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Data.43 戰とは

 もはや1人で立ち上がることを諦めているうるみは、ただただこちらに手を伸ばしてくる。


「自分の技能で出したヌルヌルなのに自分も影響を受けるのね」


「ものによっては自分の意志で効果を解除できる技能もあるんですけどね……! でも、本当にものによりますから、今回はダメだったみたいです……!」


 うるみは悔しそうにジタバタする。ザイリンに完敗したのが割と悔しいみたいだ。そんなうるみの手を取って立ち上がらせようと思ったところで私は気づいた。


「いや、このまま手を取ってもヌルヌルは消えないじゃん。先に杖を取ってきた方が良さそうね」


「そ、そうですね! このままじゃトラヒメさんもヌルヌルになっちゃうところでした! いやぁ~、危なかったなぁ~、あはは」


 杖さえ取り戻せば雨を降らせてヌルヌルを除去できる。その杖はヌルヌルと風の力によって滑り、川の近くにまで移動していた。危ない……。もう少しで川にドボンして流れているところだった。


 杖を拾い上げ、慎重に川の水で洗ってヌルヌルを落とす。綺麗になったところで、地面に倒れ伏しているうるみに手渡す。


「はい、うるみ」


「ありがとうございます……命の雨!」


 降り注ぐ雨がぬめりを落とし、少し削れていた私の体力も回復させる。やっぱり強い攻撃はかするだけでもダメージが蓄積するのね……。それにところどころ破れている防具は、回復技能では直らない。


「うるみ、防具って修理できるの?」


「はい! 町や村に装備を直してくれる職人NPCがいて、軽度の損傷でしたらお金を払うだけで直してくれますよ」


「それは良かった! お金は結構持ってるからね私」


 とりあえず防具を直す手段を知ったところで、これから何をすべきか……。まあ、今日はもうログアウトよね! 1日の内容が濃すぎるのよ本当に!


「とりあえず、当初の予定通り『いろはに町』に移動しつつ話さない?」


「そうですね。想定外のことばっかりで結構時間を使いましたから」


 現在地の『浮草の滝』から『いろはに町』へ最短ルートで移動する。妨害さえ入らなければ、それほど時間はかからないはずだ。移動中の話題は当然ザイリンの言っていた『(いくさ)』のことになる。


「そもそも戰ってどんな感じなの? 組合(ギルド)同士の大規模戦闘ってことはわかったけど……。そもそも私、組合のこともよく知らないのよね」


組合(ギルド)はプレイヤーが自主的に集まって立ち上げる集団で、活動内容は組合ごとに異なります。リアルの知り合いで集まってゲームを楽しむだけの組合もあれば、『隙間の郎党』のようにリーダーが有名になるという目的を掲げ、そこに人が集まって出来た組合もあります」


 要するに同じ目的をもってゲームを遊ぶ仲良しグループってことか。思っていたより大層な集まりではなさそうね。


「そして戰とは、組合(ギルド)同士が同意の上で行う戦闘です。あらかじめ戰の日時を決め、場所を決め、参加するプレイヤーを決め、勝利した時の報酬と敗北した時のペナルティを決め、それにお互いの組合のリーダーが同意して初めて戰は起こります」


「なんというか……ツジギリ・システムよりまともね」


「ですよね! 実際、戰の最中の殺しは罪には問われませんし、デスペナルティも自分が死亡した時ではなく、組合(ギルド)が敗北した時初めて適用されます。それに報酬も自分の組合が勝利すれば、たとえ自分自身が戰の中で死んでいても手に入ります。だから、参戦するプレイヤーたちは本気で仲間のために戦うんです。それこそ自らの犠牲をいとわずに!」


「正々堂々の真剣勝負ってわけね。面白そう!」


 自分が勝つためだけなら、戦いはシンプルなものになる。それこそ達人同士の戦いはどんどん無駄なものが削ぎ落されていく。


 それは戦ってる本人たちにとってはすごく面白いけど、はたから見ると何やってるのかわからなかったり、地味だったりすることもある。


 でも、たくさんの人が絡んだ戦いはそれだけ展開が予想できないし、自分ではなく自分が所属する組合(ギルド)を勝たせる戦いともなれば、その戦法は無数にあるように思う。


 自分を犠牲にしても組合(ギルド)が勝てば称賛されるし、最後の方まで生き残っているプレイヤーはみんなの想いを背負って戦う英雄になれる。


 1対1のタイマンだと活躍しにくい技能を持っているプレイヤーも、集団戦なら大活躍できるかもしれない。それだけ戦いの中にドラマが生まれやすいんだ。


 それにあらかじめルールを自分たちで決めておくというのも良いと思う。ツジギリ・システムはアポなしドッキリみたいな危うさがあるけど、戰はスポーツみたいで見ている方も楽しみやすい気がする。だから、生配信でも人気なんでしょうね。


「私もリュカって人と話をつければ戰に参加できるってことよね?」


「そうだと思います。戰のルールが決定された後でも、両組合(ギルド)のリーダーの許可があれば戦力を追加することが可能です。ザイリンから誘ってきたわけですから、あちらの許可は出ているでしょうし、リュカさん率いる『烏合の衆』だってトラヒメさんの力は欲しいはずです」


 私は今まで1対1の戦いを基本としてきたけど、『電脳戦国絵巻』を遊び始めてからは1対多数の戦いや、パーティを組んで連携しながら戦うことも出来るようになった。戰のような大規模戦闘を体験するのも悪くないタイミングだろう。


 長草原の戦いみたいにバッサバッサとたくさんの人を斬れるかもしれないし、ザイリンとの決着をつけることもできる……。


 とはいえ、まずはリュカって人に会うことが大事だ。その後は何とか戰までに1つくらい新戦法を編み出したいところよねぇ~。


 ああ、やりたいことがたくさんあるって素敵だ。自分をどう強くしていくのか真剣に考えなくては!

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