が50両、『平民の着物』が5両って感じだ。
損傷が酷いとお金以外にも必要なものが出てくるとうるみは言っていたけど、ほぼ真っ黒こげの『草の葉衣』もお金だけで修復できた。
それはなぜか……?
まあ、素材が葉っぱだからだよね!
お金以外で何がいるって、葉っぱしかないよこの服! 葉っぱくらいなら向こうで用意して作り直してくれるんだ。ここで『草の葉衣』の利点を知ることになるとは……!
……って、そんなことに感動している場合じゃない! 早めに待ち合わせ場所の池に行っておこう。なんてったって、初めて行く場所だからね。迷ってもいいように余裕を持って動くのが吉だ。
「春雷の姫衣、再装着!」
うーん、この服も私に馴染んできた気がするな。周りの人の視線が少し気になるけど、それも含めて慣れたもんだ。
さあ、町のはずれの池にいけいけ~!





