Data.31 驚異の淡水生物
「おっ、早速お出ましかな?」
私たちの目の前に現れたのは、くすんだ茶色の体を持つザリガニだった。和風のゲームだからか、ザリガニもちゃんと日本の在来種っぽい色をしている。ただし、サイズ感は海外!
……いや、流石に海外でもこのサイズはないか! だってハサミを振り上げたら、私たちの身長を超える高さだもん!
「雷虎影斬!」
振り下ろされたハサミに対して雷の刃を当てる! バチィという音と共にハサミを弾き返したけど、斬れた感覚はない。ザリガニの体力ゲージもまだ4割ほど残っている。
いくら魔物の弱点となる属性で攻撃しても、体の硬い部位に当てると一撃とはいかないか。まあでも、一撃で6割も体力を持っていければ十分ね。
今度はハサミとハサミの間に潜り込み、ザリガニの頭に【雷虎影斬】を叩き込む。これで残った体力は簡単に削り取れた。
「この調子でカニとか貝とか亀とか来たら、頑丈でめんどくさそうね~」
……とか言うと出会ってしまうのが人間か。カニとか、貝とか、亀とか、淡水の川に生息する生物を模した魔物がたくさん出てくる!
しかも、どいつもこいつも硬い! 斬り心地は最悪と言っても良い! まあ、そんな奴ら相手にも苦戦はしないんだけどね!
それはそれとして、滝壺で出会った鮭たちの斬り心地はとても良かった。毎日魚をさばく料理人たちも、あんな快感を味わっているのかな? あ~、水氷属性のダンジョンって言うから、もっと魚が出てくると思って……。
「ぎょ!?」
思わずギャグみたいな悲鳴をあげてしまった……。でも、そうと言わずにはいられない奇怪な魔物がこの先にいる……!
それは魚にそのまま手足を生やしたような半魚人だった! しかも、元となっている魚はブルーギルでしょあれ! ド直球の外来種じゃない!
しかし、半分人で外来種とはいえ魚は魚だ。斬り心地は今まで斬ってきた硬い奴らより良いかもしれない。
「ああいう半魚人みたいな人型の魔物が出てきたということは、私たちもそれなりにダンジョンの奥へ進んでいるということです。奥に進めば進むほど、出てくる魔物も強くなりますから」
「ということは、あいつもあんな見た目でそれなりに強いのか……」
よし、斬ってみよう!
向こうはまだこちらに気づいていない。
しかし、不意打ちでは実力がわからないので、あえて足音を鳴らして近づく。すると、ブルーギルの半魚人は『ぎょ!?』とした表情で振り返った。
「かかってきなさい」
言葉を理解しているのかはわからないけど、ブルーギルの半魚人はすぐさま手に持った槍で私を突いてきた。案外腰の入った力強い突きだけど、隙が大きすぎる!
「雷虎影斬!」
下から上へと刃を振り上げ、半魚人を斬り上げる! その勢いで半魚人は後ろに吹っ飛び、背後に設置されていた『水を吐き出すコイを掲げる女性の像』をぶっ壊した! すると、像からぶしゃあっと水が噴き上がり、あたり一面を水で濡らす。
あー、なんか高そうな像を壊しちゃった……。でも、ダンジョンは1回の挑戦ごとに作り直されるから、いくら壊しても問題ないのか! ならば、周りを気にせずどんどん斬っていこう!
「まあ、そこまで強くはなかったわね。斬り心地は良かったけど」
「このダンジョンの難易度は中級ですから、装備は二つ星以上、技能は中級以上を揃えていれば、魔物を倒すのは難しくないとされていますね」
「じゃあ、三つ星装備と上級技能を持ってる私たちなら楽勝ってわけだ」
「ただ、この難易度はあくまでも4人パーティを組んだ時のものなんです。なので、2人で来ている私たちはもっと苦戦してもおかしくはありません。しかも、今は実質トラヒメさん1人で戦っている状態ですから、本来ならば……」
「要するに私が強いってことね」
「そういうことです!」
とはいえ、ここはまだダンジョンの深い部分ではない。より奥へと進めば、それなりに斬り応えのある魔物も出てくるだろう。うるみと相談しながら進む道を決め、手探りでダンジョンの最奥を目指して進む。
「これはまた……厄介な地形に出くわしたなぁ」
床にあたる部分が水で満たされ、その中を巨大な錦鯉が泳いでいるフロアがあった。ここを通り抜けるには、フロアの真ん中を通る一本橋を渡るしかない。
しかし、一本橋の底面は水面から1メートルも離れていない。飛び跳ねれば、コイでも簡単に橋の上の私たちに攻撃を仕掛けられるだろう。
「戦闘は避けられないですね……。でも、これだけの数のコイに無策で挑むのはトラヒメさんでも危険です。ここは私が敵を弱体化してみます……! どこまで効くのかわかりませんけど!」
うるみは杖を掲げてこう叫んだ。
「呪血の雨!」
血のように赤い雲がフロアの天井に満ち、赤い雨を降らせていく。それはコイたちが泳ぐ水を赤く染め、その動きを鈍らせていく!
「これこそ私が異名を持つ鬼から手に入れた技能【呪血の雨】です! 水氷属性で階級は上級! その効果は赤い雨を降らせ、それに濡れた敵を弱体化させること!」
「広範囲弱体化技能……! また『隙間の郎党』に狙われる理由が増えちゃったね」
「今度は返り討ちです! 私だって成長してますから!」
弱体化されたコイたちにできることは、水面でピチピチと小さく跳ねることのみ。とてもじゃないけど脅威にはならない。
こうして水のフロアを通り抜け、私たちがたどり着いたのは……行き止まりだった。『この道はゴールに通じていない』というダンジョンからの無言の回答だ。
ただし、この行き止まりには宝箱がある! すべての宝箱の回収を目指す私たちにとっては、むしろこのルートこそがあたりというわけだ!
とはいえ、喜ぶのはまだ早い。うるみが言っていた通り、宝箱の近くにはそれを守るように配置されたモンスターが存在するからだ。
「あれが宝箱を守る宝守か……」
今まで斬ってきた亀よりも大きな体を持つ『ベニミミガメ』。その頭には深紅のラインが入っている。その特徴的に、こいつもモチーフは外来種だよね。外来種ほど強い魔物にされているのは、まあリアルではあるけど……。
「駆除するか……! 私利私欲のために!」
求めるのは亀の背後の宝箱! さて、どう攻めるか……!





