Data.26 熱き血を刃に
……よし、だいぶ風を感じたな。そろそろこの森から出て、レキを村に送り届けるべきだ。そう思って起き上がろうとした時、空から何かが降ってくるのが見えた。
「うわわっ!?」
私のすぐ近くに落ちてきたのは……深紅のトンカチだった! あの赤鬼が振るっていたものよりも多少小さくなっているけど、それでも私の身長くらいのでっかいトンカチだ。
こんなのがどうして突然……あっ! 鹿を倒した後に鹿角刀が出てきたみたいに、赤鬼を倒したから武具が出てきたってわけね。
「それにしたって、こんな出現の仕方は危ないなぁ」
……と言いつつ、すっごく気になるのでトンカチを調べてみる。
◆血判の槌
種類:斧 評価:三つ星 血闘値:0.00
武具技能:【噴血砕】
〈灼熱の血をしみ込ませたトンカチ。振り下ろされた場所には熱を帯びた血だまりができるという〉
絶対刀じゃないとは思ってたけど、斧に分類されるのも予想外だった。どちらにしろ、私に使える武具ではないな。
「これ、レキにあげるよ」
この中で斧使いと言ったらレキだ。彼女は武具である斧を赤鬼に壊されたばかりだし、ちょうどいい新装備だろう……と思ったんだけど、なにやらレキはあたふたしている。
「そ、そんな! 助けてもらったのに武具まで貰えないよ! それにまだ僕はお礼も言ってない! ありがとう、僕を助けてくれて! 1人じゃ絶対死んでたよ!」
「これに懲りたら無茶はしないことね。で、これを早く貰ってくれない?」
「い、いいの? 貴重そうなものだよ?」
「いいよ! 私、刀しか使わないし」
「じゃあ……ありがたく貰うよ!」
レキは深紅のトンカチを持ち上げる。重そうなのに案外軽々持つものだ。
「うん……! なんかしっくりくるよ。ありがとう、えっと……」
「私はトラヒメ。こっちはうるみよ」
「ありがとうトラヒメさん! うるみさん!」
「どういたしまして!」
トンカチの持ち主が決まったところで、うるみが私に小声で話しかけてくる。
「一応使わない武具でも持っておけば必要な武具と交換出来たり、高い値段で売ったり出来ますが……野暮ですかね?」
「いや、教えてくれてありがとう。また機会があればそういうこともするよ。でも、今回はレキに貰ってほしいと思ったんだ。それなりに考えがあってね!」
情けは人のためならず。レキに武具を譲るのは、私にとっても得があるんだ。
「なら構いません。トラヒメさんは異名持ちの討伐貢献度1位ですから、トンカチ以外に何かしらの装備か技能が手に入っているはずですしね」
「え? あれが撃破報酬じゃないの?」
「はい。あれは普通にレアドロップですね。異名持ちの討伐報酬は確率ではなく確定入手ですから、討伐が完了した時点で報酬はプレイヤーの所持品の中に送られてるんです」
「つまり、ステータスの装備タブか技能タブを開いて確認すればいいのね」
すぐにステータスを開いて各タブをチェックしていく。
「……あった! 技能だ!」
◆火激流血刃
階級:上級 形態:体術 武具:刀
属性:炎熱 念力消費:中 修練値:0/1000
〈高速で循環する血が熱を生み、敵を焼き斬る刃と化す〉
上級技能! 炎熱属性!
昇級に必要な修練値がバカみたいに多いことに目を奪われるけど、それはそれとして新しい攻撃のための技能だ! 説明文もなんかカッコいいし、早速試し斬りがしたい!
「あ、討伐に貢献したプレイヤーってことは、うるみもちゃんと報酬を貰えてる?」
「はい、私も上級技能を習得しました。戦闘に関わった人数が多くなると、貢献度の低いプレイヤーには微妙な報酬しか与えられないんですけど、今回は3人ですし私も良いものを貰えました」
「ならオッケー! これで報酬の確認も出来たわけだ」
次の戦いに備えて、かるーくストレッチで体をほぐし気合を入れなおす。私たちが受けている依頼は、無事に帰ることが何よりも重要だからね。
「みんな、もう1回気を引き締めてね。また私たち囲まれてるから」
「ええっ!? またですか!?」
「森の遠いところにいた鬼たちが戦闘に気づいて寄ってきたみたいね」
これだけ広い森だもの。斬っても斬っても斬り切れないくらい鬼がいるんだろう。全部斬ってやってもいいけど、あいにく今は一番強い鬼を斬ったばかりだから、それより弱い鬼はしばらくいいかな!
まあ、新技能の試し斬りはさせてもらうけどね……!
「来た道を一直線に帰るよ!」
「はい!」
「わかったよ!」
再び闇に包まれた森へと足を踏み入れる。すると、いきなり木の陰から2メートルほどの鬼が襲いかかってきた。これが中型の鬼か……。十分大きいんだけど、あの赤鬼を見た後だとね。
「火激流血刃」
新技能の餌食になってもらう! 技能を発動すると刃が血液をまとい赤く発光する! 手から刀の熱が伝わってくる……。流石は炎熱属性の技能だ!
「ふんっ!」
中型の鬼に刃を振り下ろすと、今までにない感触が手に伝わった。ザクッて感じじゃなくて、まるで熱したナイフでバターを斬るような『するん』という感覚だ。
そして何より、この技能で撃破した敵は炎に包まれ灰となって消える特殊な演出が入る! これがカッコいいのなんのって……!
「おりゃ! おりゃ! おりゃーっ!」
そして、もう1つの特徴!
この技能は1回斬ったら終わりではないということだ。
【雷虎影斬】は1回の発動で1回斬ったら雷が消えるけど、この技能は何を何回斬ったかに関わらず、一定時間血液の刃を維持し続ける。その時間は決して長くないけれど、要領よく連続で敵を斬れれば、1回の発動で何体もの敵を灰にすることが出来る!
「これはまた極めがいのありそうな技能ね!」
『芝草村』までの帰り道、私は気分よく鬼を斬りまくっていった!





