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Data.107 そして、対峙する

「こらこらこらーーーッ! まだ戦いは終わっとらんぞぉ!」


「ライオー……生きていたのね」


 木から木へと飛び移りながら、ライオーは器用に矢を放つ。彼女もまた進化していることを疑う余地はない。でも、時間がないから速攻でトドメを刺す!


 ライオーはマキノに追われ続けてるせいで射撃の位置取りがあまり良くない。今は1回の【雷兎月蹴撃】で間合いを詰められそうな木々の上をぴょんぴょんと飛び回っている。そこを狙わない理由はない!


「雷兎月蹴撃!」


 スライディングでライオーがちょうど枝に乗った木の真下までやってくる。


「雷兎月蹴撃……キックキャンセル!」


 次にライオーが乗っている枝の高さまでジャンプする! この時も【雷兎月蹴撃】を使い、キックの動作に入る前にキャンセルすれば、ただの高いジャンプが可能になる!


「しまった! ウヌの蹴り技にはそういう使い方もあったのだった……!」


 キックキャンセルを知っているということは、あのバトロワを知っているということ。ハッカクたちが撮影した動画でも出回っているのかな?


 まあ、それはそれとして……!


「神速抜刀!」


 ライオーにトドメを刺すと決めた時点から、【雷充虎影斬】のチャージは始まっていた。枝の上のライオーの首に刃を走らせ、これで本当に『惨堕亞暴琉斗(さんだーぼると)』との戦いに決着がついた!


「ヌオオオオオオーーーーーーッ!? またしても敗れるとは……ッ! し、しかし、我にしてはかなり頑張ったのだ! サハラと連携を取っていれば勝てたかもしれぬ戦い……! やはり、もう一度我々の戦法について話し合わなくてはっ! だが、トラヒメェ! ウヌとはもう戦いとうないわっ! 我のことは忘れてろぉ~!」


 ライオーはギリギリまで騒いだ後、消滅した。それにしても『覚えてろ~』はよく聞くけど『忘れてろ~』は初めて聞いたな。そう言われると、なんだか忘れられなかったりして。


「ありがとう、トラヒメ……。私ではあのちびっ子ヤンキーの邪魔をするのが精一杯だったわ」


「まあ、あれでも中堅組合(ギルド)のリーダーだからね。それで他の忍者の人たちは? 姿が見えないけど……」


「……私以外全滅したわ」


「えっ……!?」


「私が生き残ったのは仲間たちに(かば)われていたから……。あのライオーって子はふざけているようで、相当な手練れだったわ……」


 敵を一番(あなど)っていたのは私かもしれない。ライオーもまた並のプレイヤーではないんだ。ゲームを始めて間もないマキノには荷が重かった……!


 でも、忍者たちはよくやってくれた。結果として分隊長たちを全滅させ、マキノを生き残らせてくれた。マキノがいなければ、敵陣まであと少しのところで道に迷ってしまうところだった。


「行こう、マキノ。散っていったみんなのためにも必ずザイリンを倒す! そのためにはマキノの案内が必要なの」


「ええ、わかっているわ。急ぎましょう。思った以上に時間がかかっている……!」


 私たちはついに南の森林ルートを抜け、竹林の丘へと入った。サハラとの戦いで敏感になった感覚で周囲の人の気配を探る。……伏兵はもういないみたいね。


 マキノの背中を追い続けていると、すぐに丘のてっぺんに到着した。そして、そこには……ザイリンがただ1人でたたずんでいた。


「気をつけてトラヒメ。大将が1人でのこのこ出てくるはずがないわ。きっとそこら中に罠とか伏兵が……」


「いや、きっと1人だと思うよ」


 根拠はないけど、そんな気がする。少なくとも周囲に敵の気配はないし、そもそも丘のてっぺんは竹も生えてなくて、隠れる場所がまったくない。まっ、地面の中に隠れられたら見つけようがないけどね。


「ああ、俺は1人だ。思った以上に平原の戦いが厳しくってね。まさか、あのリュカが戦線を押し上げるべく前まで出てくるとは思わなかったよ」


「えっ!? リュカさんが前線にっ!?」


 私とマキノは普通に驚いた! だって、リュカさんは本陣でドンと構えてると言ってたし、性格的にも前に出てくるタイプとは思えない。


「さらに北の森林ルートにはゼトまで来ている。どいつもこいつもトラヒメ……お前にすべてを託すためだ。全員で圧をかけて、こちらの本陣の防衛戦力を減らそうとしているんだ」


「私のために……」


「そうだ。つまり、お前が負ければすべてが終わる」


「ふんっ、そんなことは承知の上よ! 正々堂々、最終決戦といこうじゃないの!」


 ゼトさんが北から、リュカさんが中央から、そして南の敵は蹴散らして来た! もはや後顧(こうこ)(うれ)いはナシ! 目の前の敵を斬り捨てるのみだ!


「ふむ、プレッシャーをかけようとしたが、逆効果だったようだ。やはり小細工ナシの真剣勝負が、この舞台ではふさわしいのだろう……! 1対1(サシ)でやろうじゃないか、トラヒメ!」


 ザイリンは地面に突き刺してあった槍を引き抜いて構える。前に『浮草の滝』で戦った時に使っていた槍とはまるで違うな……。かなりの長さと穂の大きさ、それに刃部分に刻まれたおどろおどろしい文字のような模様も気になる……。


「トラヒメ、本当にこのまま1対1で戦うつもり? もちろん、それを想定してここまで来たけど……流石に防衛戦力の1人もいないのは不自然だわ」


 マキノは不安そうだ。というか、それが普通の反応よね。


 でも、思い出してみれば滝の戦いでもザイリンは1人だったし、あれ以降彼ら『隙間の郎党』本体が私にちょっかいをかけてきたことはない。それは戰の場で決着をつけるという自分の言葉を守るためだと思う。


 妙なところでフェアーというか、そうと決めたら汚いことはしないプライドがザイリンにはある気がする。まあ、昨日のバトロワで本当に手段を選ばない人たちと戦ったせいで、よりその違いを感じ取れるというのもあるけどね。


「心配してくれてありがとう。でも、私は戦うよ。不自然さを伝えたところでザイリンが手の内を見せるとは思えないし、やるしかないんだ……ここまで来たからには!」


「……その通りね。だから、私はこの戦いを見守らせてもらうわ。1対1の真剣勝負の邪魔はしない。でも、この勝負を邪魔しようとする敵がいたら私が排除するし、邪魔が入った時点で約束は破られたと判断し、ザイリンとの戦いにも加勢する。それでいいわね?」


「うん、マキノが見ててくれるなら、より安心して戦える!」


「絶対に勝つのよ、トラヒメ!」


 マキノが私から離れる。これで丘のてっぺんにいるのは私とザイリンだけになった。


「さあ、決戦の時だ。俺の新たなる力『八咫八戒槍(やたのはっかいそう)』を今こそ披露しよう……」


 不気味な槍を自由自在にくるくる回すザイリン。そして、ぽつりと言った。


「この武具は……四つ星だ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 静かな宣言……これ、漫画だったらどんな効果音がつくのやら
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