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Data.41 待ち構えし者

「それで『隙間の郎党』のリーダーさんがこんなところに何しに来たわけ?」


「自分の推理が正しいかどうか確かめに来た……かな? 長草原でジャビを退(しりぞ)けた後、向かうとすれば芝草村。そこで情報を集めた結果、うるみと合流し依頼を解決したことまでわかった。さて、この後に向かうとすればどこか……。俺はこの『滝の裏の遺跡』だと思ったのさ」


 最初に殺気を感じて以降、ザイリンからは戦う意思を感じられない。あいつの言っていることは本当かもしれない……。でも、もう少し探りを入れてみるか。


「どうしてそう思ったの?」


「迷宮は隔離された空間だから他のプレイヤーからの妨害を受けない。昨日今日と他プレイヤーから妨害を受けまくっている君たちからすれば、迷宮のシステムはありがたいはずだ。それに『滝の裏の遺跡』は水氷属性の迷宮。水氷属性で統一しているうるみにとっては、ぜひともクリアしたい場所のはずだからな。あと単純に芝草村から近いというのも見逃せない」


 なるほど、論理的な回答だ。私たちを襲ってきた組合(ギルド)のリーダーならば私たちの事情を当然知っているだろうし、動きを推理できるのもおかしくはない。


「じゃあ、今回は推理が当たって『やったー』ってことで大人しく帰ってくれるというわけね? 私たちはもうログアウトしようと思ってるんだけど」


「ああ、そのつもりで来た。もちろん組合(ギルド)の幹部を2人倒されてるわけだから戦う理由はあるさ。でも仕掛けたのはこちらからだし、復讐……っていうのもカッコよくない。本気でやるならもっと仲間を連れてくるしな。そして、何より君のような彗星の如く現れた強者と俺の戦いを、たった1人の観客の前で行うのはもったいないと思うんだ」


 たった1人の客……うるみのことか。でも、スポーツじゃあるまいし、私たちの戦いにたくさんのお客さんが入ることなんてあるのかな?


「トラヒメさん、彼はプロゲーマーなんですよ。客というのは動画サイトで行う生配信にやってくるリスナーだと思ってください」


「生配信……? 私たちの戦いをリアルタイムで配信するってこと?」


「ええ。それを可能とする機能が『電脳戦国絵巻』にはあります」


「それをするとなんかあいつが得するの?」


「配信にはリスナーからの応援としてお金が支払われることがあるんです。いわゆる『投げ銭』というもので、そうして支払われたお金の何割かは配信者の(ふところ)に入るんです。あと、生配信後のアーカイブには広告が……」


「つまり、私でお金稼ぎをしようとしてるってこと!?」


 くわっとザイリンをにらみつける。

 ザイリンは苦笑いをしている。


「いやいや、まだ当の俺からは何も言ってないんだけど……。まあ、そういうプランもあるさ。君は間違いなく強い。でも、その強さを知る者は少ない。だからこそ、君は多くの人の興味を惹ける。さらに俺も強い。俺はすでにそこそこ知名度もあって人気だ。だから、君と俺が戦えばたくさんのリスナーが見に来てくれると思わないか?」


 えっ、みんな私に興味あるの? リアルではクラスで浮き気味の私に? もしかして、私って案外人気者になれる!?


 ……でも、私って目立つの嫌いなんだよねぇ。そりゃ私だって花の女子中学生だから、ちょっとくらい人気者になりたい願望もあるけどさ。


 それに多くのリスナーが見に来たって私は得しないし、負けるつもりはないとはいえ、もし負けたら晒し者みたいな感じだし……。


「ちなみに俺たち『隙間の郎党』がこの前仕掛けた敵対組合(ギルド)への(いくさ)配信には、3万人のリスナーが来た」


「さ、3万人!?」


 3万人って……何万人!?

 1、2、3……3万人だ!

 こいつ、思った以上に有名人なのか……?


 それに(いくさ)配信ってなんだ!? この未来世紀、ついに『戰』というものはそこまでカジュアルなコンテンツになったのか!?


「トラヒメさん、戰というのは組合(ギルド)同士が同意の上で行う大規模戦闘です。プレイヤー主導で行えるイベントという見方も出来ます。電脳戦国絵巻の配信においては人気コンテンツですから、それで3万人の視聴者というのは、人気的に中堅のちょっと下という感じです」


「おいおい、本当のことを教えるなよ」


「しかも戰配信というのは多くのプレイヤーが参加するわけですから、それぞれが自分の視点の配信を行います。しかし、隙間の郎党はリーダーのザイリンのみが配信しています。リスナーを1点に集中させて数字を多く見せているんです」


「詳しいなお前!? そうだ、俺たちはまだまだ駆け出しなんだ。だから、君のような新たな強者を世に送り出すことで、俺たちも恩恵を受けようっていうんだ」


 2人で勝手に専門的な話をしてる……!? うぅ……頭が混乱する……!


 とりあえず、ザイリンのことを整理してみよう。

 ・私を使ってお金稼ぎしようとしている。

 ・私を使って有名になろうとしている。

 ・私に仲間をたくさんけしかけて襲わせた。


 うーん、協力する価値はないな。

 ただ、戰と大規模戦闘という言葉には心惹かれる! 何か本能が揺さぶられるものを感じる!


 それにザイリン本人は本当に強いと思う。あのズズマとジャビの仲間とは思えないくらいには……。正直戦ってみたいけど、そうするとあいつの計画の手伝いをすることになるし……。


 むむむ……そうだ! ここは私の(たく)みな話術で戦う気にさせるんだ!


「なんか難しい話をしてるところ悪いけど、そもそもあんたの計画には穴があるよ」


「何……?」


「私って本当にリスナーの興味を惹けるほど強いのかな? まだゲームを始めて間もないし、ここまでずっとまぐれ勝ちってこともあり得ると思うよ? もし私を強者として宣伝して、いざ戦ってみたら簡単にあんたに負けるなんてことになったら……逆にリスナーにそっぽ向かれるんじゃない?」


「それは一理あるな」


「だからさ、私とここで戦ってみるのはどう? それで実力もハッキリする」


 どう? この話の運び方! まるで相手のことを気遣っているかのような言葉! こりゃ、乗って来るしかないでしょ!


「くくくっ……! つまり、君は俺と戦いたくてしょうがないってわけだ。めんどくさいことは抜きにしてさ。こりゃなかなかの戦闘狂だ」


「えっ……! そ、そんなことないけどな~」


 な、なんでバレてるの?

 うるみも私の方を見て少し笑ってるんだけど!


「まあいい。君の言っていることは正しい。俺は人から聞いた情報を信じているだけで、君の本当の強さを知らない。だが、1回戦えばそれもハッキリする。君の実力が多くの観客の前に晒すに値するものかどうか……! 実に合理的だ!」


 ザイリンが細く長い槍を構える。私との距離はかなりあるというのに、鋭い殺気を感じる……! そうだそうだ……そうこなくっちゃ!


「ここで私にぶった斬られたら、配信は諦めた方がいいと思うよ。恥を晒すだけになるからさ」


「逆にここで君が俺をぶった斬れず、俺も君を刺し貫けなかったら……その時はしかるべき場で再戦といこうじゃないか。すでに戰そのものはセッティングしてあるんだ。そこに君が参戦するか、しないかの話でさ」


 混乱していた頭が研ぎ澄まされていく。


 油断したらやられると思え、私! こいつはそういう相手だ!

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