劇の台本
新章『夏嵐編』開幕開幕~
「つーわけで、学校祭で俺たち3年生は劇を披露せねばならんのですわ」
ABCが終わって、いよいよ高校生活で最後の学校祭がすぐそこまで迫ってきた。それぞれが受験勉強で塾や予備校なんかに通っているが、俺はどうしてもそういう場所に行く気になれなかった。
「劇のテーマは毎年自由!さて、俺たちはどうする!ハイ、しばちゃん!」
「ぬぁ!?」
田中が持っていたチョークで俺を指した。どんな話の振り方だよ。せめてもうちょっとマシな意見を出してくれそうな人を指名してくれ…。
「えーと、シンデレラの話をアレンジする、とか?」
「無難だな」
「悪かったな」
新しく台本を書くのはかなりの労力が必要だし、そもそも台本を書けそうな人が俺たちのクラスに………はっ!
「なにかな、御子柴君?」
「いえ、ナンデモ…」
「この松田に脚本を書いてほしいのかい?」
台本といえば、修学旅行のときに部屋でやった即興劇?のセリフは松田さんが考えてたな~、なんて思ってたら松田さんご本人とばっちりと目が合ってしまった。
「めめめ滅相もない!松田さんは学習塾にも通われているではないですか。そんなお忙しい方に台本を書いてほしいなんて口が裂けても言えるわけないじゃありませんか…!」
なぜ俺がこんなにも両目を泳がせながら遠回しに拒否っているのか。それは松田さんのご趣味は腐女子活動!3度の飯よりBL大好き!そんな彼女に台本を任せたら痛い目を見る。主に男子が!
「しばちゃんがヤイヤイ騒いでるとこ悪いけど…」
チョークを黒板に戻し、田中が窓の外を見ながら言った。
「もう、松田さんが劇の台本を作ってくれたから」
松田さんが……作って…。
「待て待て。それなら最初に俺に意見を求めたのはなにゆえ?」
「ただのノリ。深い意味はない」
「って、おい」
そろそろ怒るよ?俺の内に封印せし何かが爆発してそれはそれはすごいことになっちゃうよ?
「大丈夫よ、チーちゃん」
「エレナ…」
すっくと優雅に立ちあがり、俺の頭をわざわざ肘置きにして「大丈夫」なんて言われても、喧嘩を売られているようにしか思えない。
「台本には私たちも……一枚噛んでる、から」
一枚噛んでる、なんて日本語を言えるようになっていたなんて…。お兄さんは感激したよ。
「目指すは優勝!天下一品!」
「天下統一って言いたかったのかな?そもそも学校祭で天下は統一できないからね」
「うるしゃい。……ところでチーちゃんや」
「なんだい、ばあさんや」
「誰がババアよ」
チーちゃんってたまにじぃちゃんって聞こえるんだよな~。今回は特にエレナの言い方がもう昔話だったからつい「ばあさん」って言っちゃったけど。
「ババアとは言ってないだろー」
「ま、いいわ。それでねチーちゃん。学校祭の劇でね~」
「劇で?」
「曲を……演奏してほしいの!」
「いいよ」
「そこをなんとか……へ?」
みんな俺を見てるし。なんで?断られるとでも思ってたんだろうか。
松田さんが目を見開きながら聞いてきた。
「いいの?プロなのに、学校祭なんかで弾いてもらってもいいの?」
「全然いいよ」
クラスメイト達が「信じられない」とでも言わんばかりに俺を見てくる。
「だ、だから言ったじゃない!チーちゃんは絶対断らないって!」
エレナがドヤ顔でエッヘンしている。
「さっきめっちゃビビってたけど、あれはスルーな感じ?」
「スルーな感じでお願いしゃす。……あ、あとチーちゃんが弾くのはピアノじゃないよ」
「え?俺、ギターとかあんまり弾けないけど」
実は最近練習し始めて、少しなら弾けるのだが、素人に毛が生えた程度。猛練習すればなんとか…
「大丈夫!あの、あれ、あれあの……。ピラニアだから!」
「ピラ…!?」
ピラニアなんて弾いたら、俺の指食べられちゃうじゃん!劇どころじゃないよ!
「ピアニカだよ。エレナちゃん、智夏君」
「「ピアニカ」」
そういえば見たことはあるけど弾いた…吹いた?ことはなかったな。
~執筆中BGM紹介~
東京喰種トーキョーグール:reより「HALF」歌手:女王蜂様 作詞・作曲:薔薇園アヴ様




