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Data.23 異名を持つ鬼

「集中……集中……いけっ! 蟒蛇水流(うわばみすいりゅう)!」


 うるみの頭上にあった水が蛇の形に変化し、空を這うように赤鬼へ迫る。赤鬼はこの攻撃に……気づいた! 太い腕を振り上げ、接近する水の蛇を叩き落そうとする!


「曲がれっ!」


 水の蛇は急に向きを変え、鬼の腕を回避したかと思うと、そのまま背後に回り込み鬼の首筋へと噛みついた! 自分の意思で動きを変えられる飛び道具とは、うるみもなかなか良い技能を持っている!


 赤鬼が驚いている隙を見計らって、私はレキの方に突撃する。レキも突然の攻撃に驚いている様子で、その場から動く気配はない。


「そこの君! レキで間違いないよね?」


「えっ……! そういう変な格好したあなたこそ誰?」


 うっ……!

 この状況にまずそれに触れたくなるくらい私の格好って変……? 確かに戦いには向かない姿だけど、実は案外似合ってると思ってたんだけど……。


「えっと、私の名前はトラヒメ。村のおばさんに頼まれて君を助けに来たの」


「おばさんが僕を……!? ちゃんと鬼を倒しに行くって言ったのに!」


「でも、1人で行くのは危ないって、すっごく心配してたんだよ」


「僕の強さを信じてくれてないんだね……!」


 かなり勝気な性格に自分のことを『僕』と呼ぶもんだから本当は男の子かと思ったけど、リアルの私より全然胸があるし、腰とか脚のラインは女性そのもの。要するに『僕っ子』という奴か!


「あいつは僕が倒すんだ! 来てくれたことにはお礼を言うけど、手出しは無用だよ!」


「そう強がらなくてもいいんじゃない? 君だって1人じゃあいつに勝てないことはわかってるんでしょ?」


「ど、どうしてそう思うの?」


「すぐにあいつに手を出さなかったからよ。力の差がわかっているからこそ攻めの手が思いつかず、こうしてジッと相手の出方をうかがっていた。力の差がわからない人は、何も考えずに突撃して……もう死んでる」


 実際、レキがただ突撃するだけのイノシシだったら、こうして会話することもなかったと思う。彼女が相手の力量を見極める目を持っていたからこそ、こうして生きているんだ。


「この赤鬼は私が斬る! だから君は村に帰って、おばさんを安心させてあげて」


「……嫌だ! だって、この鬼がぶっ壊したのはそのおばさんの家なんだもん!」


 そうだったのか……!

 じゃあ、おばさんが出てきたあの家はレキの家か。家の中を探してもレキがいないから、おばさんは慌てて家から飛び出してきたんだ。本当に鬼を倒しに行ったんだと気づいて……!


「それにこいつら鬼はたまに村の周りに出て来ては、遊びみたいに物を壊して人を襲うんだ! 怖いから誰も反撃しないけど、僕はそうじゃない! 村に住む僕だからやらないといけないんだ!」


「……わかった。もう帰れとは言わない。でも、私たちが助太刀することは許してほしい。ここで手を出さなかったら、私たちは君を見殺しにすることになる。君も死にたくはないでしょ?」


「もちろん! だから……一緒に戦ってもいいよ」


「ふふっ、ありがとう」


 お許しが出たところで、さあどう攻めるか……。私も正直あいつに対する有効な攻め手が思いつかない。


 でも、あの巨体に筋肉がつきまくっているのだから、スピードはさほどないはずだ。3対1の状況で狙いを分散させれば、誰かしらが常に自由に動ける状態になって、有効な攻撃を当てやすくなる。


 とはいえ、うるみやレキが狙われるのは当然避けたい。うるみは後衛タイプだし、レキは万が一があったらここに来た意味がなくなる。つまり、私が赤鬼の気を引いて、その隙に他の2人が攻撃を仕掛けるのが得策!


 ……と、普通なら考えるでしょうね。


 でも、この戦法だと要するに私はおとりで、鬼へダメージを与える役割は他の2人が(にな)うことになる。それってなんか、嫌だなぁ。私もバリバリ攻撃してダメージを与えたいなぁ~。


 しかし、うるみやレキが狙われたらヤバいというのは事実だ。私は赤鬼の気を引いて攻撃を受けつつ、それを(くぐ)り抜けてダメージも与える……。これが正解ね!


 いくら相手がデカくても足は地面についている。そして、鬼も人型である以上、足を斬られ続ければ立っていられなくなる! 私はとにかく足を狙うぞ!


「レキ、私に良い案があるんだけど……」


「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 レキは叫び、斧を野球のバットのように構える。もしかして、味方ができたことに安心して無茶な突撃を……!


回帰刃旋斧(かいきじんせんぷ)!」


 レキは斧をぶん投げた! 斧は高速回転しながら赤鬼の首筋めがけて飛んでいく! しかし、赤鬼はクイッと体を傾けてそれを回避してしまった。


 むぅ……攻撃の避け方に知性を感じる。これは知能も相当に高そうな……と思っていたら、飛んでいった斧がブーメランように方向転換し、再び赤鬼の首筋に迫ってきた!


 流石の赤鬼もこれは予想外のようで回避が遅れた。斧が首の肉を斬り裂き、そこから鮮血がほとばしる……!


 うぅ……!

 グロ演出がほぼないゲームなのに、なぜここで血が……! 地面には血だまりができ、そこからはシュウシュウと湯気が昇っている。


 ……え、血から湯気?

 恐る恐る血だまりを見てみると、なんだ表面がグツグツ煮立っている。浴びればダメージになるくらいの熱量はありそうだ。


 なるほど、噴き出る血も攻撃の一種だから、目に見える形になっているのね。これは血を浴びないように斬り方も工夫しないといけないなぁ……。


 なんて考えていると、赤鬼が動いた。

 傷を確認するように手で首に触れた後、浮かべたのは気だるそうな表情。『やれやれ』とでも言いたそうな赤鬼は石の祭壇から腰を上げると、立てかけてあった深紅のトンカチを持ち、軽くぽんぽんと自分の手を叩いた。


 まるで『だるいけど相手してやるよ』と言わんばかりの態度だ。あいつ……私たちのことを舐めてるな。まあ、私はフラダンス・サムライだから文句は言えないけど……!


 今に見てなさい。足を斬って地面にひざまずかせて、どっちが強いのかわからせてあげる! そして、お前に勝った後……私は防具を変える!

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[一言] 〉そしてお前に勝った後、私は防具を変える……! 決意するのそこかーい
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