Data.16 戦闘のリズム
うるみと共に村を目指して草原を突っ切っていく。それにしても、先に進むほど草原の草が長くなっていくなぁ……。今となっては私の身長を超えていて、視界が遮られるのなんのって。
ちなみにこの草原の名前は『長草原』というらしい。さらに目的地の村の名前は『芝草村』だ。ふふっ……草草の草って感じっ!
「流石にこれだけ草が長いとうっとうしいし、斬りながら進む?」
「いえ、もうすぐ着くはずですからその必要は……」
うるみが言い終わる前に長い草の草原が途切れ、急に視界が開けた。そして、視界の向こうには小さな農村が広がっていた。
最初の町である『いろはに町』と比べるとNPCの数も少なく建物も質素だ。でも、この静かな雰囲気は嫌いじゃないし、本能的に懐かしさを感じる。
ただ、村を外敵から守るために設置されているであろう木の柵まで質素な作りなのはどうなんだろう……。魔物が出る草原と隣接しているのに、これで大丈夫なのかな? あ、でも町や村は戦闘禁止区域だし問題ないのかも?
「トラヒメさん、あのいい感じの石をベンチ代わりにしましょう」
うるみが指差す石は横に長く平たい形状でまさにベンチって感じだ。その石に2人並んで座り、ホッと一息つく。ここなら襲われる心配もなく、さっきの戦闘で得たものを確認できる!
「ステータス……あれ?」
◆基本情報
名前:トラヒメ
状態:正常
体力:■■■■■■
念力:■■■■■
ステータスを開いて最初に表示される基本情報に少し違和感があった。村までの道中に薬を貰ったから体力が回復しているのはわかる。でも、減っていた念力まで回復しているのはなぜだろう?
そういえば、ズズマとの戦いの後も勝手に回復していた気がするな……。この疑問を素直にうるみにぶつけてみる。
「ああ、このゲームでは体力も念力も時間と共に自動で回復するんですよ。特に念力の回復は早くて、イメージとしてはいわゆるRPGのMPよりも、アクションゲームのスタミナゲージに近い性質を持っているんです」
「うーん、私あんまりゲーム詳しくないから、その例えだとピンとこないなぁ」
「えっと、それでは……トラヒメさんって全力疾走した後は息が切れますよね?」
「そりゃ人間だからね」
「でも、しばらく休んだら徐々に息も落ち着いてきますよね?」
「そりゃ……人間だからね」
「念力って呼吸みたいな感じなんです。体を動かすほど乱れ、大人しくしてれば元に戻る。激しく動かせば元に戻るまでにそれだけ時間がかかり、小さな動きであれば乱れも少なく回復も早い。そして、人間は呼吸が乱れすぎると満足に動けなくなります。その限界が念力ゲージとして表示されてると思ってください」
うむむ……わかるような、わからないような。きっと、ゲームをそこそこ遊んでいる人にはスタミナゲージで伝わるんだろうなぁ。
とにかく、連続で技能ばかり使っていると念力ゲージが空になって、しばらくお休みしないと技能が使えなくなっちゃうってことはわかった。
「うん、うん、うん……。私、うるみの話ちゃんと理解してるよ」
「本当ですか!? 良かった……!」
「その上で1つ質問したいんだけど……いい?」
「はい、どうぞどうぞ!」
「私はさっきの戦いの中でかなりの技能を使ってた気がするんだけど、どうして途中で息切れしなかったんだろうって」
ジャビを含めた10人の敵を相手にするために、技能は出し惜しみなくガンガン使った。でも、その割には戦闘終了直後の念力は減っていなかった気がする。
「戦いを離れたところで見ていた私にわかることとしては、まず第一にトラヒメさんが使う【虎影斬】は下級技能ですので、性能が抑えられている分消費する念力も少ないんです。【鹿角突き】は三つ星武具が持つ技能ですからそれなりに念力を消費すると思いますが、今回の戦いではあまり使っていませんでしたね」
「あー、確かに突きを使ったのは最初と最後だけだったかも」
「念力の消費が少ない技能をメインに戦闘を組み立てると、シンプルに念力の消費を抑えられます。そして、その戦法よりワンランク上の戦い方が、技能に頼らないプレイヤー本人の技術を利用した『通常攻撃』を技能と技能の間に混ぜ込んでいくことです。今回のトラヒメさんはそれがとっても上手く出来ていました」
通常攻撃……要するに技能を使わない攻撃のすべてが通常攻撃なのね。確かに今回の私は本能の赴くままに脚を斬ったり、鉄拳を食らわせたりしてた記憶がある。念力を消費しない攻撃をすれば、そりゃ当然念力の消費は抑えらるか。
「通常攻撃の強みはただ念力を消費しないだけでなく、攻撃をする間にわずかながら念力が回復することにあるんです」
「そっか、技能を使わなければ自動で念力は回復していくんだもんね」
「そうです! これがかなり大事なんです! というのも、念力というのは技能を使い終わった後すぐに回復を始めるわけではありません。技能の『余韻』と呼ばれる数秒間を挟んだ後、回復が始まるんです。その余韻の間にまた新たな技能を使ってしまったら、念力は回復しないままどんどん減っていくことになるんです」
「なるほどね。私の場合は技能と技能の間に上手く通常攻撃を挟んでたから、その隙に念力が少しずつ回復して、結果的に多くの念力を残して勝ったように見えたんだ」
「はい! その通りです! トラヒメさんの戦闘には独特のリズムがあるように思いました。私も見習っていきたいです!」
このゲーム……奥が深いなぁ。
でも、うるみの話によると私はこのシステムを上手く使いこなしているようだし、心配することは何もないな。この調子で思いつくままにいろんな攻撃を混ぜ込んでいこう!
……で、私たちはこの話をする前に何をしようとしてたんだっけ?
あっ、そうそう不要な技能を使って【虎影斬】を昇級させようとしてたんだ。そのためにはまず、さっきの戦いでどんな技能を手に入れているか確認する必要がある。
「ステータス!」
ステータスを開き、技能のタブを表示する。
◆習得技能
【虎影斬】【体力増強Ⅰ】【敏捷増強Ⅰ】
【荒振り】【牛突き】【炎熱弾】【石破断】【硬化術・銅】
増えた技能は6つ!
つまり、奪った10個の戦利品のうち、残り4個は装備ということだ。良い感じに分散していて、技能面でも装備面でも私を強くしてくれそうじゃない!





