Data.11 再び戦国へ
次の日――。
「ふぁぁ……。昨日はご飯作って、ご飯食べて、竜美を送った後はすぐに寝ちゃったよ……」
「ふふっ、だって優虎ちゃん食べ過ぎだったもの。消化にエネルギーを全部持っていかれたんじゃない?」
「まあ、竜美の料理がおいしすぎるのが悪いってことで」
「じゃあ、もう作らないでおこうかな~?」
「そ、それは困るかな~?」
まだ残っている眠気に耐えつつ通学路を歩いていく。昨日は早めに寝たのにあまり頭がスッキリしない。それだけ脳が『電脳戦国絵巻』という新体験に驚いているということね。
でも、こういうなのは結局慣れよ。『VR居合』も最初の頃はあまり長い時間遊べなかったし、遊んだ後はいつも昼寝をしていた気がする。それがしばらくすると何時間でも勝ち続けることが出来るようになった。
慣れるためにも、強くなるためにも、遊ばなければならない。今日も学校が終わったら即ログインだ!
「ふふっ、優虎ちゃん楽しそう。最近はいつも物足りなさそうな顔をしてたから、元に戻ってくれて安心しちゃった」
「いつも心配させてごめんね。でも、もう大丈夫! 電脳戦国絵巻はまだまだ理解してない部分も多いけど、そこがまた新鮮でワクワクするんだ! 昨日も寝るまでゲームについて調べてて、なんか複雑そうだから寝落ちしちゃった……」
「あら~……。MMORPGってゲームの中でもシステムが複雑なジャンルらしいからねぇ」
「でも、完全に理解しなくたってそれなりに遊べるみたいよ? 昨日だってなんかそこそこ強いらしいプレイヤーを倒したし、良い刀も手に入れちゃった。今日はどんなことが起こるんだろうなぁ~」
「全力で楽しむのは結構だけど、あんまり熱中しすぎて体調を崩したり、学業をおろそかにしたりしちゃダメだからね」
「わ、わかってるって……。相変わらず本物のお母さんよりお母さんしてるんだから」
まあ、子ども扱いされるのも案外悪い気がしないというか、実は結構好きだったりして……。
とはいえ、『心配させてごめんね』と言ったその日の授業から居眠りなんてしたら、心配を通り越して呆れられてしまうのは間違いない。
学校に着いたら冷たい水道の水で顔を洗い、シャキッと目が冴えた状態で授業を受ける。おかげさまで今日は睡魔に襲われることなく放課後を迎えることができた。
「今日は用事があって優虎ちゃんの家に行けないけど、ゲームはほどほどにね。約束よ」
別れ際にまた無理をしないように釘を刺されたけど、そうしてくれないと何時間も遊んでしまいそうなのも事実……。今日もキリの良いところで終わるように心がけよう。
何事も腹八分目、少し物足りないくらいで抑える方が健康にも良い!
「ただいま~」
「お……か……え……り……!」
今日のお母さんは在宅ワークだ。しかし、かなり切羽詰まった状況のようで、『おかえり』の4文字を発するのも苦しそうなほど頭を使っている様子……!
こういう時はおとなしく部屋にこもって1人で遊んでるのが一番の親孝行だ。静かに2階に上がり、制服を脱いで部屋着に着替える。そして、カプセル型VRデバイスの中に入り、ゲームを起動する。
私の意識はすぐに『電脳戦国絵巻』の世界へと送り込まれた。
◇ ◇ ◇
目の前に広がる『いろはに町』の景色。前回ログアウトした場所からのスタートだ。
「さて、まずは眠気と戦いながら得た知識を披露するかな」
ステータスを開き、技能タブを選択する。そして、表示された技能一覧の中にある【虎影斬】の文字をタッチする。
◆虎影斬
階級:下級 形態:体術 武具:刀
属性:無 念力消費:小 修練値:0/40
〈刀の残像が虎に見えるほど気迫に満ち溢れた一太刀〉
技能【虎影斬】の詳しい情報が表示された。
このように『電脳戦国絵巻』では文字をタッチすることで装備や技能、システムや用語の詳しい情報を表示することができる。
『階級』は技能のレアリティを表す。
ちなみに『下級』は5つ存在する階級の中で最下位に位置する。
『形態』は技能のカテゴリーを表す。
中でも『体術』は『物理的な攻撃』を意味する。反対に『魔法的な攻撃』を意味する『妖術』も存在するらしい。
『武具』は技能に対応した武具を表す。
ここに表示された武具を装備していないと技能を発動することはできない。
『属性』は……属性を表す。
属性の種類はいっぱいあって全部は覚えられてない。しかも属性ごとに有利や不利といった相性も設定されているみたい。
『念力消費』は技能を発動する際に消費する念力量を表す。
大・中・小みたいに大雑把に表示されるから、一度使ってみるまではハッキリと消費量がわからなかったりする。
『修練値』は……なんだっけ?
ド忘れしてしまったので文字をタッチして説明を呼び出す!
◆修練値
技能がどれほど鍛えられているかを表す。他の技能を消費することで数値を上げることが可能。修練値を上限まで上げることが技能を昇級させる条件の1つとなる。
そうそう、そういうことだった。
ネットには自分のスタイルに合わない技能を手に入れた時、それを消費してお気に入りの技能を強くしようと書かれていた。でも、習得している技能が少ない私にはまだ関係ない要素ね。
次は【体力増強Ⅰ】の方を見てみよう。
◆体力増強Ⅰ
階級:下級 形態:常時 修練値:0/40
〈体力をわずかに上昇させる〉
『形態』が『常時』の技能は常時発動技能とも呼ばれている。その名の通りプレイヤーの意志に関係なく常に効果を発揮するカテゴリーだ。
このカテゴリーの技能は発動に念力を消費せず、装備している武具はなんでもいい。属性も存在しないので、こんなにスッキリした表示になるわけね。
「覚えることが多そうに見えるけど、毎日受けている授業の方がよっぽどいろんな言葉を覚えさせられてるもの。これぐらい余裕ってね」
そもそも戦闘中に気にするべき要素は『属性』と『念力消費』くらいで、後の要素はいちいち細かく覚える必要はない。知りたくなったらステータスを開けばいいんだ。
さて、技能の確認はこれくらいにして早く何かを斬りにいこう……と言いつつ、ここでもう1つ学んだことを見せる!
「マップ!」
私の前にフィールドマップが表示される。描かれているのは大陸全体の大雑把な地形で、細かい情報は記されていない。村も『いろはに町』以外は何も描かれていない。
しかし、マップには私の現在地と向いている方角が表示されているから、少なくとも『いろはに町』のある方角がわからずに森の中をさまよい続けることはなくなった。
それに大雑把な地形と言っても、そこが森なのか草原なのか、火山なのか雪山なのか、砂漠なのか沼地なのか……くらいは全然判別できる。冒険の目的地選びに活用することは可能ということだ。
大半のプレイヤーは町に設置されている巨大掲示板『大高札』に張り出されているNPC――この世界の住人からの依頼を解決するために動いているらしい。
でも、最初の内は明確な目的を持たずに歩き回るだけでも楽しいもんだし、今日はマップを見て興味が湧いた場所に行ってみるとしようかな!
「うーん……あえて昨日と同じ森というのもアリかもね」
マップとにらめっこしていると、どうしても視線は現在地の近くに集まる。昨日行った森は想像していたよりも広く、まだ全体を探索できてないように思えた。
それにここなら昨日みたいな暴漢が襲ってくるかも……という期待もある。その暴漢がたくさんいたり、ズズマより強い奴だったりしたら……なお良い!
「よし、行き先はあの森に決定!」
昨日と同じルートで森へ向かう。
今日はマップもあるし、良い刀もある。そして何よりこのゲームの知識を身に着けた私がいる。同じ場所でも違った発見があるはずだ!
「ん……?」
さっきから妙に視線を感じるな……。ズズマを倒したことでいろんな人に顔を覚えられてしまったのか、それともレアな武具らしい鹿角刀を見ているのか……。
「あるいは誰かに監視されてたりして……?」
……流石に自意識過剰かな。きっと人気のないところに行けば、この視線も消えるはずだ。





