それでも傍に
予約投稿をまたしてもミスしておりました。申し訳ございません!!!
「私ね、智夏クンの過去を聞いたときに誓ったの」
それは彩歌さんがずっと心に秘めてきたこと。ゆっくりとさらけ出してくれた。
「次は私が守るって。智夏クンのこと、守ってみせるって」
そんな誓いを立てていたなんて、その覚悟の一端すら理解していなかった。
「なのに、崖から落ちたとき、怖くて体が動かなかった」
「それは、」
俺の方がほんの少しだけ、恐怖に耐性があったから。だから咄嗟に身体を動かすことができた。あの状況で、恐怖に身がすくむのは当然のこと。誰も彩歌さんを責めたりしない。けれど、他でもない彼女自身がそれをひどく責めている。
彩歌さんのせいじゃない。だから自分のことを責めないでください、と言う前に遮られてしまった。
「智夏クンは!」
「……智夏クンは私を守ってくれた。あのとき、私を庇っていっぱい傷ついた」
守れて良かったと、それだけを思っていた俺は浅はかだった。
「怖かった。病院で傷だらけになっても私の心配をする智夏クンが」
俺が傷つくことで、傷つく人がいるということを俺はすでに知っていたはずなのに。わかっていたつもりで、全然わかっていなかった。
「恐怖に竦んで何もできなかった自分に腹が立った!他人のために平気で傷つく智夏クンが怖かった!いつか私の前から、智夏クンがいなくなってしまう……ッ」
傷つけてしまった。傷つけたことに、俺は気付くこともできなかった。
今まで、どれだけ彩歌さんを傷つけてきたのだろう。どれだけ見落としてきたのだろう。
彩歌さんの瞳から止めどなく溢れる涙を拭おうとして、手が止まった。
「傷つけたことに、気付かなかった。今までずっと見落としてきたんだと思います。そしてこの先も……」
一緒にいるなら同じようなことが再び起きるかもしれない。また傷つけるかもしれない。
「それでも傍にいて欲しい」
ひどいエゴだ。傷つけてしまうとわかっていても、それでも傍にいたいだなんて。
「むっ」
む?
彩歌さんがどんな返事を返そうとも受け入れるつもりだったが、まさかの「む」。
「それは私が言おうとしたっス」
それってつまり、傍にいて欲しいって……?
「今度こそ、いや、これから先も、ずっと私が守る。智夏クンにならどれだけ傷つけられてもいい。気付いてもらえるようにちゃんと言葉にして伝える!」
傷つけられても、いい。
その言葉に俺がどれだけ救われたかなんて、きっと彩歌さんは知らないだろう。
彩歌さんの手を掴んで、引き寄せて抱きしめる。抵抗もせずに大人しく俺の腕の中に収まる彼女。欠けていたものが埋まったみたいに、ぴったりとひとつになる感覚。
「傷つけて、ごめん」
「私も、避けてごめんね」
「気づかなくて、ごめん」
「言わなくて、ごめんね」
彩歌さんの頬に残る涙の跡に指を這わせる。少しくすぐったそうに目を細めた。そんな仕草のひとつひとつが愛おしくてたまらない。
「伝えてくれて、ありがとう」
俺が知らないことを、わからないことを教えてくれて。
「受け止めてくれてありがと」
受け止めてくれたのはいつだって彩歌さんだった。
「俺のこと、見つけてくれてありがとう」
「私の方こそ。出会ってくれてありがと。大好き」
トン、と。
彩歌さんが背伸びして、キスしてくれた。
「ありゃ?智夏クン顔が真っ赤っスよ」
「久しぶりに彩歌さんからキスしてくれたんで、嬉しくて……」
「かぁわいいっスね~」
噴水が、キラキラと光って眩しくて。それを見て「綺麗」と呟く彩歌さんの横顔は、ステージの上で見たときよりずっとずっと、愛らしく美しかった。




