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Data.30 滝の裏の遺跡

 ザバザバザバと体に大量の水を浴びる。その勢いは思った以上に強くって『何かの修行になりそうだな』と思った。ただ、刀の修行にはならなそうなのでサッと通り抜ける。


 滝の裏は断崖絶壁ではなく、岩壁が大きくくぼんで出来た空間があった。そのくぼみの中に『滝の裏の遺跡』の入口はある。


 建造物というよりは、岩壁を人の手でくり抜いて掘った洞窟のような雰囲気だ。洞窟の中は真っ暗闇で、ここから中の様子をうかがい知ることは出来ない。


「ここに入っていけばいいのよね?」


「はい、特に条件とかはありません」


 羽織と袴が吸った水を絞りながらうるみは言う。


 私の着物は生地が薄めだから、あんまり水を吸っていない。ただ、湿ったせいで微妙に生地が透けているのが気になる。もしかしたら、この装備はとことんセクシー路線なのかもしれない!


「お待たせしました。行きましょう」


 心なしかワクワクしているっぽいうるみを先頭に、私たちは迷宮の中に入った。その瞬間、体が妙な感覚を覚える。振り返ると、通ったばかりの入口が塞がれている! もしかして……罠!?


「うるみ、まさか裏切り……」


「そ、そんなわけないじゃないですか! ダンジョンの入口が閉まるのは、ここが一度入ったらクリアするか、死ぬか、ギブアップするかしないと出られない空間だからです!」


「ご、ごめんごめん! 冗談よ!」


 ま、まっさかうるみが裏切ると本気で思っちゃいない。ただ、ふと頭に浮かんだからショックを受けてしまっただけなんだからね!


「でも、私たちが入って入口が閉まっちゃうなら、ここを目当てに後から来る他のプレイヤーたちは私たちが攻略を終えるまで待ちぼうけってわけだ」


「いえ、ダンジョンはパーティごとに個別に用意されるので、他のパーティが後から来ても問題ありません。つまり、このダンジョンは私たちだけのダンジョンなんです」


「そうなんだ。なんか普段のフィールドと世界観が違うね」


「その認識は正しいです。ダンジョンは普段のフィールドと切り離された異空間のようなものですから。それだけ気楽に遊べますし、他プレイヤーから妨害を受けることもありません」


「気楽に……ねぇ。でもデスペナルティはあるんでしょ?」


「トラヒメさんも思考が戦国になってましたね。その通りです。ただ、死んでも道具とお金のばら撒きはありません。ダンジョンは1回の挑戦ごとに構造が変わりますから、道具とお金がばら撒かれても誰も回収することができませんからね」


 ダンジョンにも情けはあるというわけね。


 それにしても、他のプレイヤーから妨害を受けることはない……か。つまり、ゲームを始めて短期間で2度の妨害を受けている私のような人でも、安心して遊べるコンテンツってことね。まあ、私にとっては妨害もメインコンテンツだったりするけど!


 でも、今回はいつもいろんなことを教えてくれるうるみへの恩返しみたいなところもあるし、彼女のためにもダンジョン攻略に全力を尽くそう。今のところ人斬り欲求は十分満たせてるし、魔物を斬るのも楽しくなってきたところだしね!


 さて、肝心のダンジョン内部の様子だけど、思ったよりもしっかり遺跡だ。入口は手掘りの洞窟感があったけど、内部は四角い通路に四角い部屋で、まるでキッチリ設計して作られた人工の建造物のようだ。


 いや、遺跡だから最初から人工物なのは確定なんだけど、表現としてそういう言葉が似合うキッチリさということだ。


 また、外からは真っ暗に見えていたけど、中は非常に明るくて視界良好だ。しかし、その明るさを生み出している光源は見つからない。要するに、ここはそもそも明るい空間としてゲーム的に『設定』されてるんだろうな。


 まさに遊ぶために作られた異空間というわけだ。


「まずはどこに向かえばいいのか……。順路や案内表示はないね」


「まあ、迷宮ですからね。迷いながら正しい道を探すしかありません。ただ、ヒントになるものや宝箱が配置されているので、ただ漠然とさまようのではなく、目を凝らして探索することが大事です」


 そうだそうだ、宝箱も置いてあるんだったな。聞きなれた言葉だけど、現実世界ではまずお目にかかれない宝箱……。ぜひともそれを見つけて、開く時のワクワクを味わいたいものだ!


「あ、宝箱には『宝守(たからもり)』という、いわゆる番人的な魔物がセットで配置されています。ボスほどじゃないにしても厄介な性質を持ったものが多いので、安易に手を出してはいけません。よーく考えてから戦いを挑むか、場合によっては宝箱ごとスルーしてクリアを……ってトラヒメさん聞いてますか?」


「うん、宝箱全部開けるって話でしょ?」


 そう言うとうるみは驚いた顔をした後、少し呆れたような表情を見せた。こういう表情は非常に見覚えがある。竜美を含め私のことをそれなりに知る友達は、たまにこういう顔をするんだ。


 つまり、うるみもこの短期間で私のことをそれなりに知ったというわけだ。リアルで彼女がどんな人物なのかは知らないけど、実は年齢や生活環境に近しい部分があるのかもしれない。


「……そうですね! トラヒメさんと一緒に来たんですもの! 宝箱は見つけ次第片っ端から開けていきましょう! もちろん宝守の魔物も全部ぶっ倒して!」


「そうそう、その意気よ!」


 自らを鼓舞(こぶ)しテンションを高めたうるみは、『私についてこい!』と言わんばかりにずんずん歩き出す。その後ろをテクテクついていく私は、まるでお姫様を守る用心棒のようだった。

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