キラースマイル
いつもお世話になってます!
さて、ここからどうしよっかな。
冬瑚と秋人を連れて帰ってしまおうか。
わりと前向きに検討していたとき、大串少年が意を決したように名前を呼んだ。
「み、御子柴!」
「「はい?」」
「あ、いや、ちが」
ちなみに反応したのは俺と秋人だ。だってどちらも「御子柴」だからね。
こちとら可愛い妹を泣かされたんだ。これくらいの意地悪は許して欲しいものだ。
「と、冬瑚ちゃんの、方です!」
大串少年は走って冬瑚の元に向かった。
個人的には妹に近づく悪い男は排除したいところだが、これも冬瑚の平穏な学校生活のため。我慢、我慢……。
「ひどいこと言ってごめん…、なさい!」
冬瑚に近づいたところで、一旦りょうちゃん達に睨まれて怯んだが、ごくりと喉を鳴らして一歩を踏み出した。
うんうん。ちゃんと目を見て謝ってる。偉いぞ、大串少年!
「違う!」
ちが……。え?
冬瑚は俯いていた顔を上げて、強い語気で大串少年の謝罪を否定した。
その場の全員が、冬瑚の勢いに圧倒された。
「謝るのは冬瑚にじゃない。夏兄と秋兄に謝って!じゃないと許さないから!」
自分のことはどんなに悪く言われても怒らなかった冬瑚が、俺たちを悪く言われて初めて怒った。それだけ冬瑚が俺たち家族のことを大切に思ってくれているのは嬉しい。
でも、自分のために怒れないというのは、それだけ自分を大切にできていないってことじゃないのか…?
…!そっか。みんなが俺を心配していた気持ちを今、本当に理解した。みんな俺のことが心配だったんだ。自分のために怒れずにいた俺のことを。今の俺が冬瑚に思っているように。ようやくそれがわかった。
「……お兄さん。ひどいことを言って、ごめんなさい」
冬瑚に怒鳴られてしばらくフリーズしていた大串少年が俺たちに頭を下げた。
「「ごめんなさい」」
取り巻き2人も俺たちに謝ってきた。ここで謝った方が後々、役に立つと判断したんだろう。
というか、小学生に謝られる高校生(中学生)って世間的になかなかまずい構図だよな。
「いいよ。というか、俺たちは別に怒ってないから」
君たちにはね。こんな記事を書いた奴には腸が煮えくり返っているけど。
「許す。けど、これから人を傷つけるようなことを言うんじゃねーぞ」
秋人が3人の頭に順番に手を乗せていく。子供たちの秋人を見る目が男女問わずハートになっている。
いつの間にかお兄さんになっちゃってまぁ~。
「こ、これでいいか?」
大串少年が鼻をこすりながら冬瑚にお伺いを立てた。
冬瑚は俺と秋人が頷いたのを見て、ぱぁぁあああああ!とそれはもうこの世のものとは思えない可愛さでニッコリとほほ笑んだ。
「うん!」
アカーン。こんなん全人類が冬瑚の虜になってまうやろー!
あまりのキラースマイルに何故か関西弁が出てきてしまった。
キーンコーンカーンコーン
「チャイム鳴ったね。早く教室行こ?じゃあね、夏兄、秋兄!」
「あ、うん」
「じゃーな……」
もう用はないと言わんばかりの妹の切り替えの早さに唖然としながら3人の背中を見送った。
呆然としている兄2人に、すすっと忍者のように小学校の先生が忍び寄ってきた。
「あの、お2人は裏門の方に案内させていただきますので……」
「すみません」
「お願いします」
先生に秋人と2人、裏門まで案内されている道中、ふと頭の隅に何かが引っ掛かった。
なにかを忘れているような……。
「兄貴、ここまでどうやって来たんだよ?」
「自転車だけど。……あ」
井村から借りた自転車を、正面の校門に置きっぱなしにしてたの忘れてた。
裏門から小学校を出て、授業が始まって静まり返った小学校の正門の方に再び向かい、自転車を回収したのだった。
「いまさらだけど、秋人たちが俺のことをどうして心配してたのかわかったよ」
「ほんとにいまさらだな」
秋人に呆れられたのもこれで何十回目、いや、何百回だろうか。
「でも、わかったのなら、良かった」
「可愛い奴め」
「は?」
「スミマセン」
弟にマジのトーンで「は?」って言われて、反射的に謝る兄とはこれいかに。
~執筆中BGM紹介~
フルーツバスケット 2nd seasonより「Eden」歌手:MONKEY MAJIK様 作詞:Maynard様/Blaise様/TAX様 作曲:Maynard様/Blaise様




