Data.98 神速抜刀
「雷充虎影斬!」
刀を鞘に収めたまま技能を発動すると、鞘全体が微弱な電気を帯びてバチバチし始めた。
そのまま1秒、2秒、3秒と待っていると、どんどん鞘が帯びる電気が強くなり、ほとばしる稲妻もどんどん派手になっていく。これなら頭の中で時間を計らなくても、エフェクトの変化を見るだけで威力の上昇を把握することができそうね。
さらに4秒、5秒……。みんな固唾を呑んで私を見守っている。なんか少し緊張しちゃうな!
そして6秒、7秒……! 7秒が経過すると鞘からほとばしる稲妻がまばゆい金色に変わる! これならチャージ完了のタイミングを間違えることはない! いざ、ラッキーセブンの攻撃!
「抜刀……!」
一瞬、光が走った。
そして、しばらくの静寂。
「……全然太刀筋が見えなかったんだけど、アタシだけ? みんなは見えた?」
リュカさんの言葉にみんな首を横に振っている。誰も何が起こったのかわからなかったみたい。
でも、私にはわかる。この太刀筋、この感覚、この余韻……。これは『VR居合』を遊んでいた頃の私ですら、ごくまれにしか出せなかった必殺の一太刀!
「神速抜刀……!」
この一太刀を繰り出して負けた勝負はない。しかし、自分で望んで出せる技でもない。その日の体調やテンション、運などがすべてピッタリとハマったタイミングで突然現れる幻の抜刀術。
『神速抜刀』という名前は自分でつけたんだけど、恥ずかしくて誰にも言えなかった。そういう意味でも幻の抜刀術だけど、この技能を使えばもしかしたら……!
「もう一度……雷充虎影斬!」
技能を発動し、再び7秒待つ。そして、鞘からほとばしる雷が金色に変わった瞬間……!
「抜刀!」
一瞬の光。そして、懐かしい感覚……。ああ、やっぱり再現できる! 幻の抜刀術をこの技能を使えば好きなタイミングで繰り出せる!
「も、もう一度、雷充虎影斬!」
7秒待って抜刀すると、今度も同じ結果が出た。うーん、何回やっても最高の感覚だ!
「今度はチャージ時間を短くしてみよう」
6秒チャージで【雷充虎影斬】を放ってみると……悪くないけどなんか違う……。これは『神速抜刀』とは呼べない一太刀だなぁ……。
その後もチャージ時間を短くして抜刀してみたけど、最高の感覚を味わえたのは最大充填である7秒チャージのみだった。
チャージなしだと【雷虎影斬】とまったく同じ感覚で連発できるし、威力自体はチャージなしでも【雷虎影斬】より上な気もする。
でも、消費念力が『小』から『中』に上がっているから、同じ感覚で連発するとすぐに念力がカツカツになってしまうでしょうね。
あと、当然だけどチャージ中は刀で攻撃することができない。それどころか、刀を握っていないとチャージが終了してしまうため、柄を握る右手を使うことができない。
使えるのは左手と……脚だ! ありがたいことにチャージ中も【雷兎月蹴撃】は発動することができる! これを使って敵との距離を詰めたり、攻撃を回避したりして、7秒間の隙を消しながら立ち回るのが基本戦略になりそうね!
ここからは魔物相手により実戦的な訓練を行おう。チャージ時間も7秒だけが正解だと決めつけず、それぞれの時間で何か強みがないかしっかり検証しよう。
そうやって明日までに【雷充虎影斬】を完璧に使いこなせるようになれば、誰が相手だろうと負ける気がしない!
「うふふっ、楽しそうだねトラヒメちゃん。昔を思い出すよ」
「やっぱりわかる? 流石は竜……あっ、みんないたんだった……!」
あまりにも自分の世界にのめり込み過ぎて、みんなが私を見守っていたことを忘れていた! しかも、リオの本名を言ってしまうところだったし、危ない危ない……!
「いいよいいよ、アタシたちのことなんて忘れて修行に集中しておくれよ! その顔を見てるだけで、明日の戰も勝てそうな気がしてくるんだ!」
リュカさんは心底嬉しそうに言った。彼女を敗軍の将にしないためにも頑張らなくては!
「元から目にも留まらぬ早業でしたが、ここにきて比喩ではなく本当に目で捉えられない太刀捌きになりましたね! トラヒメさんと一緒なら負ける気がしません!」
この『電脳戦国絵巻』で一緒に過ごしている時間が一番長いうるみにそう言ってもらえると、より一層自信がつく!
「あんたの……トラヒメの実力は認めるわ。でも、張り切りすぎて今日の内に力を使い果たしてしまわないことね。本番はあくまでも明日の戰なんだから」
出会った頃に比べるとマキノの態度も丸くなったなぁ~。それだけバトロワでの私の戦いを評価してくれてるってことだ!
「みんな、ありがとう! 明日の戰、私の刀でみんなに勝利を届けるよ!」
あの『浮草の滝』でお預けになったザイリンとの戦い……その決着をつける時が来た。
開戦は明日土曜日の正午ジャスト! 学校は休みだし、寝坊したってお昼なら余裕で間に合う。お母さんも仕事で出かけてるから、おおよそ私の戦いに干渉してきそうな要素は見当たらない。
言い訳無用、待ったなしの真剣勝負で敵将の首を取ってみせる……!





