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Data.45 竜美は心配性

「ふあぁ……ねむぅ……」


 昨日は張りきって食べ過ぎてしまった。ご飯の後に少しだけ『電脳戦国絵巻』にログインしようと考えてたけど、普通に眠たくなってそのまま寝てしまった。


 そして、今なお眠い……! 通学路を歩いていても全然眠気が取れないや……。


 腹が減っては(いくさ)は出来ぬけど、腹がいっぱい過ぎても戰は出来ないな。これを私の言葉として後世に語り継いでもらいたい。


「優虎ちゃん、昨日の晩御飯焼き肉とかだった?」


「えっ!? わかる? 臭いとかしてる……?」


 一応気を遣っているんだけど、竜美の鼻は鋭いからなぁ……。


「うん、少ししてるね。でも、普段の優虎ちゃんの匂いとそんなに差はないよ。私くらいじゃないと変化に気づけないと思うな。それに別に臭いって言ってるわけじゃないからね。優虎ちゃんは今日も良い匂いだよ」


 竜美が私の首元に顔を近づけ、くんくんと匂いを嗅ぐ。なんか、これをされると探られてるみたいで緊張するんだよね……。まあ、別にやましいことはないんだけど……話題を変えるか。


「竜美ってさ、私と一緒にいて楽しい?」


 昨日、うるみやお母さんに言われたことを思い出して言った何気ない言葉なんだけど、竜美はなぜかビックリしたようであたふたしている。


「え? え? ごめん、私つまらなそうな顔してたかな? もちろん私は優虎ちゃんと一緒にいてすごく楽しいよ! 本当だよ……!」


 竜美はすごく不安そうな顔をしている。こんな顔久しぶりに見たな……。不安にさせたままでは悪いので、私は昨日あったことを全部話すことにした。


「いや、別にこの質問に深い意味はないのよ。というのも、昨日ゲームを一緒に遊んだ人が、私といると毎日が楽しいって言ってくれてね。あと、お母さんも私と一緒にいると幸せって言うから、一番私と一緒にいる時間が長い竜美はどう思ってるのかなって気になっただけなんだ」


「なんだ、そういうことか……!」


 竜美に笑顔が戻る。

 しかし、わずか数秒後、竜美は(いま)だかつてないほど怖い表情を見せた。


「……は?」


 見開かれた冷たい瞳で私を見据える。

 マズイ……。逆に私が竜美の気分を害するようなことを言ってしまったか!?


「ごめんごめんごめん! 私、何か変なこと言っちゃったんだね!」


「いや、優虎ちゃんが悪いんじゃないよ! ただ、その優虎ちゃんといると毎日が楽しいって言ったプレイヤーさんのことが気になって……」


「ああ、なんだそっちね。すっごく良い人だから心配する必要はないよ。向こうも女の子だし、個人情報とかは全然話してないから」


「個人情報を話さないのは当然として、女の人だからって大丈夫とは限らないよ。何か変なことされたり、言われたりしなかった?」


 うるみとの冒険を思い出してみても、そんな記憶は……あっ! そういえば、ヌルヌルの私を見ていかがわしいとか、いやらしいとか言ってたな……。


 でも、それはまあ気持ちとしてはわかるし、言ったらめんどくさそうだから黙っておこう……。


「思い当たることがあったのね、優虎ちゃん! 顔を見ればわかるよ!」


 くぅ……! 流石は付き合いが長いだけはある! ちょっとした顔色の変化で私の考えを見抜いてくるんだ!


 こうなったら嘘をついてもすぐバレる。正直に話してしまおう。


「あのぉ……ヌルヌルの粘液を出す敵と戦った時、ヌルヌルになってしまった私を見ていかがわしいとか、いやらしいとか言ってたかなぁ……」


 竜美は言わんこっちゃないという顔をしている。完全にうるみを変質者扱いしている目だ。まあ、多少そういう面があるのは否定できないけどね……!


 ただ、それでも私にとっては恩人だし、一緒に遊んでいて楽しい人だ。ここは彼女の名誉のためにも『あの言葉』を使う……!


「でも待ってよ竜美。ヌルヌルの私を見てそう感じるのは、人間として普通じゃない?」


「そ、そんなことないよ……!」


「じゃあ、竜美は私がヌルヌルになってるところを見ても何も思わないんだ?」


「それは……!」


 ちょっと意地悪だけど、こう言われて否定できる子じゃないのは知っている。だって、私も竜美との付き合いが長いんだからね!


「お、思う……! 思っちゃうと思う……!」


「じゃあ、このことだけでその人を変質者扱いするのはやめてよね」


「私まだ変質者とまでは言ってないよ」


「そ、そうだっけ? あはは……」


 とにかく!

 これでうるみの名誉は(たも)たれた……かな?


「それでも、やっぱり優虎ちゃんのことが心配だな。その人はまともだとして優虎ちゃんは魅力的だから、いろんな人が寄ってきそうだし」


 うーん、これは否定できない。実際ゲームを始めたばかりなのにいろんな人との関係が出来上がりつつあるからなぁ。やっぱり私の隠し切れない魅力のせいなのね……!


「今日、優虎ちゃんの家に行ってもいい?」


「もちろんいいけど、今日はゲーム内で予定があってそっちを優先しないといけないんだ」


「うん、だから私もそのゲームをプレイしているところを見たいの」


「そうなんだ……えっ?」


 な、なんか思ってもない方向に話が進んでる予感……!


「VRゲームはテレビゲームじゃないから、遊んでるところを見るのは無理なんじゃないかな?」


「ううん、VRゲームのプレイしている人の視点をリアルタイムでパソコンに出力する方法はいくらでもあるんだよ。そうじゃないとパソコンを使った生配信とか出来ないしね」


「そ、それは確かに……。でも、その方法を竜美は知ってるの?」


「知らないけど調べる」


 そうか~、調べるか~。

 こうなったらもう止められない。


 竜美は学年でもトップクラスの秀才だ。本当にVRゲームの映像をパソコンに映す方法があるとしたら、竜美にそれが理解できないわけがない。きっと、学校の休み時間の間に学んで、家に帰ったら30分とかからずその環境を整えるだろう。


 今日のゲームは授業参観みたいなことになるな……。しかも、今日はリュカって人に初めて会う日だ! もし、この人が破天荒なキャラだったりしたら……考えるだけでも恐ろしい!


 学校が始まる前から、すでに放課後のことが気がかりだ……。ふふっ、今日も授業に集中できそうにないな!

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