Data.19 悪鬼の森へ
いや、まてまて……。
見た目は奇怪だけど、もしかしたらすごい技能を持った装備かもしれない! 人と同じように装備だって見た目じゃなく中身だ! なんか、この防具を着てから体が軽くなった気もするしね!
◆草の葉衣
種類:防具 評価:一つ星 防具技能:なし
〈草と葉で作られた自然派の服。体が軽くなった気がするのは純粋にこの服が軽いからだ〉
わーお、説明文さんに全否定されたよ。防具技能は『なし』だし、体が軽いのは本当にこの装備が軽いだけだったのね。それと防具は武具と違って『血闘値』が存在しないみたい。
うーん、この防具はネタ装備というか、セクシー装備なのかな? もしかして、私のこの体で鬼さんも悩殺できたりする?
……まあ、この起伏の少ない体形では無理だろうなぁ。竜美が着ればいけるかもしれないけど私ではなぁ。
それはそれとして、『静電の腕輪』の方も確認しておこう。
◆静電の腕輪
種類:装飾 評価:一つ星 防具技能:【風雷増強Ⅰ】
〈わずかながらも雷の力をため込む腕輪〉
おおっ!? こっちには防具技能がある! しかも【風雷増強】ということは、私の【雷虎影斬】を強化することが出来るのでは……!? 何はともあれ説明を見るんだ!
◆風雷増強Ⅰ
階級:下級 形態:常時
〈風雷属性技能の性能をわずかに上昇させる〉
短い説明の中に確かな効果が書かれている! これを装備している間は、風雷属性の技能である【雷虎影斬】が強化されるんだ。
いやぁ、やっぱり装備は中身よね! なんだか、いけそうな気がしてきた!
「うるみ、私はこの装備で行けると思う!」
「ええ、見た目は少々変わってますけど、奪った装備の中に防具と属性強化の装飾があっただけでも運が良いです。装備は好きなだけ持ち歩けますから、ツジギリ・システムで返り討ちに会った時の対策として、奪われてもいい不要な防具を持ち歩いていることがありますから」
ツジギリ・システムを仕掛けた側は好きなものを奪えるけど、返り討ちにした側はランダムで奪う形だもんね。いらない装備をたくさん持ち歩いていれば、現在装備している主力装備を守れる確率が上がるってわけだ。
なんとも姑息だけど、合理的なのは確かね。まあ『静電の腕輪』は誰かの主力装備を奪っちゃった感あるけど!
「さて……出撃しますか!」
「いえ、もう1つだけやることがあります」
そう言ってうるみは、まだあたふたしているおばさんに話しかけた。
「私たちでレキさんを助けに行こうと思います」
「そうかい! 行ってくれるかい! ありがとう……! でも、そっちの子は大丈夫なのかい?」
おばさんが私をかわいそうな目で見る……! さっきよりおかしな格好になってるのは認めるけど、一応強くなってるから……!
「ええ、大丈夫です。それより、森に入ったレキさんを追うために情報が欲しいんです。何の情報もなしに森に入れば迷ってしまいますから」
「そうだね……。でも、私は森に入ったことがないから、中がどうなっているからわからないんだよ。レキが追っている鬼が血のように赤い肌をしてるってことはわかるんだけど……あっ!」
おばさんが何か思いついたように声を上げる。
こうやって情報を引き出すのも依頼を解決するうえで重要なことなんだな。私1人だったら何も聞かずに森に突撃していただろう。うるみの知識量には感心させられるばかりだ。
「何かわかりましたか?」
「レキは武器として重い斧を持って行ったんだ! だから、それを引きずって……ほら! こことかに引きずった跡が残ってる!」
地面には土が削れて出来た線が残っていた。この線を追って行けば、レキという子に会えるはずだ……!
「これは大事な情報ですね……! 教えていただきありがとうございます。他に何か思いついたことはありませんか?」
「すまないねぇ……。これ以上のことはわかんないよ。レキには親もいないから、私以上に事情を知ってる人はいないと思うよ」
「わかりました。では、この線を頼りにレキさんを探そうと思います」
「ああ、頼んだよ! 無事に連れ帰ってくれたら礼は必ずする! レキは私にとって子どもみたいな存在なんだ……!」
おばさんの言葉は悲痛そのものだ。
早くレキを助けて、ついでに強いらしい鬼も斬ってこなくては!
「トラヒメさん、『悪鬼の森』はこの村の近くを流れる川の向こうにあります。とりあえず、地面の線を追って川まで行きましょう」
「了解!」
村を出て草原とは反対の方向に向かっていく。こっちには長い草も生えてないし、地面の線をハッキリと確認することが出来る。
「うるみにいろいろ聞きたいことがあるんだけど、まずは『悪鬼の森』について教えてくれない? おばさんが名前を出す前から知っている風だったからさ」
「ええ、『悪鬼の森』はプレイヤー間でも少々有名な場所なんです。なぜなら、まだほとんど探索されていない未開の地ですからね」
「未開の地……!? そんなのがあるんだ!」
「電脳戦国絵巻はリリースされてからさほど時間の経ってないゲームですから、未開の地自体は各地にいくつも存在しているんです」
「まあ、これだけリアルに近くて広い世界だもんね」
「でも、出現する魔物が弱めの『無の国』における未開の地は限られています。その中でも『悪鬼の森』は『いろはに町』から比較的近いにもかかわらず、探索が進まないため有名なんです」
「どうして探索が進まないの?」
「それこそまさに鬼のせいです。彼らは知能が高く、力が強い上に数が多い。プレイヤーたちは純粋に負けてしまうから探索が出来ないんです」
そんな危ない森に1人で突っ込んでいくなんて無謀な子もいたもんだ!
何としても助けたいという思いがあると同時に、私の中にふつふつと湧き上がるのは強烈なワクワク感……! たくさんのプレイヤーたちを跳ね除けてる強敵がその森にはいるんだ!
しかも鬼といえば人型で、武器を使うイメージがある。これは血沸き肉躍る戦いが期待できそうだ……!
あ、もちろんレキの救出が最優先だけどね!





