運営委員長
資料を各クラスに配っているときに中身を確認したのだが、どうやら1クラスに割り振られた予算が書いてあるみたいだった。
「こんな額じゃ予算足りねぇよ!俺たち男女全員チャイナドレスを衣装屋さんで借りるつもり、」
こんな感じで各教室に訪れるたびに文句を言われる。今日、庶務に任命されただけの俺に文句を言われても非常に困る。
みんなコレが嫌で俺にこの仕事を押し付けたんだろうな…。
「おい聞いてんのか!」
1年生にめっちゃ脅されてるけど、俺3年だよ?君より2年早く生まれてんだよ?ん?2年しか違わないならそれはもう社会に出ればほぼ同い年なのか?
「聞いてる。各クラスに予算は平等に振り分けられてる。「足りない分は自分たちで出すこと」ってここに書いてある。わかる?わかるよね?それじゃあここにハンコかサインを書いて」
「お、俺たちのことバカにしてんのか!?」
えぇー。
「俺に突っかかられてもな。どうしてもって言うなら、学校祭運営委員会の委員長様か理事長とかに直談判するんだな」
「わかったよ、委員長に直談判しに行ってやる!」
「はい、逝ってらっしゃーい」
仕事に忙殺されているエレナの元へ仕事を増やしに行くなんて、死神に丸裸で突っ込むようなものだ。こうして何人かを死神送りにしているが、多分だれも予算交渉に成功はしていないだろう。
血気盛んなクラスのリーダーやその仲間たちが出て行って、大人しめの生徒と俺だけが残された教室。なんとも居た堪れない。
「衣装は、借りるより作る方が安いかもね。それか、接客の人の分だけ借りるとか。色々工夫すれば楽しい学校祭になるはずだから、これで気を落とさないでね」
「は、はい!ご迷惑をおかけしました!」
「多分、いま運営委員長にボコボコにされてるだろうから、彼らが帰ってきたら慰めてあげて」
「え…?」
「それじゃ」
こんな感じで1学年に1クラスくらい血気盛んな奴らがいるので、そいつらに引導を渡しつつ仕事を終えて第3会議室へ戻る。
「ただい、ま!?」
ドォン!
会議つに入るなり、エレナに壁ドンならぬ、ドアドンをされているこの状況は一体なんだろう。
「チーちゃん。説得が面倒だからって、ゴミ共をこっちに送ってきたでしょ」
「ゴミって」
エレナにゴミ呼ばわりされた生徒たちは首から『ぼくはゴミです。』と書かれた看板を下げて隅っこに正座している。南無南無。
「ゴミがゴミみたいなことを言ってたんだからあれはもうゴミよ」
「……なるほど」
「チーちゃん、言い訳は?」
「面倒くさいことを押し付けられたんだから、俺だって面倒くさいことを多少押し付けたって罰は当たらないはずだ!ってことでごめんなさい!」
言い訳をしている最中、ずっとドアドンをされたまま睨まれ続けた。この視線に耐えられるほど、俺は勇者ではなかった。情けないけれど、命には替えられない…。
それに、ここで謝らなかったら確実にすみっこゴミラインの仲間入りを果たしていたところだった。
「それを言われたら、何も言えないじゃない。チーちゃんのばか」
「それより離れてくれないか?いらぬ誤解を招きそうな体勢だ」
俺と同じくらいの身長のエレナに両手でドアドンされて、顔と顔の距離はリンゴ1個分くらい。これじゃあまるでキスする5秒前だ。
「いいんちょと智夏パイセン、もしかして付き合ってる~?」
「そんな風に見えるか?」
「ぜーんぜん」
俺とエレナの様子を横から覗き込んだ虎子は、色気もクソもない状況になぜだか落胆していた。
「いいんちょ、仕事まだあるから~」
「ごめんなさい、チーちゃんを見たら思わずイジメたくなっちゃって」
「虎子もたまに智夏パイセンをいじめたくなるからわかる~」
しかも「ごめんなさい」って言ってるの、委員会の人たちに対してで、ドアドン脅迫した俺にじゃないし。理不尽だ。
「それじゃあ俺は帰るよ」
「何を言うておる」
「突然どうしたその口調」
「貴様にはまだ地獄のホッチキスレースが残っておる」
お代官エレナ様が机の横に山のように積んであった紙をバシバシと叩いて見せる。
「これ、今日中に終わるか…?」
「明日もあるから大丈夫」
「明日もこき使われるんだ、俺」
「当然でしょ、学校祭運営委員会の庶務なんだから」
「へいへい」
パチンパチンとホッチキスを鳴らしながら、終わりが見えないホッチキスリレーにため息が漏れるのであった。
~執筆中BGM紹介~
「なまえのないうた」歌手:DATEKEN feat. 鏡音レン様 作詞・作曲:DATEKEN様




