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騒めきの中でも



「さぁてっ!いよいよ始まりました!『熱風アニソン大ライブ!』2日目!最終日!観客のみんな~!最後の熱風を起こす準備はできてるかー?!」

「「「おー!!!」」」

「そんな声じゃ熱風を起こせないぞ~。熱風を起こす準備はできてるか~?!」

「「「うぉおおおおおおお!!!」」」


昨日とは少し文言を変えて、司会兼アーティストの女性がステージ脇から歩いて登場した。ちなみに昨日とは反対側のステージから出てきている。こだわりだろうか。このライブ映像は後にDVDボックスで出るらしいし。少しでも違いを出そうとしているのだろうか……。


ちなみにこのタイミングで俺たちがこそこそとステージ上に上がるのも変わっていない。ここは反対側から登場とかじゃなくて、昨日と全く同じ場所から同じステージ上への移動である。違いと言えば、慣れてきて若干動きが速くなったくらいか。


「一曲目はレジェンドアニソンシンガーのこの人だぁー!」


言葉の結びと同時にカウントが始まり、ピアノを奏でる。


「~♪」


やはり慣れが作用しているのか、昨日よりもだいぶ良いスタートダッシュをきれた。俺も、俺以外のバックミュージシャン達も。悔しいけどRYOの腕前は確かだし、江戸川さんのヴァイオリンの腕前も他のプロの大人たちと比べて遜色ない。


実力者たちに囲まれて、ステージの上で演奏するのは気持ち良い。『ヒストグラマー』のバンドの一因として演奏するのとはまた別の高揚感。


今日は初っ端から5曲連続でピアノを弾くため、ペースを考えながら音を紡いでいく。


ペースなんて関係ねぇ!一曲一曲に魂を注ぎ込むんだァ!っていう熱血タイプなのがRYOである。まさに今この瞬間も魂を込めて演奏しているのがわかる。


が、俺は体力的にペース配分を考えて演奏しなければ途中でバテてパフォーマンスが落ちてしまう。例えるならばRYOが120%で突っ走るタイプなら、俺は100%のうちの80%をキープってところだろうか。


曲が変わるごとにバックミュージシャン達も入れ代わり立ち代わり。


4曲目を終え、5曲目へ。


今はアーティストのトークタイムのため、明るく照らされた観客席をふと見ると、バチッと3対の目と目があった。


エレナ達、最前列の席を取ってたのかよー!?


俺が3人を見たことに気付いて、嬉しそうにキラキラと輝く手作りのうちわを掲げた。


『投げKISSちょ~だい』

『3秒こっち見て!』

『ウィンクおくって!』


誰がとは書かれていなかったのがせめてもの救いか……。


よし、気付かないフリしよ。


そーっと視線を逸らした俺に3人は笑っていたが、話していた声優アーティストの言葉に、その後はそれどころじゃなくなった。


「ゲストを呼んじゃうよ~!さーいーかーちゃーん!」

「は~~~いっス!」

「「「うぉおおおおお!!!」」」


声優として、そしてアーティストとしても人気を博している彩歌さんがゲストとして登場したのだから、会場は野太い歓声に包まれた。それもそのはず。今日のライブの出場者に彩歌さんの名前は無かったのだから。


昨日の彩歌さんの評判と、サプライズによる登場で会場の歓声は鳴りやまない。


最前列の3人もこれは知らなかったようで、驚きから徐々に興奮、期待に表情が変わっていった。


改めて、彩歌さんってすごい人なんだと思った。


中央ステージで話す彩歌さんはなんだか遠い存在のように思えてしまう。けど、大丈夫。絶対に追いついてみせ


バチン!


視界が一瞬で闇に包まれた。


「停電……?」


歓声から一転、不安や騒めきの声が観客席から溢れだした。


こういう非常事態には場内アナウンスが流れるはずだが、マイクの電源も落ちているのかもしれない。


不思議と思考はクリアだ。真っ暗だが視界も、騒めきの中でも声が。


「~、~♪」


……聴こえる。レクイエムを歌う彼女の声が。


それならば俺のすべきことは決まっている。


目を閉じて、耳と手に意識を集中させる。

~執筆中BGM紹介~

DEVIL SURVIVOR 2 the ANIMATIONより「Each and All」歌手:livetune adding Rin Oikawa(from Q;indivi)様 作詞・作曲:kz様

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