Data.36 戦いとは心
まずは素直な一太刀!
剣道で言う『面』の動きのように、頭を狙って上から刃を振り下ろす!
ピラニアの半魚人『肉食魚人』はそれに反応し、手首の鱗の刃を交差して受け止める! ガキィンという金属と金属がぶつかり合う音が聞こえ、私の手に確かな衝撃が伝わってくる。
「なるほど、その刃は見せかけじゃないと」
そのまま何度か肉食魚人と斬り結び、その反応速度と刀捌きを観察する。うん……悪くはない! ある程度剣の心得がある動きをしているし、私の動きもよく見えている。
でも、あの達人同士の寒気を感じるようなギリギリの斬り合いにはならないな!
「雷虎影斬!」
大きく踏み込み、その胴体に稲妻を帯びた刃を食らわせる。肉食魚人の体力は大きく削られるも、あと1割くらいは残った。弱点である風雷の攻撃を食らってこれということは、やはり遺跡の魔物より頑丈みたい。
しかし、稲妻を帯びた刃は触れたものをわずかに痺れさせる。そのわずかな隙があれば、次の一太刀を食らわせるのは余裕だ。通常攻撃を1回食らわせ、肉食魚人を完全に撃破する。
「ふぅ……。そこそこ強い奴も出るみたいだし、油断せずいこうね」
「今の戦いでそこそこ強いって感想出てきます!? 私には楽勝すぎて手加減しているようにも見えましたよ!?」
「まあ、それも間違ってはないかな?」
その後も私たちの前に立ちはだかるそこそこ強い半魚人たち。扱う武器の種類も豊富で、斧とか鞭に加えて飛び道具の銃や妖術を使う奴までいた。
でも、確かに楽勝でもある。それこそ遺跡の方にいた魔物より戦いやすいんだ。ステータス的には間違いなくこっちの魔物の方が強いのにどうしてだろう……。
「……あっ! そうか、人だからなんだ」
「何がですか?」
「裏の半魚人たちはそこそこ強いのに楽に勝てる理由よ。私にとっては人らしい動きをする強敵よりも、人間ではない動物的な魔物の方が厄介なのよ」
人間に近い体になれば、当然動きも人間じみてくる。それは高度な技が扱えるようになる反面、動きが予想の範囲内に収まるという欠点も抱えている。
冷静に考えればひっくり返ったまま高速スピンを始めるカメや、巨大化した横歩きしないカニの動きの方が理解出来ないし、想像することも難しい。
でも刀を持った人間の動きなら……全然わかる。銃を持った人間が何をしたいのかも想像できる。魔法はリアルに存在しないけど、銃と同じ飛び道具と考えれば理解できる。
相手の心が理解できるほど、戦いは進めやすくなるんだ。
「戦いとは相手の心を理解することにあるのね……」
納得する答えは出たけど、1人でしゃべるもんだから若干うるみに引かれている気がする……。気を取り直して裏ダンジョンをずんずん進もう。
裏は分かれ道がなかなか出てこない。ここまでずっと1本道だ。裏ダンジョンに入るには、表のダンジョンを条件を満たしつつ進めていく必要がある。その時点で複雑な動きを要求されるから、裏の方はあまり複雑な内容にしてないのかもね。
「トラヒメさん、宝箱です!」
うるみが指さすのはメインルートの1本道から別れた短い袋小路だ。ほぼ小部屋と言ってもいい小さなその空間にぽつんと宝箱が置かれている。周りに宝守の魔物はいないけど……。
「……罠っぽいよねぇ」
「ええ、罠っぽいです」
「スルーする?」
「いえ、開けたいです!」
「だよね!」
そうと決まればうじうじしていても時間の無駄だ! 私はダッシュで宝箱に接近し、フタを勢いよく開け放つとすぐに宝箱から距離を取った。
しかし、宝箱から魔物が出てくることもなければ、宝箱そのものが魔物でもなかった。そーっと近づきその中身を覗いてみると、そこには遺跡で見たものより少し豪華なデザインの巻物が2つ入っていた。
内容は……おっ、2つとも中級技能の巻物だ! 1つは砲の技能【散水玉】で、もう1つは投の技能【大遠投】だ。
砲はまあ大砲とかのことなんだろうけど、『投』って果たして武具なのか……? まあでも、手裏剣とかブーメランとか投げる武器はリアルでも存在するし、そういうのをまとめて投カテゴリーに入れてるのかも?
「うるみ、どっちも使えそうにはないけど良い修練値になりそうね」
「本当ですね! 中級技能を消費した時に得られる修練値は40ですから、1つで下級技能の修練値をMAXにすることが出来ますよ!」
下級技能から得られる修練値は8だから、中級技能は下級5個分の価値ってことね。すでに中級指南書を持っていて、昇級させる技能も決まっている私にとってはすごくありがたい存在だ!
早速【敏捷増強Ⅰ】の修練値を上昇させ、中級指南書を使用する!
《技能昇級! 下級技能【敏捷増強Ⅰ】は中級技能【敏捷増強Ⅱ】に昇級しました!》
予想通りの変化だけど、それがいい!
体の動きが軽くなって、また全盛期に近づいた気がする!
「うるみはどうする?」
「私はまだ指南書を手に入れてませんので、ここは消費せずに持っておきます。もし指南書が見つかったら、その時は【虹の閃】を昇級させたいですね!」
「その技能お気に入りだもんね~」
そんなことを言いながら袋小路を出ようとすると、天井からべしゃべしゃと緑色の粘液の塊が2つ落ちてきた。それは1メートルくらいまで膨らむと、ずりずりと私たちの方に近づいてきた……!
「洞窟粘菌……いわゆるスライムです。体術による攻撃よりも妖術の方が効きやすいタイプですので、ここは私に任せてください! 虹の閃!」
細くまばゆい光の線は、半透明の粘菌の中にある丸い石のようなものを撃ち抜いた。おそらく、あれが弱点! スライムは一撃で消滅した。
【虹の閃】の貫通力はピカイチだから、こういう明確な弱点がある敵にはすこぶる強い。
「やっぱり使いやすいですね、この技能! 早く昇級させてもっと強くしたいなぁ~」
「このダンジョンのボスが指南書を持ってたら最高ね!」
もはやこのダンジョンに私たちの敵はいなかった。迫りくる魔物を斬り裂き、撃ち抜き、ついにたどり着いた裏ダンジョンの最奥には……禍々しいデザインの扉があった。
「もう水があふれ出してきて流されることもなさそうだし……開けようか!」
私たちは2人で扉を押し開き、その闇の中へと入っていった。
新年あけましておめでとうございます!
今年は寅年ということで『神速抜刀トラヒメさん』も勢いに乗っていきたいです!
引き続き応援よろしくお願いします!





