Data.18 依頼は突然に
「あれは……緊急依頼かもしれません」
「うるみ、知ってるの?」
「ええ、以前あんな感じであたふたした人から依頼を受けたことがあります。緊急依頼という名称はその依頼をクリアした後に知りました。そして、そのクリア報酬として貰ったのが【命の雨】。『隙間の郎党』が狙っている貴重な広範囲回復技能なんです」
「つまり、あのあたふたしたおばさんからの依頼をクリアしたら、超レアな技能が貰えるかもしれないってこと?」
「ええ……可能性は高いです。ただ、難易度も相当に高いはずです。しかも、緊急の名の通り大高札に掲載されている依頼よりも解決にスピードが求められるんです」
「解決にスピードを……か。それは具体的にどれくらい猶予があるの?」
「依頼によって様々です。例えば依頼が『魔物に襲われている友達を助けてくれ』というものだったとしましょう。その場合、友達が魔物に殺されれば依頼は達成不可能になります。でも、どのタイミングで殺されるのかは誰にも知りようがありません」
「じゃあ、早く依頼を受けないと、依頼を受けた時には助けないといけない人が死んでる可能性もあるってこと……?」
「そういうことになります」
「カウントダウンは始まってるってことね……! 早く話を聞かないと!」
私とうるみは急いであたふたしているおばさんに駆け寄る。
「あのー、何かお困りでしょうか?」
「あ、ああっ……大変なんだよっ! でも、あんたみたいに着る服も満足に買えない子どもにお願いするのは流石に忍びないよ……」
「え……?」
……あっ! そうだった!
ジャビとの戦いでボロボロになった防具をまだ取り換えていなかった!
というか、私の手元に代わりになる防具とかあるんだろうか……。【雷虎影斬】でテンション上がっちゃって、まだ奪った装備についてはチェックしてない!
というか、見た目によって依頼を受けられるかどうか判断されちゃうのね。まあ、緊急事態だからこそ半端な人間に依頼なんて出来ないか……。
「では、私にその話を聞かせていただけませんか?」
ずいっと前に出てきたのはうるみだった。確かに彼女の装備は白の羽織袴だから、どこか神聖な人物にすら見える。これならおばさんも安心して話ができるというわけだ。
「ああ、あんたにならお願いできそうだよ! うちの村のレキって子を助けてやってほしいんだ!」
「そのレキさんはどうなされたんですか?」
「鬼を追って『悪鬼の森』に入って行っちゃったんだ!」
「ええっ、あの『悪鬼の森』に!?」
やばい……私だけ話についていけてない。『悪鬼の森』ってなんだんだろう……? でも、名前的に平和で安全なメルヘンの森ではないのはわかる。
「レキはこの村の中じゃ体が大きくて強い子だけど、あの森の鬼には敵わないよ! でも、村を襲った鬼を倒すって聞かなくってさ……!」
「村に鬼が来たんですか? でも、あの森の鬼たちは滅多に外には出てこないはず……」
「少し前にあんたたちみたいな旅の人らが大人数で来てさ! 鬼を倒すと意気込んで森に入って行ったけど、倒すどころか鬼を連れて逃げてきたんだ! 結果的に被害をこうむったのは村の方で、あの家なんてぶっ壊されちまったんだ!」
おばさんの指さす先には、バラバラになった家の残骸が転がっていた。木材を力任せに砕いたような破壊の跡は、とても人間業とは思えない……!
でも、この村は戦闘禁止区域のはずなのに、なぜこんなことに? 気になるけど、ここは先におばさんの話を聞いてしまおう。
「でも、家なんてまた建てればいいのさ! どうせどの家もボロ屋なんだからね! そう言ってもレキは納得せずに1人で森の中に……!」
「それは大変ですね……」
「あんたたちにあの子を助ける義理がないのはわかってる。でも、お願いだ! レキを助けてやってくれ! 出来る限りのお礼はするよ!」
「……少し考えてみます」
うるみは思った以上に冷静な言葉を残し、一度おばさんから離れた。そして、ベンチ代わりの石まで戻り、静かに口を開いた。
「トラヒメさんには意味がわかりにくい会話だったと思いますが、その説明は森に向かう道中でしようと思います」
「じゃあ……行くのね!」
「ええ、私たち2人で『悪鬼の森』に向かい、そのレキという子を助けようと思います」
「そうこなくっちゃ!」
「でも、その前に2つやることがあります。1つ目はトラヒメさんの防具を変えることです。鬼は力の強い魔物なので半端な防具は気休めにしかなりませんが、それでもないよりはマシです。さっきの戦いで奪った装備の中に防具はありませんか?」
「えっと……今確認する!」
ステータスの装備タブを選択し、その中身を見る。奪った装備は4つだ。その内訳は二つ星武具『断罪の斧』、一つ星武具『平凡な刀』、一つ星防具『草の葉衣』、一つ星装飾『静電の腕輪』となっている。
「一つ星だけど防具があったよ!」
早速『草の葉衣』を装備してみよう!
◆装備
武具:鹿角刀
防具:草の葉衣
装飾:静電の腕輪
このゲームの装備枠は3つしかない。ついでに3つ目の装備枠である『装飾』にも奪ったものを入れておいた。さて、見た目はどう変わるかな!
「……うーん」
『草の葉衣』はその名の通り、草と葉で作られた衣だった。私、こんな感じの衣装を見たことある。そう、これはフラダンスの時に着る衣装だ……!
『静電の腕輪』も明るい黄色だから、なんとなく南国感を助長している! こうなってしまうと腰に下げてる刀が絶望的に似合わない!
「ねぇ、うるみ……どう?」
「なんというか、フラダンス・サムライって感じですね……」
のどかな農村に突如現れたフラダンス・サムライ! 果たしてこんな感じで人の命など救えるのだろうか……!?





