Data.27 その身に春と雷を
「到着!」
私たちは難なく『芝草村』まで帰ってきた! 後はおばさんに勝利を報告すればいいだけだ。すぐにレキの家に行くと、出発した時と変わらず不安そうなおばさんが立っていた。
「おばさん、ただいま!」
「レキ! 本当に心配したんだよ!」
「心配させてごめんね! でも、あの鬼はちゃんと退治してきたよ! ほら、このトンカチが証拠さ!」
レキが深紅のトンカチを掲げる。それを見たおばさんは目を見開いて驚いたけど、心底ホッとしているようでもあった。
「そうか、倒せたのかい! 良かったね! でも、あんた1人で倒したわけじゃないんだろう?」
「えへへ……そうなんだ。この人たちに危ないところを助けてもらったんだ」
「レキを助けてくれて本当にありがとう! あんたたちに任せてよかったよ!」
おばさんが私たちの方に向き直り、頭を下げる。うるみはすぐさまそれに応える。
「私たちもレキさんが無事で本当に嬉しいです。危ないところもありましたけど、こうしてレキさんが生きて帰ってくることが出来たのは彼女自身の力でもあります。レキさんには戦いの才能があると思います。今回みたいな無茶はしちゃいけませんけど、時には彼女の力を信じて見守ってあげてください」
うーん、うるみは良いこと言うなぁ~。
レキをこのまま普通の村娘にしておくのはもったいない。彼女には自分だけでなく、この村を強くする能力がある! そこで私からレキにプレゼントがある!
「レキ、トンカチのついでにこれもあげるよ」
私はレキに草原の戦いで奪った二つ星武具『断罪の斧』を手渡した。
「えっ、どうして!? トンカチまで貰ったのにこんなにいっぱい貰えないよ! どうして僕にこんなに良くしてくれるの?」
「それはレキに『芝草村』を強くしてほしいからよ。川を渡れば鬼の棲む森、すぐ隣には魔物が出る草原……。そんな立地の村なのに防御が甘すぎると思ってね。でも、木を切る斧とトンカチがあれば、村を守るためにいろんなものを作れるじゃない?」
「いろいろって……なんだろう?」
「例えば木を切って作った丸太で村を囲うだけで、今のボロボロの柵よりは魔物の侵入を防げると思わない? そうやって村が強くなれば、私たちもここを拠点にして冒険がしやすくなる」
「僕たちも住みやすくなるね!」
「そういうこと! だから、この斧はあげるわ」
「うん、ありがとう! 頑張って使いこなすね!」
情けは人のためならず――。
村を守る心を持ったレキが強くなれば、私たちも動きやすくなるんだ。
「あんたたち、何から何までありがとうね。私たちは大したものを持ってないけど、出来る限りのお礼としてこの服を贈りたいんだ」
おばさんが私に渡したのは……新しい防具だった! 淡い黄色と桃色がフレッシュな着物っぽいけど、今はたたんであるから全体のデザインがわからない。
「あんたを一目見た時から絶対に服をあげないとって思ってたんだ。この服は貴重なものらしいけど、あまりにも若者向け過ぎて私には着られなくてね。レキも趣味が合わないみたいだし、これを気に入ってくれそうな子をずっと探していたんだ」
若者向けの服ねぇ……。ちょっと引っかかる表現だけど、まずは装備してみるか!
ステータスの装備タブを開き、今貰ったばかりの新しい防具をタッチで選択する。防具の名前は『春雷の姫衣』だ!
「……ほー、こういう感じの服なのか」
桜と稲妻をモチーフにした桃色と黄色の着物と袴。それだけだと落ち着いた服みたいに聞こえるけど、この防具の形状は……いわば邪道着物!
上は材質こそ着物だけどノースリーブ! 袖がまったくないので腕を上げれば腋まで見えるデザイン! しかも布が少ないからおへそが丸出しになっている!
下は袴という名のミニスカート! 膝上丈で動くときわどい雰囲気……! まあ、私自身は見えても気にしないけど、このセクシーさは周りが気になって仕方がないんじゃない?
それにしても、確かに若さゆえの何かがないと着れない服だ。おばさんとレキが着るのを拒むのも納得……!
それにおばさんはこの服を気に入ってくれそうな子を探していたと言っていた。つまり、私がこれを気に入りそうな子と判断したわけだ。
フラダンス・ザムライになったことがここまで尾を引いてる! あれを見たから、私が露出好きな子だと思ったんだ!
いやぁ、確かにこの服のデザインも嫌いじゃないけど、別に露出が好きってわけでは……。
まあ、そんな言い訳をわざわざしようとは思わない。ここは素直にもらっておこう。そうと決まれば、防具の情報をチェックしておかないとね。
◆春雷の姫衣
種類:防具 評価:三つ星
防具技能:【風雷増強Ⅱ】【敏捷増強Ⅰ】
〈稲妻の如き力と速さを着た者に与える華やかで艶やかな着物〉
おばさん……ありがとう!
あなたの選んだ防具は確かに私の趣味に合っています……! こうなったら肌を見せることも楽しみます……! あ、なんかもう露出を増やすのが好きになってきたような……。
「気に入ってもらえたかい?」
「ええ! とっても!」
「そうだと思ったよ! その服もあんたに着てもらえて嬉しいだろうね!」
「はい! 大事に使います!」
さらなる速さに、さらなる雷の力! 私の成長は留まることを知らないな!
情けは人のためならず――。
昔の人はこんな未来にまで通用する言葉をよく残したものだ。
この服を着て、次はどんな敵を斬ろうかな?





