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逆に可愛い

卒業シーズンですね。卒業生の皆さんに幸多からんことを!



今をトキメク人気俳優、横浜真澄の部屋に期間限定で一緒に住むことになった一日目。


普段は台本の声出しなどを行っているという完全防音の部屋と、そこに置いてあったキーボードを借りて、ABC本選用の曲を練習させてもらう。


「バンドマンってモテるっしょ?学校じゃさぞおモテになってるんじゃないの~?」


指ならしに適当に音を鳴らしていると、横浜さんが俺の前髪を上げて顔を覗きながら聞いた。


バンドマン=モテるっていう公式が誰にでも当てはまると思うなよ?虎子はそれで金剛丸君という立派な彼氏ができていたけど、俺は別にモテてはいない。


「俺がサウンドクリエイターとして働いてるのが学校の奴らにバレたときの方が反響はありましたよ」


手は止めずに、家主の世間話に付き合う。


「あ~。俺もあったわそういうの。俺自身じゃなくて肩書だけを見て近づいてくるような、計算高い人たちな」

「そんな感じです」

「でもさー、御子柴君はこの顔面を晒せばモテモテ間違いなしじゃん。なーんで眼鏡で顔隠してんの?」

「昔は隠してなかったですけど……。まぁ色々あって、こうなりました」

「ふぅん、そっか。邪魔して悪かったな」

「いえ。横浜さんの世間話に付き合っただけで乱れるような集中力はしていませんから」

「年下のくせに可愛くねー!」


なんだろうこの感じ。なんだか照れくさくて、素直になれなくて。泣きたいくらいに懐かしい。


「俺一人っ子だからさ、弟がいたらこんな感じなのかねぇ」


あまりにも優しい目で、まるでいつかの生きていた頃の春彦のような目で見てくるものだから、不覚にも泣きそうになってしまった。それを悟られないようにゆっくりと瞼を閉じて、目の前の横浜さんを見る。


「……こんな兄、願い下げですよ」

「なにをぅ!」


春彦とは似ても似つかない。何もかも違うのに、どうしようもなく泣きつきたくなってしまう自分に嫌気がさす。


それから横浜さんにちょいちょい邪魔されながら練習をして、お米が炊けたと同時に俺の腹が鳴ったので晩御飯を2人で食べた。


「やっぱ御子柴弟の手料理うめぇな。俺の弟にくれ」

「秋人はどこにもやりません」


俺が家を出るとき「どうせ2人とも料理できないだろうから、晩御飯は作っといたよ。後は自分らでなんとかしろ」と渡されたおかずをありがたく食べた。


食後に今度は俺が食器を洗っていると、横浜さんがいきなり立ち上がってこう言った。


「上手い飯食ったら腹減った!コンビニ行ってスイーツ買ってこようぜ」

「ちょっと言ってる意味が分からないんですけど…」


飯食って腹減ったってどんだけ消化が早いんだ。


「御子柴君は……って長いから智夏でいいか?」

「お好きにどうぞ」

「じゃあ俺のことも『兄ちゃん』って呼んでいいぞ」

「横浜さんで大丈夫です」

「可愛くなさすぎて逆に可愛い」


とか言いながら部屋を出てエレベーターで1階まで下りる。………なにか、大事なことを忘れているような。


「あ!このまま家出ちゃっていいんですか!?ストーカーがいるかもしれないじゃないですか!」

「しまった、忘れてた!……いや、いいんじゃないか?俺には男がいるからストーカー(男)はお呼びじゃねぇってアピれる」

「誰が誰の男だって?」

人気俳優(イケメン)の…」


自分でイケメン言うなし。自分を指さした後に、俺を指さした。


「…彼氏が智夏」

「却下!」

「コンビニスイーツなんでも奢ってやるから頼むよ~!」

「それ、ストーカーにじゃなくて記者とかに見られたらどうすんですか!?」

「そんときは仲良しな友達ですって言えばいいだけじゃーん」

「嫌ですからね!絶対に!」




とか言ってたけど。


「わ、わー。月が綺麗だね、まーくん?」

「それは俺のことを愛してるって言いたいの?こんな道の真ん中で告白なんて、大胆だなー、なっちゃんは」


うげぇ。


結局横浜さんに涙目で迫られて断り切れずに、こうして下手な演技をしているわけだが。


「あの……さっきから鳥肌と吐き気が止まらないんですけど」


小声で腕を組んで歩いている横浜さんに耳打ちする。


「ストーカーも今日はいねぇみたいだし、演技はやめるか」

「ふぇー、助かったー」

「智夏の演技へたくそだなぁ」


演技で商売してる人と比べられても…。


「あー、もう家に帰ろうかなー」

「今のナシ!ごめんごめん!」


すぐにコンビニに辿り着き、これでもかとスイーツを買って横浜さんを破産させてやろうかと思ったが、そんなにお腹に空きスペースはないため、1個だけで済ませた。


「明日の朝飯も買おうぜ」

「そうですね」

「朝飯も奢っちゃる」

「あざーす」

「少しは躊躇う素振りを見せなさい」


横浜さん以外でなら躊躇っただろうけど、なんせ横浜さんだしなぁ。


色々カゴに突っ込んでいって、会計を済ませて店を出る。空はとっくに真っ暗だが、街の明かりが雨のように降り注いでくる。


「よーし、買い物も済ませたし、帰るか!」

「そうで、」


そうですね、と言おうとしたとき、夜の静寂を切り裂くようなサイレンが鳴り響いた。

~執筆中BGM紹介~

Fate/stay night TV reproduction Iより「雲のかけら」歌手:タイナカサチ feat. 様 作詞:芳賀敬太様 作曲:山元祐介様

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