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2-7 街へ

 そして、翌朝のお見送りの儀にて、いつもの儀式が始まった。


「いいなあ、街まで行けていいなあ」


 アリシャお嬢様の例の我儘が始まったが、本日はお姉様も一緒に駄々をこねる事に決めたようだ。

 二人並んで俺を見上げて、またお遊戯をするかのように掛け声を始めた。


「おお、あれは伝説の」

「旅人も蜃気楼の夢を見る」


「美味しい物がザクザクあって」

「綺麗なお店もいっぱいの」


「音に聞こえた美都ビトー」

「誰でも一度は夢に見る」


「辺境民の憧れの地」

「夢の大都会」


「「いーなあ。いーなー!」」


 カイザは苦笑して、血の涙を流しそうなほどグズっている娘二人の頭を両手で撫でてやったが、今日はそれではとても収まらないようだった。


 何故なら。


「おまけにフォミオもいなくなっちゃうんだもの。

 しばらく食生活が貧しいよお」


「あうう。しばらく、お父さんのお料理しかないんだー」


 あー、それがあったよね。

 最近はこの子達も贅沢御飯に慣れちゃったからな。


「カイザ」


「わかった、わかったよ。

 今度から料理も精進するから!」


 次回から遠出する時には、収納袋にはフォミオや女将さんの作ってくれた料理を詰めてカイザに渡しておかないといけないな。

 収納袋はもう一つ買えそうなんで、非常にありがたい。


「じゃあ、素敵なお土産をいっぱい買って戻るからなあ」


「絶対だよ」

「約束ですよ?」


「本当にだよ」

「忘れちゃ駄目ですよ」


「ホントのホントの絶対だからね」

「嘘ついたら街へ百回連れていかないと駄目なのですよ?」


 二人の幼女に五分ほどかけて厳重に念を押されて、一緒に行けないのが悔しくて自分のスカートを両手で皺になるほど掴んだ幼女達に見送られて俺は村を後にした。


 ベンリ村までは整備された街道のお蔭で、あっという間についてしまった。

 日本でいえば、世界初の高速鉄道である東海道新幹線が開通したかのような便利さだ。


 もうこんなに交通至便になってしまうと、あの子達もここまでくらいの遠出では満足してくれそうにないな。


「やれやれ、あの調子じゃあ一度街まで連れていってやらないと収まりそうもないなあ」


「はっはっは、それもいいでやんすねえ」


 このベンリ村を越えた街道に入るのは初めてなのだが、そこそこ整備されているようだ。


 といっても、村人が農作業をしがてら暇を見て道を定期的に慣らしているだけで、雨でも降って轍ができればそれまでという奴なので、彼らもそう道の整備に執心していないだろう。


 要するに俺達がベンリ村までの道を整えたように、彼らも自分のためのセルフサービスなのだ。


 都会側の住人は辺境のベンリ村などにさほど用は無いので、向こう側からはやってくれないだろう。


 つまり、この街道は先に進むほどにでこぼこになっていくのだ。


 俺達が自分達専用のハイウエイを通ってきたので、ベンリ村での宿泊は必要ないから、残りの道中で最高でも三泊すれば夕方にはビトーの街へ着けるはずだ。


 ベンリ村で拾ったショウが感心したように言った。


「へえ、こいつは快適なものですねえ」


「ああ、馬車と違ってこいつは自分で判断して引いてくれるからな。

 揺らさないように、また道がよければ速度を上げ、危険と判断すれば自分で止まってくれる。

 御者の必要もないのさ。


 障害物があっても大概はこいつが図体に物を言わせてなんとかしてくれるし、道のでこぼこなどがあまり酷ければ俺がスキルで慣らしてもいいし」


「無敵の便利コンビですねえ」


「おう。

 おまけに才能ある商人とコンビを組んで、さらに金にも不自由はしていないときたものだ。

 こんな痛快な旅もそうないなー」


 夏の爽やかな風を切り、荷台の上の住人を軽く揺らしながら走る大きめの荷馬車は、へたな馬車なんかよりも快適そのものだ。


 あの王様の馬車は本当に碌でもなかった。

 あんな貧弱なサスで速く走ろうとするからだ。


 王都へと向かう勇者連中の尻も、さぞかし声にならぬ呻き声と呪詛の言葉を吐いた事だろう。

 武装した兵士と一緒にいるのに、上の口から言うのは憚られただろうからなあ。


 みんな快適な現代日本の自動車に慣れ切った身の上なのだ。


 高い料金を取られる観光馬車にすら乗った事がある奴はそういないだろうし、そんな物に一回や二回アスファルトの上で乗ったくらいでは、あれはなんともならないよあ。


 高速でオフロードを走り回る、激しい長距離ラリーとかを走った経験が何度もある人間なら耐えられるかもしれない。


 外国の未舗装路を、六輪軍用トラックの荷台に乗って駆け抜けるような兵士なら、これくらいならば鼻歌でこなす旅だろうか。


 宗篤姉妹はちゃっかりと空を飛んでいったかもしれない。


 凄く妹を大事にしていたようなので、自分一人なら頑張ったかもしれないが、妹に泣きつかれたらあっさりと妥協しただろうな。


「なあ、エレはあちこちへ行った事があるんだろう?」


「そりゃまあ長生きしているからね。

 精霊の中にも一つの場所に留まって人々を見守るようなタイプもいれば、あたしのように放浪癖があるようなタイプもいるってことよ。


 まあ旅に出た方が面白い事に出会えるし、気に入ったら定住を決め込むもよし。

 特に気に入った人間に出会うと、そこに居ついてしまう精霊も少なくないわね」


 そして、その人間が死ねばまた旅に出るか。

 こいつも俺が生きている間は一緒にいてくれるといいな。


 何よりも俺の偽らざる想いを理解してくれる者が共にいてくれる。

 ただそれだけで、この世界で不遇の身の上でも生きていけると思えるのだ。


 俺の思考を読んだか、エレもそっと微笑んでくれた。


「エレ、キャラメルでも食うか?」

「食わいでか」


 俺はショウにもキャラメルを配給して、しばし三人で日本のキャラメルの味に親しんだ。


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