会いたかったから
※胸糞注意
冬瑚視点で進みます。
「それじゃあ出陣じゃー!!」
「出陣じゃー!」
「「行ってきまーす」」
香苗ちゃんの真似をして出陣?って冬瑚は叫んだけど、夏兄と秋兄は「行ってきます」って普通に言ってた。恥ずかしいのかな?
家の中ではいつも通りだったけど、みんなと別れた途端にドキドキしてきた。どうしよう……。
ぽてぽてと俯きながら、いつも登校前に3人で待ち合わせしている公園に向かっていると。
「冬瑚!おっはよ~!」
「おはよ」
不安なんて吹き飛ぶような、安心する声が2つ聞こえてきた。不安だった分、嬉しさが冬瑚の中で爆発して、2人の親友に飛びついた。
「津麦!りょうちゃん!おっはー!」
2人には昨日、テレビ通話で事情を身振り手振りで伝えて、その後に夏兄が2人の家族に説明してくれたらしい。みんなデタラメな記事を書いた人に怒ってたって言ってた。
「冬瑚はあたしが守るからな!」
「私もいるから、安心して」
「2人とも~…!好きッ!」
頼もしい親友たちに思わず涙がこみあげてきそうになった。だって、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ不安だったから。
津麦とりょうちゃんが冬瑚のことを嫌っちゃったらどうしようって。
でも、そんな心配いらなかったみたい。
「津麦!」
「うん!」
右手には津麦が。
「りょうちゃん!」
「ん」
左手にはりょうちゃんが。
親友2人に挟まれて朝からルンルンで学校に登校する。
道中ですれ違う人たちに話しかけられたけど、みんな冬瑚たちを見てにっこり笑ってた。
「あら~!仲良しねぇ」
「うん!あたしたちは仲良しで最強なんだ!」
「津麦、恥ずかしいこと言わないで」
「へへへ」
「冬瑚、いい加減その緩んだ顔を引き締めなさい」
「にへへ」
津麦ちゃんが自慢してくれるのも、りょうちゃんがツッコんでくれるのも嬉しくて、ニヤニヤが止まんないの。
幸せに浸りながら校門に入ったときだった。幸せがぶち壊されたのは。
「あー!犯罪者の妹だー!」
「お前の兄ちゃんたち、父ちゃんを殺したんだろ?」
「うわー、近づいたら俺らも殺されちゃうぞ!」
隣のクラスの、よくスカートをめくってくる男子3人組。髪の色が変って言われたり、目の色が気持ち悪いって言われたりして、そのたびに津麦たちとボコボコの倍返しにしてた。髪の色が金色なのは、お母さんと同じ。目の色が青色なのは、夏兄と同じ、素敵な色。
男子3人組は多分、いつもの悪口の延長線上で言ったんだと思う。いつもどおり、冬瑚が言い返してくるんだって思ってる。実際、冬瑚だって言い返したい。でも、言葉より先に……。
目が熱くなって、ぽたぽたと涙が零れ落ちていった。
「嘘、だもん。夏兄も、ひっく、秋兄も、そんなことしてないもん!勝手なこと言わないで!冬瑚の大事なお兄ちゃんたちのこと、ひっく、なんにも知らないくせに!うわぁぁああああんん!!」
「冬瑚、待ってろ。いまからあいつらボコボコにしてくるからな!」
「津麦まって。私もボコりに行くか、」
「やだ!いかないで!」
いまは一人になりたくなくて、両手で2人にしがみつく。涙が出過ぎて鼻の奥が痛い。
悲しかった。大好きな家族を悪く言われて。
悔しかった。兄たちのことを知らない人たちに、悪い人だと決めつけられて。
怖かった。周りの人たちが皆、敵のように見えてきて。
えぐえぐと泣きながら涙を拭っていると、突然視界が高くなった。
「下ばっかり見てたら、可愛い顔が見えないぞ!」
「っ!」
冬瑚を抱っこして強制的に視界を高くさせたのは、ここにいるはずのない、大好きな兄だった。
「な、夏兄、なんで……」
「急に、冬瑚に会いたくなってね」
夏兄、息も切れてるし、汗もかいてる。
夏兄の学校と小学校は結構遠いし、走って来たのかな?なんで?会いたくなってって、どうして?どうしていつも冬瑚が会いたいって思ったときに来てくれるの?
「ふっうぅ、ごめん、なさい、夏兄……ごめんなさぃ…!」
泣いてばかりの自分が情けなくて、謝罪の言葉が付いて出た。
「悪いのは冬瑚じゃない。自分が悪くないのに謝るな」
このつっけんとんな言い方、それにこの声は…!
「あ、秋兄!?なんで!?」
さっき悪口を言った3人組のうち2人の首根っこを掴んでいたのは秋兄だった。それに、津麦の小6のお兄ちゃんの麻黄お兄ちゃんも残る一人をヘッドロックしていた。
「会いたかったから…。てか、兄貴も来てたのかよ」
「秋人も来てたとは思わなかったよ」
夏兄と秋兄も、お互いにいると思っていなかったみたいだけど、驚いてはいなかった。
登校してきた生徒たちが冬瑚達を遠巻きに見ていた。みんな、冬瑚達のことを悪い人だと思っているのかな?いやだな……。
知らず知らず、視線が下がっていた。
すると夏兄が冬瑚を地面に下ろして、捕まっている男子3人組の元へ向かった。
~執筆中BGM紹介~
TBSテレビ 日曜劇場マイファミリーより「それを愛と呼ぶなら」歌手・作詞・作曲:Uru様
『支え合える喜びも 分かち合える悲しみも いつの日か揺るがない形になって 世界中を探しても ここにしかないもの それを愛と呼ぶなら』
「それを愛と呼ぶなら」より歌詞の一節を引用させていただきました。




