Data.40 迷宮突破
「ふぅ……。とりあえず、うるみはちゃんと技能を習得したよね?」
「はい……。お騒がせしてすいませんでした……」
うるみが突然【滑滑飛沫】を選ばないと言い出した時にはどうなることかと思ったけど、今は落ち着いて技能を習得している。
なんてったって、ヌルヌルを扱うボスがいたダンジョンで手に入るヌルヌルを扱う技能だもの。単純な性能の良さもさることながら、本場の食べ物というか、観光地の鉄板お土産のような、選んでおいた方がいいものという雰囲気が【滑滑飛沫】にはある。
それにしても、どうして急に選ぶのをやめるなんて言い出したんだろう? 最初に【滑滑飛沫】の強さに気づいたのはうるみだったのにさ。
うーん……気になるなぁ、その理由!
でも、私の直感がそんなことを聞く必要はないと告げている……!
ここは直感に従っておこうかな。ダンジョンに入ってから結構な時間が経過しているし、そろそろ出たいもの! なんか理由を聞いたらもうひと悶着ありそうだしね……!
「さて私が選ぶ報酬は……【首狩り】でいいか!」
最初に目についた技能だし、やっぱネーミングのド直球さに惚れたね。私の直感も『いいね!』と言っている……気がする! 首がない敵や首に攻撃が届かない敵に対しては仕方ないと割り切ろう!
私とうるみが報酬を選び終えると、目の前の光の球がまばゆく輝き、視界が真っ白になる。そして、視界が戻った時には、私たちは滝の近くの地面に立っていた。
「これで正式にダンジョンクリアってことね!」
「はい! 実りあるダンジョン攻略でしたね! 特に裏ダンジョンの発見は全プレイヤーに影響を及ぼす凄い発見だったと思います!」
「そう言ってくれると嬉しいけど、私は表のダンジョンを完全にクリアする前に裏の方をクリアしちゃったから、表と裏の違いがよくわからないんだよね。とりあえず出てくる魔物は裏の方が強いのは確かだけど」
「そうですねぇ。とりあえず、裏ボスの撃破報酬は表と比べてレアリティが一段階上がっているようです。本来、『滝の裏の遺跡』は難易度・中級のダンジョンのはずなのに、私もトラヒメさんも上級技能を獲得していますからね」
「やっぱりクリアが大変な分、報酬は豪華なのね」
「それと『滝の裏の遺跡』の宝箱の数は2つと言われているのに、裏ダンジョンにはもう1つありました。これもまた裏だからこその宝箱なんだと思います」
現段階でわかっている裏ダンジョンの情報をまとめると……。
・表ダンジョンでいくつかの条件を満たすことで入れる。
・出現する魔物は表より強い。
・裏のみの宝箱が存在する。
・ボスの撃破報酬のレア度がアップする。
うん、こんな感じかな?
あと、個人的には1本道で短めの構造をしているというのも特徴な気がする。
今回の例で言えば、裏への条件を満たすまでに表ダンジョンの9割はクリアしている。その後、さらに複雑な構造をしたダンジョンをクリアしろと言うほど、このゲームを作った人たちは残酷じゃないと私は思っている。
まあ、残酷ではないけど、どうしようもなく戦国ではあるんだけどね!
「ダンジョンに裏が存在するとわかった以上、あらゆるプレイヤーがあらゆるダンジョンに裏がないか調べると思います。数日もすれば、裏ダンジョンの特徴がよりハッキリしてくるかもしれません」
「そりゃご苦労さんて感じね。私もダンジョン攻略の楽しさがわかってきたけど、とりあえず今日はログアウトして休みたい気分ね~。もう十分すぎるほど今日は戦ったわ!」
ほどよい疲労感は、充足感に似ていると思う。今日の私は気持ちのいい疲れ方をしている!
うるみも今日はもうログアウトするとのことで、私たちは『いろはに町』を目指して歩き始める。流石にまだ『芝草村』は安心してログアウト出来る場所になっていないだろうからね。これからのレキの活躍に期待だ!
「ふんふ、ふんふ、ふーん! ……誰!?」
上機嫌に鼻歌を歌っている私に向けられた殺気……! それもかなり近いところから……!
まさか、私が油断していた……? いや、気分はまだ高揚していて、感覚は敏感なままだ。おそらく、相手が気配を上手く消していた……!
「流石に武具を構えたらバレるか……」
少し高いところに生えている木の陰から私たちを見下ろす金髪の男。その手に持った武具は……極端に細い槍!?
「ザイリン……!」
「知っているのうるみ?」
「隙間の郎党のリーダー……! ズズマやジャビの上に立つ男です!」
「あいつが……!」
まさにネズミといった感じの小男に、体が大きくて横暴な男……。そんな2人の上に立つ男は、モヒカン頭にトゲトゲした装備を身に着けたザ・悪党みたいな見た目だと思っていた。
でも、私たちの目の前に現れたのは少女漫画でヒロインを振り回すタイプのイケメンっぽい金髪青年だった。あまりにも方向性が違いすぎる……! 乙女心をもてあそぶなら、それはそれで悪党という考え方なの!?
というか、そもそも悪党っぽい見た目で統一しようと思ってないとか? 偶然気の合う仲間を集めたら悪党っぽい2人が揃った……とか?
……うん、その説が有力かな。
少女漫画とか乙女心とか考えてみたけど、正直どちらもそんなに詳しくない! 中学生といえば異性が気になり始めるお年頃だけど、私はそんなに興味がない。
ただ、目の前の男を斬っていいのかはすっごく気になる!
それと同時に、なぜ1人で私たちの目の前に現れたのかも気になる。他に仲間を引き連れている様子はないし、もしかして戦う気じゃないとか?
……何にせよまずは言い分を聞こうじゃないの。
こちらから襲いかかったら私が悪党になっちゃうし、それじゃズズマとジャビと同じだ。まあ、反撃とはいえその2人を斬り刻んできた私もある意味ワルなのかもしれないけどね!





