Data.42 移動の技能
「ツジギリ・システム起動。まずは手始めに……縮地法」
ザイリンの姿が消えたかと思うと、一瞬にして私のすぐそばに現れた! これは……瞬間移動の技能!?
「猪頭突き!」
私の頭部を狙った力強い突きが迫る……! それを寸前でかわしつつ、こちらも抜刀する!
「雷虎影斬!」
稲妻を帯びた刃が空を斬る。ザイリンはすでに私から距離を取っていた。
「大抵のプレイヤーは今のコンボで死ぬんだがな。【猪頭突き】の長めの予備動作を離れた位置で行い、【縮地法】で一気に詰める。デメリットを消して高火力技を使いたい放題ってわけだ」
細かい話は聞いてないけど【縮地法】って良い技能だなぁ! 音もなくびゅんびゅんワープするのってなんか強そうに見えるし、単純に一撃離脱のヒット&アウェイ戦法が使いやすくなる。
私はこれまで攻撃系とか増強系にばかり目を奪われていたけど、これからは便利な移動系技能も探してみようかな!
「反応速度はまず合格点。ただ、合格点ってだけじゃ面白い戦いにはならない。本当の力を見せてもらおうか!」
ザイリンは【縮地法】を使わずにダッシュで距離を詰めてくる。それでも今まで戦ってきたどの敵よりも機敏だ。よーく動きを見極めて……と思っていたらまた姿が消えた!
「結局ワープも使うのね!」
「そりゃ俺の得意技だからな! 万閃光!」
生まれては消える無数の閃光のような連続突き! 体を動かし、刀で受け流し、何とかその槍をいなしていく!
「鹿角突き!」
ザイリンの突き技の終わり際を狙ってこちらからも突きを繰り出す! 惜しくも頭を捉えることは出来なかったけど、刃は肩をかすめてその身を斬り裂く!
やっぱり反応速度は私の方が上だ!
『滝の裏の遺跡』で【敏捷増強】を『Ⅱ』に昇級できたのも大きい!
とはいえ、実は私もところどころ攻撃がカスって、装備がボロボロになってるんだけどね! 手に入れてから水に濡れたり、ぬるぬるになったり、破られたりと散々な目に合ってるなぁ……私の『春雷の姫衣』は!
「こりゃ……思った以上だな。そろそろ退いてもいいが、やられっぱなしは趣味じゃない」
ザイリンの姿が再び消える。もうその技は見切っている。何度同じことを繰り返しても……!
「……はっ! 同じ場所に!?」
ザイリンはワープを使って移動せず、また同じ場所に現れた! 自分の周りを警戒してはいたけど、さっきまでザイリンがいた場所への警戒は一番薄い! だって、ワープしたら違う場所に来ると思うじゃん!
「螺旋岩窟穿!」
「火激流血刃!」
ドリルのように回転する槍の先端を、流れる血の刃で受け止める! 私は今、突きを刃の側面で受け止める形になっている。血を刃にまとわせていなかったら、刃が折れるはないにしても、刀に何らかの傷を負わされていた可能性がある……!
でも、同じ場所へのワープはザイリンにとって切り札のはず! これを何とか受け止めた以上、このまま戦いが続けば私が勝てる!
ただ、それはザイリンに他の切り札がない場合の話だ。少なくとも、今のあいつの表情に焦りの色は見えない……!
お互いの技能の効果が終わると同時に、私たちは後ろへ跳んで距離を取る。こちらは技をすべて見せる形になった。隠し玉は手に入れたばかりの鰻斬宝刀とその武具技能【三舞おろし】のみ……。
でも、試し斬りをしていない刀と、効果を把握していない技能にいきなり頼るのは危険だ。ちょっと悔しいけどこの戦い……潮時か。
「俺にも決め手がないけど、君にも決め手がない。ここはこれ以上無駄に戦わず、しかるべき場所で再戦といこうじゃないか」
「……致し方なし。ここは刃を収めるとしましょう」
「引き時がわかるのは強者の証だな。よし、明日にでも君たちは『烏合の衆』のリーダー『リュカ』に会え。俺たちは3日後、その組合と戰を行う。詳しいことはリュカに聞けばいい。あいつは世話好きだから何でも話してくれるさ。それにいつでも戦力を欲している」
一瞬で距離を詰めるような移動の技能……。そして、それを連発しても念力切れを起こさないのは、きっと念力を補強する技能の存在がある。
きっと、このゲームにはそういうものがたくさんあるんだろう。私ももっとたくさん技能を集めれば、もっと面白い動きが出来るはず……! 世界の広がりを感じさせる戦いだった。
「あ、そうだ。うるみもいたんだったな。どうだ? 君も俺と戦うか?」
「ええ、いいでしょう! 戰なんぞでトラヒメさんの手を煩わせるまでもありません! ここで私が成敗して差し上げましょう!」
うるみが謎の自信に満ち溢れている!?
ま、まさか、あの技能を使うつもりじゃ……!
「食らいなさい! 滑滑飛沫!」
やっぱりだー!
うるみの杖からぶしゃーっと大量のヌルヌルが発射される。確かにザイリン本人がヌルヌルになれば、ワープしてもぬるぬるがつきまとうし、槍も満足に握れなくなるはず……。
確かに当たりさえすれば必勝の技能かもしれない。そう、当たりさせすれば……。
「波乱万槍!」
ザイリンは槍をぶん回して暴風を発生させる。それは飛んで来たヌルヌルを吹き飛ばし、うるみ自身にヌルヌルをお返しする!
「ぎゃー! 私がぬるぬるになっても意味ないんですよ~!」
ぬるぬるを浴びたうるみの手から杖がすっぽ抜け、遠くへ滑っていく。これじゃ雨を降らせることも出来ない……。勝負あったな。
でも、うるみは諦めていないようで、足腰をぷるぷるさせながら立ち上がろうとしてはずっこけている。
……うーん、確かになんかいやらしいし、いかがわしい。長い髪の毛が顔にへばりついてる感じとか……いいね。うるみって見た目は清楚だから、なんだかいけないものを見ている感じがする。
「……はっ! ザイリンは!」
うるみを観察している間にザイリンの姿は消えていた。目的は十分に果たした……ということね。早くあいつが言っていた『烏合の衆』と『リュカ』について調べないと……。
「助けてくださーい! トラヒメさーん!」
まあ、まずはうるみを助けてからね……!





