Data.38 鰻斬の刃
「うるみ! まずは動きを鈍らせて!」
「はい! 呪血の雨!」
赤い雨が鰻龍に降り注ぐ。しかし、雨を浴びてもその動きが鈍ることはなかった。
「もしかしたら耐性があるのかもしれません! 相手は裏ダンジョンのボスですし、あの亜龍種ですから!」
「厄介な相手ね……!」
でも、雨でぬめりが洗い流せることは証明済みだ。呪血の雨で鰻龍の表面からぬめりが取れれば、それだけ刀が通りやすくなる!
「雷虎影斬!」
稲妻を帯びた刃が、鰻龍の皮を焼きながら斬り裂く! お腹が空きそうな香ばしい匂いと共に体力ゲージが削れていく!
よし、ぬめり以外に特殊な性質は持っていないようだ。うるみの雨でぬめりを定期的に除去しつつ斬撃を加えていけば、倒すことはそう難しくない!
《グオオオーーーーーーッ!!》
鰻龍がジタバタと暴れる。長い体だから、これだけで十分危ない攻撃になる! 今だって尻尾が私を薙ぎ払おうと迫ってくる……!
「はぁっ!」
私は大縄を跳ぶようにその場で大きくジャンプ! 【敏捷増強】は体の動きをスムーズにする。その結果、ジャンプ力などの身体能力も自然と上がる。それこそ、リアルでは難しい動きだって可能になるんだ!
「大雑把な攻撃で私を倒せると思わないことね!」
走り、斬り、跳び、斬り、止まっても斬る!
考えなしに暴れ回る長い体の動きに完全に対応し、もはやその動きに合わせてリズミカルに斬ることが出来る! 鰻龍はかなり体力の多い魔物みたいだけど、こうなったら倒れるのは時間の問題だ!
「トドメは……頭だ!」
鰻龍の頭突きを跳んで回避し、真下に向けて突きを放つ! そう、ズズマと戦った時のように!
「鹿角突き!」
鹿角刀の刃が深く突き刺さり、鰻龍の体は消滅……するかと思いきや、頭を大きく振った後、鰻龍は地底湖の中に飛び込んだ!
当然、頭に刀を突き刺していた私も地底湖にドボン! でも、地底湖の水は普通の水に戻っていて、鰻龍も水に溶けるように消えていった。
きっと今の一連の動きはボス戦特有の撃破演出だったのね。まあ、巻き込まれた私はビックリしたけどね! 早く地上に戻って報酬を受け取り、ダンジョンをクリアしよう!
「……ん?」
地底湖の底の方に何かが刺さっている。水質が元に戻って水の透明度が上がったから、その姿はハッキリ見える。あれは……刀じゃないの!?
私はその何かに近づき、柄に手をかけると思いっきり引き抜いた。うん、やっぱり刀っぽい!
でも、刃の幅がすごく広い。私の体の幅と変わらないくらいだ。それに鍔がないし、刃が持ち手より前にせり出していることから、巨大化した包丁のようにも見える。
でも、カテゴリー的には刀に分類される武具だと思う。まさかこれが斧ということもあるまい。地上に戻ってから詳細を確認してみよう。
「トラヒメさん大丈夫ですか!?」
「うん、ちょっとビックリしただけよ。それよりこんなもの見つけちゃった」
地底湖で見つけた刀を地面に突き刺す。水の中でも薄々感じてたけど、こいつ見た目通り重いぞ!
「うわぁ、西洋の剣……その中でもバスターソードみたいな刀ですね。でも、鰻龍が落とした装備であると考えると、この刀のモチーフはウナギ包丁かもしれませんね」
「ウナギ包丁? ウナギを切る用の包丁?」
「はい。お暇な時にでもネットで調べてみてください。本当に剣みたいな形してるんですよ」
へー、そんな包丁があるんだなぁ~。ログアウトしたら調べとこう。でも、まずは目の前の刀の調査からだ!
◆鰻斬宝刀
種類:刀 評価:三つ星 血闘値:0.00
武具技能:【三舞おろし】
武具特性:水棲種特効
〈とにかく魚を捌きたいという願いが込められた刀。願いの重さで刀自体も重くなっているが、とにかく魚はよく斬れる〉
鰻龍自体がギャグっぽかったからか、落とした武具の説明もギャグっぽいなぁ。でも、それはそれとして三つ星評価だし、武具技能も持っている。それにこの『武具特性』っていう謎の項目もある。
「うるみ、この武具特性って何?」
「その武具が持つ特殊な性質を表しています。この刀の場合は、水棲種の魔物に対する攻撃の威力が増加する特性を持っているということですね」
「水棲種……さっき話してくれた野獣種とか亜龍種とかみたいな魔物の種族の1つね」
「はい。その名の通り水中や水辺に棲む魔物が属している種族です」
「つまり、この刀がもっと早く手に入ってたら、このダンジョンは楽勝だったということね」
「そうですね! でも、クリアした後にそのダンジョンで役に立つものが手に入るというのは、RPGじゃあるあるなんですよ」
「まっ、ゲームも現実もそんなもんよね」
まずは武具特性と水棲種特効について学んだところで、次は武具技能を見ていこう。いかにも包丁の技って感じだけど……。
◆三舞おろし
階級:上級 形態:体術 武具:刀
属性:無 念力消費:大 特性:水棲種特効
〈一振りで三度の斬撃を発生させる奇跡の一太刀。特に魚がよく斬れる〉
どんだけ魚が斬りたいんだ……!
特効の二段重ねじゃないの!
「うるみ、武具と技能の特効って……」
「もちろん重複しますよ! 2倍よく斬れますね!」
まあ斬れ味が増すのは嬉しいんだけど、魚や水辺の生物たち限定なんだよね……。この刀は鹿角刀よりも重いし、普段の戦いは鹿角刀の方が取り回しが良いかもしれない。
でも、魚や頑丈な敵に対しては、特効や刀の重さが役に立つと思う。
「早く試し斬りがしたいなぁ~。ダンジョンの出口はどこかなぁ~」
「待ってくださいトラヒメさん! その刀はあくまでも鰻龍が落としたものであって、ダンジョンクリアの報酬ではありませんよ!」
「あ、あはは……そうだったね! 早とちり早とちり!」
ここからさらにご褒美が貰えるなんて、ダンジョンは最高だ! それも裏となれば、一体どんなすごいものが飛び出すんだろう……!





