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Data.21 闇を斬れ

「囲まれてるって……もうですか!?」


「そうよ」


 うるみは思ったよりあわあわしている。冷静で落ち着いている子だと思っていたから、今の(あわ)てっぷりがなんかかわいい。


「ただ、なんというか大きい敵に囲まれてるって雰囲気じゃないのよね。鬼って案外人間より小さかったりするの?」


「ああ、それはきっと小鬼ですね。森の浅い場所にたくさんいるって話です。森の奥へ行けば行くほど、鬼も大きくなっていくとか……」


「ふーむ、要するに雑魚か」


 でも、うるみの言う通り数だけは多そうだ。気配だけじゃなく、足音や息遣い、物がこすれる音からもそれがわかる。しかも、知恵はそれなりにあるようで、しっかり四方八方を囲んでいる。抜けられそうな場所は……ない!


「トラヒメさん、一か所に攻撃を集中してこの包囲を抜けましょう。小鬼の戦闘能力は大したことないらしいですし、2人で力を合わせれば余裕で……」


「いや、それはダメね」


「え? どうしてですか?」


「ただ逃げるだけならそれでいいけど、私たちは人を探しながらさらに森の奥に向かう必要がある。包囲を抜けるだけじゃ、残った小鬼が私たちを追ってくるし、追われながら人を探すなんてしんどいじゃない?」


「た、確かに……!」


「ここは全滅させるのが吉!」


 らしくない論理的な会話を展開してしまったけど、今回ばかりは私の判断が正しいと思う。追われながら人を探すのは大変だし、小鬼がいくら弱いといっても、強い鬼と戦ってる最中に背後を取られると厄介……!


 ここは小鬼を全滅させ、後顧の憂いを断っておくのが正解! 勝利を勝ち取るためなら、私だってそれなりに頭が回るんだ!


「ですが、たくさんの敵を相手にするには視界が暗すぎる気もします。私、松明(たいまつ)という道具を持っていますので、それで照らして……」


「いや、暗さを克服する方法ももう考えてあるの。うるみは私を信じて見守っていて」


「わ、わかりました! お願いします!」


 まずはどこでもいいから小鬼が集まっているところに突っ込む。気配、殺気、わずかな足音や息遣いを辿って……。


「そこだ……!」


 向かうべき方向を決めたら一気に駆け出す! そして、技能発動!


雷虎影斬(らいこえいざん)!」


 鞘から抜いた刀にまばゆい稲妻がほとばしる! その光が森を照らし、小鬼どもの姿を(さら)す!


「やあっ!!」


 一番近くにいた小鬼をぶった斬る! 昇級前の【虎影斬】とはまた違う斬り味……! 炸裂する雷が細かな振動として手に伝わってくる!


 手ごたえは十分! 威力も十分!

 一撃で小鬼を倒すことに成功した!


 でも、そこで技能の効果が終わってしまうから森は再び闇に包まれる。だがしかし、私はあの一瞬の光の中で、近くにいる小鬼の位置を覚えている……!


「ふんっ! せいっ! とりゃ! やあっ!」


 暗闇の中で刃を振るい、おぼろげにしか見えない小鬼を斬る! 技能なしでも正確に頭や首、胴を斬り裂けば倒せる……!


 しかし、小鬼たちは四方八方に広がっているので、こうしている間にも別方向の小鬼たちが動き出していることだろう。周囲の小鬼を斬り終えたら、また気配を辿って別の場所に突っ込み、再び稲妻を放つ!


「雷虎影斬!」


 そうして小鬼を照らしては斬り、照らしては斬る! 無心でそれを繰り返していると、ほどなくして周囲から気配が消えた。うるみにもそれが伝わったのか、松明であたりを照らしながら私に近づいてくる。


「トラヒメさん……カッコいいです……! 私、好きになっちゃいそうです!」


「あら? まだ好きじゃなかったの?」


「キャー! クール!」


 こんなキザなセリフを恥ずかしげもなく吐けてしまうほど、今の戦い方は良かった。


 技能を攻撃だけでなく視界の確保に使うという応用力。一瞬の中で敵の位置を把握する記憶力。闇の中でも正確に弱点を斬る器用さ。そして、この作戦を割とすぐに思いつく発想力!


 少しは全盛期の感覚が戻ってきてるのかな? あと、このゲームにも慣れてきている気がする。うるみに言われた戦闘のリズム……。技能の間に通常攻撃を挟むという流れが、今回も完璧に出来ていた。


「うるみ、まだ地面に線はある? 戦いの最中に消えてなければいいけど……」


「大丈夫です。まだありますよ。このまま森の奥へと続いているようです」


「奥に……か。そのレキって子は偶然小鬼に襲われなかったのか、それとも1人で片付けて先に進んだのか」


「きっと、一点突破で包囲を抜けたんですよ。それを小鬼たちが追いかけようとしたところに私たちが来たから、小鬼たちの狙いがこっちに変わったんじゃないですかね」


「なるほど、それなら辻褄が合うか」


 何にせよ、小鬼の包囲を突破するくらいの戦闘能力はあるみたいね。村のおばさんが言っていた『体が大きくて強い子』というのは、あくまでも子どもにしてはという意味だと思っていたけど、これは案外なかなかの強者(つわもの)かも……。


「トラヒメさん、急ぎましょう! 大きな鬼の強さは小鬼の比じゃありません。包囲を突破できたからといって、無事である証明にはなりませんから」


「うん、その通りね!」


 レキがどんな子なのかは気になるけど、助けることに変わりはない。それと初めて使った【雷虎影斬】! これを強敵に向かって使ってみたい欲求も高まってきた。小鬼には威力が過剰だったみたいだからね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] カッコいいけど見た目はフラダンスの腰ミノにボロボロの着流しという浪人姿であるw
[良い点] おもしろくて最新話までするする読めました。 リアルにあったらやりたいと思う設定で引き込まれました。 続きが待ち遠しいです。
[良い点] かっけぇ...! [一言] 弓おじさん読破してきました! 面白かったです!
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