Data.15 足音の主
「トラヒメさん、私です!」
「あっ! あなたは確か……うるみ!」
目の前に現れたのはこの間偶然助けた白髪の巫女うるみだった。敵じゃなくてホッとする反面、ちょっと新たな戦いに期待していた自分もいる。
「えっと、どうしてうるみはここに?」
「トラヒメさんを追ってきたんです。昨日のことで、きっと『隙間の郎党』に狙われてるだろうなって思って……」
「へ~、心配して来てくれたんだね」
「はい! でも、トラヒメさんったら気にする様子もなくずんずん人気のないところに行くんだからビックリしちゃいました! 案の定待ち伏せされてましたし!」
「いやぁ~、私としては戦うことが目的だからねぇ~。むしろよく待ち伏せしててくれたなって感じかな。おかげで今までになく興奮する戦いが出来たし」
「大物ですねトラヒメさん! 私は追ってきたのはいいですけど、戦いには怖くて助太刀出来ませんでした……」
「それでいいよ。私の獲物が減っちゃうから……なんてね」
「か、カッコいい……!」
尊敬のまなざしで見られるのもたまには悪くない。
ただ、そんな中でも左腕の麻痺が継続していているのが気になる。こういうのって、時間経過ですぐに治るものじゃないの……?
「うるみ、さっきの戦いで左腕に麻痺食らっちゃったんだけど治す方法知らない?」
「それなら麻痺消しの薬を……って、持ってないんですか!? ここに来るまでの森の中にも、軽度の麻痺なら治せる薬草が生えていたんですが……」
「まあ、買った覚えはないし、拾った覚えもないね」
「ほ、本当ですか? もちろん薬はお渡ししますが、道具を買ってないし拾ってないなんてにわかには信じられないプレイングです」
「まあ、まあ……ね! でも、ほら! 本当に持ってないからさ!」
ステータスを開き、道具タブを選択して所持品をうるみに見せてみる。
というか、私もこの項目を開いたの初めてじゃない? だから、当然そこには何の道具も……あった。なんか知らない道具がいくつか並んでいる……!
「えーっとね……。これは私も知らなくって……」
「まあっ! 本当に買ってないし拾ってないんですね! ここにある道具は他のプレイヤーが死んだ時に落としたものを拾っただけでしょうし!」
「ん? 私、そういうのも拾った覚えないよ。それにツジギリ・システムを返り討ちにした時に貰えるものって、装備が技能のうち1つだけなんじゃ……」
「はい、ツジギリ・システムによるペナルティはそれで間違いありません。でも、それとは別に全プレイヤー共通のデスペナルティが存在するんです。これは魔物との戦いで死んだり、高いところから落ちて死んだりしても適用されます」
「なるほど、それが私が見知らぬ道具を持ってる原因なのね」
「その通りです! プレイヤーは体力がゼロになった時、一番最後に立ち寄った村や町に強制送還されます。その際に所持している道具とお金の一部を落としてしまうんです。そして、落とした物は誰にでも簡単に拾えます。それこそ、脚とかに触れるだけで拾えてしまうんです」
「つまり、敵を斬りながら動き回っていた私は、死んだ人が落とした道具を踏むような形で回収していたってことね?」
「そうです!」
確かにさっきの戦闘は斬りながら激しく動いてたからなぁ~。普段はかなり足元に注意して戦ってるけど、今回ばかりは意識が斬る方に極振りされちゃってたかも。これは反省点ね。障害物につまずいたら、それが敗北の原因になってしまうもの。
まっ、なにはともあれ拾ったものは有効活用させてもらおうかしらね。
「あーーーっ! これは……っ!」
「こ、今度は何?」
「トラヒメさん、結構レアな道具拾っちゃってますよ!」
うるみが指差す先には『風雷の中級指南書』の文字が表示されていた。でも、私にはこれに何の価値があるのかさっぱり……。
「これは下級技能を中級技能に昇級させるための貴重な道具です! しかも『風雷』ということは、技能を風雷属性に変えつつ昇級させられるということです!」
「つまり……どういうこと?」
「例を挙げてみますね。トラヒメさんの【虎影斬】は最初から持っている技能ですから下級です。この道具は【虎影斬】を下級から中級へと強化できる道具なんです」
「確かにそれはすごい! 今すぐ使っていいの?」
「いえ、トラヒメさんのことですから、まだ技能の修練値を上げていないんじゃありませんか?」
「あ、はい……。その通りです」
短い付き合いの中で、うるみが私の性格を把握しつつある……。私ってそんなにわかりやすい女かな……?
「下級の修練値の上限は40です。この上限まで修練値を上げないと昇格はできません。不要な技能を消費して、修練値を上げましょう」
「一応それは知ってるんだけど、技能を消費するって言葉がいまいちピンとこないのよね」
「大丈夫、とっても簡単ですから! まず技能タブから修練値を上げたい技能を選んで、その文字を長押しするんです」
うるみに言われた通り技能タブを開き、【虎影斬】の文字を長押しする。すると、また技能タブが開き『消費する技能を選択してください』という文字が表示された。
「なるほど、この一覧の中からいらない技能をタッチして選んでいけばいいのね」
「そうです! 消費した技能は消えてしまいますが、自分に不要なものを切り捨て、必要な物を磨き上げていくのが電脳戦国絵巻の醍醐味なんです!」
「ふーん、面白そう! でも、消費した技能が消えるとなると、それだけ選択も慎重にやらないとダメよね。私にとって絶対にいらないと言える技能は何なんだろう……?」
「1つお聞きしたいんですが、トラヒメさんは刀にこだわってるんですか?」
「うん。刀を振るうためにこのゲームをやってるみたいなものだから、刀以外を使うつもりないよ」
「ならば、刀以外の武具でしか使えない技能を消費すればいいんですよ。例えば斧専用の技能とか、杖専用の技能とか」
「なるほど~。わかりやすい説明ありがとうね」
「いえいえ、お役に立てて光栄です!」
10人も斬ったんだから、いらない技能を数個は手に入れてるはずだ。早速【虎影斬】の修練値に変えてしまおう!
「トラヒメさん、ここまで説明しておいてなんですが、戦利品の確認や技能の昇級は安全な場所でやりませんか? ここはフィールドのど真ん中ですし、本来魔物も多く出る場所です。今は『隙間の郎党』が待ち伏せを邪魔されないように周辺の魔物を狩った後のようですが、時間が経てば魔物は再出現しますし……」
「それもそうね。近くに安全な村とかないのかしら?」
「安全かどうかはわかりませんが、近くに小さな村があります。そこに行きましょう。あ、麻痺を治しておきますね」
うるみが私の左肩の傷口に薬草を押し付ける。しばらくすると、徐々に痺れが取れてきた。
でも、ゲームらしく一気に回復……ってわけじゃないのね。戦闘中に状態異常を治そうとするなら、この回復効果が出るまでの時間がネックになりそう。思った以上にこのゲームはシビアなバランスなのかもしれない。
「ありがとう。おかげでだいぶ良くなったよ」
「どういたしまして。村に着いたら防具も何とかしましょうね。今はちょっとその……いろんなところが見えてますから……!」
「あー、確かにね」
鞭がカスりまくった着物はところどころ裂けている。おかげで下に着けているサラシやパンツが見えちゃってる。てか、上はサラシなのに下はふんどしじゃなくてパンツなのか。
……まあ、そこはどうでもいいか!





