Data.44 毎日を彩る
そんな感じでいろいろ考えていると、いつの間にか『いろはに町』に到着していた。たくさんのプレイヤーが活動の拠点としているこの町はいつも活気がある。
「トラヒメさん、戦友登録しませんか?」
「戦友登録……?」
「ぶっちゃけフレンド登録です。登録すると専用チャットが使えるようになるので離れていても連絡が取れますし、相手が今ログインしているかどうかも一目瞭然です。また専用アプリを使えばゲーム外でも連絡が取れたりします。そのぉ……また一緒に冒険する時に便利ですから!」
「わかった! 登録しよう!」
私はうるみと戦友登録をする。そんなに社交的なタイプじゃない私が、すぐに気の合うプレイヤーと出会えたのは奇跡ね。これからもいろいろお世話になりそうな気がする。
「……よし、これで登録は完了です!」
「へー、案外簡単なものね。ありがとう、うるみ」
「いえいえ! これくらいお安い御用です!」
「それで明日からはどうしようか? 私はいつもこのくらいの時間で遊んでるけど、うるみはどんな感じ?」
「私もいつもリアルで夕方くらいに遊んで、日によっては少しだけ夜にも遊ぶこともありますね」
ふーむ、大体私と同じ生活リズムか。私もやろうと思えば晩御飯の後に遊ぶことも出来るもんね。もしかして、うるみも学生だったり?
「問題はリュカって人のことよね。この広い世界でどうやって探せば……」
「あ、リュカさんならSNSをやっていますし、動画投稿もしていますから簡単に連絡が取れますよ? それにゲームで生活してる人ですから、私たちの活動時間に合わせて電脳戦国絵巻にログインすることも可能だと思います」
なるほど、ゲームで生活とはプロ中のプロだ。まあ、この大VR時代では、そういう生き方をする人も結構多いって聞いたことがあるけど。
「リュカさんには私から連絡を取りますから、トラヒメさんは気にせずいつも通りゲームにログインしてください」
「わかった。いつもありがとうね。私、うるみと出会えなかったら、こんなに電脳戦国絵巻を楽しむことはなかったかもしれないな」
「そ、そんなもったいないお言葉です! 私もトラヒメさんと出会えて毎日が楽しいです!」
「じゃあ、明日も楽しくなろうね!」
「はいぃ……!」
私とうるみはそれぞれログアウトし、リアルの世界に帰った。
◇ ◇ ◇
「ふぅ……。今日も遊び倒してやったぞ!」
カプセル型VR装置のフタを開き外に出ようとしたところで、私はカプセルのすぐそばでお母さんが待ち構えていることに気づいた。
「うわっ……! ビックリするじゃない! なんでこんなところにいるの?」
「お仕事終わったのに娘が構ってくれないから、こうして犬のように待ってたのよ~」
そうか、仕事は無事に終わったのね。上手くいかない時は日付が変わる頃まで苦しんでることもあるから、それに比べれば今日はかなり調子が良かったみたいだ。
でも、問題はその後にある。仕事が上手くいって体力が余っている時のお母さんは……とにかく私に絡んでくる!
この前は家に竜美がいたからまだ控えめだったけど、今日は私と2人っきりだから、それはそれは絡んでくるぞ……!
「んん~! かわいいかわいい私の優虎ちゃん~!」
お母さんはまだカプセルの中にいた私をひょいと抱き上げて外に出す。このモードのお母さんは、体格の割にすごいパワーを発揮する! お姫様抱っこされる形になった私は、されるがまま赤ん坊のように扱われる。
「優虎ちゃん前より重くなったね。成長した? それとも太った?」
「太ってない! 怖いからおろしてよ!」
「も~、優虎ちゃんは恥ずかしがり屋さんなんだから!」
やっと地面に足がついた! そのまま逃げようとしたところで背後からお母さんに抱き着かれる! くぅ……まだまだ動きが若いじゃないの……!
「つ~かまえた! んふふ~、優虎ちゃんよしよし~!」
頭をわしゃわしゃ撫でられる。恥ずかしいけど耐えるしかない! いや、何か話題を出して興味をそらすか?
「お母さん、晩御飯はどうするの?」
「そうね~。今日は2人きりで時間もあるし、お外にご飯食べに行こうか!」
よしよし、想定通りの流れだ。
外に行くとなれば流石にお母さんも自重する。このモードから逃れられる……!
「いいね、何食べる?」
「優虎ちゃんが大好きなお肉とか……どう? それも赤いお肉を食べられる良いお店……!」
お母さんが耳元でささやく。
肉……肉……お肉大好き! それも軽く焼いただけの赤いお肉が好き! 私の数少ない『虎』っぽい要素! 肉の好みだけは名前負けしていない!
「でも、赤いお肉が食べられるお店って高いよ?」
「そんなこと気にする必要はないの! 優虎ちゃんを幸せにすることが私の生きがいなんだから、美味しいものをたっくさん食べてほしいの! そのために働いてるんだから!」
「それは言いすぎでしょ。お母さんが今の仕事大好きなこと知ってるんだから」
「えへへ~、まあね。でも、優虎ちゃんが私の生きがいなのは間違いないから! 優虎ちゃんと一緒にいるだけで毎日が幸せよ」
毎日が楽しいとか、毎日が幸せとか、そんなに私って誰かのためになっているのかな? まっ、言われて嬉しい言葉なのは間違いないけどね!
「さっ! お肉を食べに行く準備をしましょう! 何を着ていこうかな~」
お母さんは私を解放し、自分の服を探しに行った。抱きしめられている時は逃れたいと思ったけど、いざそうなると少し寂しいような……あまのじゃくな私だ。
「私も少しはオシャレしていくかな」
あいにく服にはあまり興味がない。
でも、クローゼットには竜美が選んでくれたシャレた服がいくつか置いてある。それを物色しつつ、私はこれから何を食べようかを考えていた。ふふふっ、お肉にも種類があるからね!
腹が減っては戰が出来ぬ……相変わらず昔の人は良い言葉を残しているなぁ。戰というのは準備の段階から始まっている。明日からの戦いに備えて、ガツガツお肉を食べるぞ!





