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Data.34 虹の閃

「2つ目の宝箱……何が出るかな!」


 勢いよくフタを開けると、中には1本の槍と巻物が入っていた。巻物の方は技能として、槍は……槍だよねぇ。私もうるみも使えない武具がここで来たか。


 まあ、ランダムで中身が決定されるなら、毎回毎回良いものばかりとは限らない。せめて巻物の方が使える技能だと嬉しいんだけど……。


「ひゃー! 来たあああっ!」


 巻物の詳細をチェックしていたうるみが叫ぶ! 出会った頃はおしとやかな子だと思ってたけど、はっちゃける時ははっちゃけるよね。


「うるみ、それ何の技能の巻物だったの?」


「杖の下級技能【(にじ)(せん)】です! これ光属性技能ですよ!」


「おっ! 杖ってことはうるみ用だね。使える技能が手に入って良かったよ。じゃあ、槍の方は私が貰って……」


「反応薄くないですか!? 光属性の技能なんですよ!?」


 光属性……ってそんなにすごいの? あまりゲームに詳しくない私でも光属性って言葉は良く聞くし、むしろポピュラーな属性だと思ってたんだけど……。


 それに『炎熱』とか『水氷』とか『風雷』に比べてネーミングもサッパリしてるし、そんなに食いつくべき部分だとは思わなかった。


「光属性ってどうすごいの?」


「はぁ……はぁ……すいません。テンション上がり過ぎました……! 光属性はいわば『超レア属性』で、他の属性の技能と比べて入手が困難なんです! まさか、このダンジョンで手に入るとは! ネットにもそんな情報は出ていませんでした!」


 あれだけ多くの人がいるネット上にも情報が出回らないほどレアな属性ってことか。そりゃ、うるみのテンションも爆上がりなわけだ。


「光属性のすごいところは希少性だけじゃありません! なんと、この属性の弱点は闇属性だけで、その他すべての属性に対してアドバンテージを取ることが出来るんです!」


「つまり、光は闇以外のすべての属性に有利ってこと?」


「はい! ただし、有利と言っても水氷属性に対する風雷攻撃のように爆発的に威力が上がるわけではありません。微妙に強くって不利にはならないという感じです」


 ふむ、威力を求めるなら弱点を突くのが一番というのは変わらないか。それでも十分便利な性質を持っていると思う。


 うるみみたいな1つの属性に特化してるタイプは、弱点となる属性の敵が出てくるとあまりにも不利すぎる。そこに広く浅く他の属性に有利な光属性が合わされば隙がなくなる……。だから、うるみはこんなに喜んでいたのね。


「これでうるみが苦手なのは闇属性だけになったわけだ」


「まあ、あくまでもメインは水氷属性ですから、苦戦する敵はまだまだ多いと思います。でも、無抵抗で終わることはなくなったかもしれません! あと光属性と闇属性の関係は特殊で、お互いに弱点って感じなんです。だから、戦い方次第では闇属性も倒せますよ!」


 光が闇に()まれるか、闇が光に照らされるかは使い手次第ということか。なんか……カッコいいなぁ。私も光の刃を振るってみたい!


 でも、今回は杖専用の光属性技能だから迷う余地はない。【虹の閃】をうるみに渡し、私は二つ星武具『清流の槍』を手に入れた。槍を使う予定はないけど、同じように刀を使う予定がないプレイヤーと交換することも出来るらしいし、一応大事に持っておこう。


「さて、宝箱を2つ開けたし後はボスを倒すだけね!」


 このダンジョンもあらかた探索し終わり、残るルートはただ1つ! そこがボスのいる部屋に続いていると見て間違いない!


 迷うことがなければダンジョンというのはそこまで広く感じない。最後のルートをひたすら進めば、ほどなくして目の前に巨大な扉の前が現れた。


「ここがゴールで間違いなさそうだけど……」


 その巨大な扉がある部屋はドーム状になっており、中央には例の『水を吐き出すコイを掲げた女性の像』……その巨大版がでーんと立っている!


 しかも門番か中ボスか、分厚い殻を持った巨大カニが私たちの前に立ち塞がる。そのカニは片手だけハサミが大きいタイプで、まるで見せびらかすようにハサミをチョキチョキしている。


「こりゃまた硬そうな……!」


「トラヒメさん、ここは私に任せてください! 光でぶち抜いてやりますよ!」


 うるみがずいずいっと前に出てくる。その背中から異常なまでの自信を感じる。でも、いくら光属性だからってまだ下級技能だし、そんなに威力は……。


「いきますよ……! 虹の閃!」


 カニに向けられた杖の先端がまばゆく輝く。そしてそれは……一瞬の出来事だった。杖からすさまじい速さの光が放たれ、カニの体を貫いた!


 すごい威力であると同時に、すごい攻撃範囲の狭さに驚く。確かにあの硬そうな殻を貫いてはいるけど、そのサイズはうるみの拳くらいだ。プレイヤー相手ならまだしも、巨大な魔物相手では致命傷にならない。実際、カニの体力ゲージもそこまで減っていない。


 ただ、カニはすごく怒ったようでうるみに向かって突進する。しかも、カニ特有の横歩きじゃなくて、普通に前に走っている!


 当然うるみも逃げ出すんだけど、人間って逃げる時は障害物を使うよね。うるみは必死で逃げるあまり、例の女性の像を盾にしてしまった……。


 巨大なハサミで真っ二つにされる巨大な女性の像。その残骸からあふれ出す大量の水……。水位は瞬く間に上昇し、遥か上の天井に迫る勢いだ!


 あぁ……もうじき、このダンジョン全体が水で満たされる!


「うるみ! このゲームって溺れるとかあるの!?」


「流石に窒息する苦しさを再現してはいませんから、水の中でも呼吸は出来ます! でも、一定時間なんの対策もなしに水に潜り続けると死んでしまいます!」


 つまり、この状況はかなりヤバいってことだ! なんとかあの大きな扉を開けてボス部屋になだれ込みたいところだけど、すでに扉は水没している!


 私たちの足も床から離れ、水面から顔を出して立ち泳ぎをしている状態……。でも、潜って体をぶつければ、扉が開く可能性はゼロじゃない! 私は意を決して潜り、扉に向けて泳ぐ。


 その時、不思議な光景を目にする。水没した部屋の床がはがれ、その下からぽっかりと開いた穴が現れた。それはまるで……排水溝のようだった。


 水はその穴に吸い込まれていき、どんどん水位は下がっていく。しかし、吸い込む勢いが強烈過ぎて激しい渦が発生する。


 私たちはまるで洗濯機の中の洗濯物のようにもみくちゃにされ、最後には穴の中に吸い込まれていった……。


 ◇ ◇ ◇


 トラヒメたちがわけのわからない目にあっている時、町の大高札(おおたかふだ)にもわけのわからない情報が表示されていた。


 それは新たなる迷宮の発見情報――。


 初めてプレイヤーによって迷宮が発見された時、その発見者と迷宮の情報が大高札に表示される。これ自体は何もおかしくはない。今までも新たな迷宮が発見されるたびに情報が張り出されてきた。


 しかし、今回表示された迷宮は……すでに発見されているはずだった。


《新たなる迷宮『滝の裏の遺跡:裏』が発見されました》


 プレイヤーたちはまだ『裏』の意味を知らない。

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