Data.46 親友の視線
放課後――。
なんとか授業を乗り越えた私は、竜美を連れて自宅へ帰る。竜美は予想通りゲームの映像をパソコンに出力する方法を見つけていた。
しかも、『電脳戦国絵巻』はゲーム側で生配信や動画撮影をサポートしているようで、映せる視点はプレイヤーの一人称だけでなく、いろんな視点を選択できるらしい。
それでいて出力方法自体は非常に簡単とのこと。こりゃ、設定に30分どころか10分も必要ないかもね……。
自宅に帰ってきた私たちは、まず制服を脱いで部屋着に着替える。竜美も家によく来るので、彼女の服は何枚かこっちに常備されている。着替え終わって私が一息ついていると、竜美はササッと2階の私の部屋に向かう。
映像出力にゲーム側の機能を利用するなら、プレイヤーである私の個人認証が必要になるはずだ。竜美を追って私も2階へと向かうと、もうすでにパソコンが立ちあげられ、テキパキと必要なツールなどがダウンロードされている最中だった。
もちろん、パソコンを触ることは許可しているんだけど、それでも自分のパソコンを他の人に触られると……落ち着かないよね! 見られたらヤバイものなんか入ってないというのにこの感覚! もはや、これはパソコンを持つ者の本能なのだろう!
「優虎ちゃん、個人認証お願い」
「あ、はい」
竜美に言われた通りのことを繰り返していると、10分ほどですべての手順が終了した。パソコンの画面には専用のブラウザが開かれ、そこには『電脳戦国絵巻』のロゴが映っている。
「ありがとう。これで優虎ちゃんのプレイを余すことなく見ることが出来るよ!」
「あはは……。まあ、お手柔らかにお願いします……」
竜美に見られていることを意識して、動きがぎこちなくなったらどうしよう……。まあ、刀を握ればそんなこと気にしなくなると思うけど……。
「あと、見るだけじゃなくてこちら側から音声やチャットを送る機能もあるんだって」
「へぇ、外からゲームの中の人と連絡を取る機能ね……。何に使うんだろう?」
「それは……晩御飯が出来た時とか?」
「あ、それは確かに便利かも!」
フルダイブ型VRゲームを遊んでいる時、人は深い深い夢の中にいるようなものだからね。無理やり起こすのは現実的じゃないけど、パソコンからカタカタッとチャットで連絡を取れればスマートに問題は解決する。
「それにプロゲーマーの人は生配信や動画撮影を管理するスタッフさんと連絡を取れるのが便利なんじゃないかな?」
「テレビの撮影みたいに次はこのシーンを撮ろうとか、生放送みたいに時間を巻いてくださいとか、逐一指示が出せるってことね」
ゲーム本体だけじゃなく、それ以外の機能も考えて作られてるんだなぁ~。そりゃ、大VR時代と呼ばれるくらいVRゲームが広まるわけだ。
「優虎ちゃんの邪魔をしたくないから、極力私から連絡を入れることはないと思うけど、もしもの時は連絡がくるかもしれないと思っておいてね」
「了解! でも、別に私が1人の時は気楽にチャットとかしてくれてもいいよ? 竜美ってゲームを学んではいるけど体験したことはないし、聞きたいことがたくさん出てくると思うからね」
「うん、じゃあ気になることがあったらチャットするね。ボイスチャットだと返事をする時に優虎ちゃんが見えない誰かと話してる状態になっちゃうから……」
「あー、リアルでもあるよね。電話本体を使わずイヤホンで話してる人が近くにいると、『誰と話してるんだ!?』ってビックリしちゃうこと」
その点、通常のチャットなら入力の際に手元にキーボードが現れる。誰かと連絡を取っていることが一目でわかるし、会話を他の人に聞かれることもない。
ただ、うるみとか一緒に冒険する人に隠れてこそこそチャットをするのは失礼な気がするから、もし話す機会があれば私の友達が今プレイを見てるって言っておこうかな。
「じゃ、私は早速ログインするね」
「うん、頑張って!」
カプセルに入り、ゲームを起動。ものの数秒で『電脳戦国絵巻』にログインし、私は『いろはに町』に降り立った。
「さて、うるみとの待ち合わせ場所は……」
《優虎ちゃん、その服どうしたの……?》
私の前にチャットのウィンドウが出現する。当然送り主は竜美だ。その服どうしたのって言われても別に……と、ここまでキーボードを打った後、私は気づいた。
「あ……! そういえばまだ直してないんだった!」
ザイリン戦で破れた『春雷の姫衣』はそのままだ! 昨日はログアウトを優先したから、直す手段だけ聞いて明日やろうと放置した結果がこれだよ!
ただでさえ布面積が少ないセクシー装備なのに、破れてさらに布が減った今の姿は変態以外の何者でもない!
《いやぁ、昨日の戦闘で破れたのをまだ直してないだけなんだ!》
《破れたところを直したとしても、かなりハレンチな服に見えるけど……》
《ううん! そんなことないよ! たとえハレンチだとしても性能はすっごくいいんだよ! それにほら大事なところはちゃんと隠せてるし、これはゲームだから!》
《そういうものなのかな?》
まさか、ログインしてすぐに釈明に追われるとは……。とりあえず、装備を今すぐ直しに行こう! 話はそれからだ!
うるみとの待ち合わせ場所は町のはずれの池のほとりだ。時間にはまだまだ余裕がある! 少しでも竜美の心証を良くしてから向かおう!





