相討ち
カンナを止めるなら、俺の他に適任がいる。
「そうだろ?鈴木」
前を通り過ぎようとしていた鈴木の肩をがっしりと掴んだ。
「うぇっ!?突然なに!?俺、いま必死に逃げてきたんですけど!?」
「逃がさないよぉ?」
「怖い怖い怖い怖い」
ちょっと肩を掴んで止めただけなのに、そんなに怖がらなくたって…。歯がカタカタ言っておるよ?
「オレ、コワクナイコワクナーイ」
「なぜカタコトになったし」
「近所の臆病なワンコに話しかけるイメージで話しかけたから…ってそんなことどうでもいいんだよ!」
「え、どうでもいいの?」
どうでもいいですとも。本題は別にあるので。
「B組に勝つためには…」
立ち止まって話をしようとすると、B組の1人に目を付けられた。
「立ち話はさせてくれそうにないぞ、御子柴」
「だな。逃げながらでもいいから聞いてくれ!」
追いつかれないよう、鈴木と2人で走りながら伝える。もともと体力が無いのに加えて、話しながら話そうとしているから、息が続かない。なにより思うように話せないのが辛い。
「か、カンナをっ!はーっはーっ、と、とめっ、止めるには、」
「カ…愛羽さんを止めるには?」
いま、カンナって言いかけてなかったか?それならどうしてわざわざ苗字に言い変えたのだろう。俺は今まで通り「カンナ」と呼び続けてもいいものだろうか。
「おーい!御子柴!?」
あ、別のこと考えてたら話すの忘れてた。ついでに足も止めちゃったし。ちょうどいいと言えばそうだけど。
突然、足を止めた俺を心配して戻ろうとした鈴木に、戻らなくてもいいと首を振る。
「鈴木!お前しかいないよなー!頼んだぞ!!」
「うぇっ!?」
情けない声が聞こえてきたが、後は知らん。なるようになる、と思う。
後ろを向いて、目前に迫るB組男子と正面から向き合う。しっぽ取りゲームで1対1になった場合、逃げるよりも向き合った方が良いと、これまでの試合で思い知った。
「あれ、御子柴じゃん?うちの有名人様と話せるなんて超ラッキー」
初対面で呼び捨て、それとちょっと馬鹿にされたような気がする。薄ら笑いがよく似合う狐目の男の動きを注意深く見ながら、口を開く。
「初めまして。えっと、」
「ひっどいなぁ~御子柴。俺のことを忘れちゃうなんてさ」
「え!?ごめん、どっかで会ったっけ?」
高校に入ってからこの男と話した記憶はない、はずだけど。
「会って話もしてるんだけどな~。……隙あり!」
話もしてる…?一体どこでと考えたとき、腕だけで俺のしっぽを取りに来た。
「うわっ、っと!」
避ける?いや、間に合わないか。それなら俺もしっぽを取って相討ちに持っていく!
「ありゃ?僕のも取られちゃったか~」
互いの手には互いのしっぽであったタオルが握られていた。
狙い通り相討ちになったが、すっきりするどころか、頭の中はもやもやしたままだ。
「俺たち、いったいどこで会ってるんだ…?」
「はい、タオル返すね」
「あ、うん。ありがとう」
取ったタオルを返し、取られたタオルを受け取る。いや、そうだけどそうじゃなくて。
「僕は安食だよ。今度はちゃんと覚えといてね~御子柴」
「え、ちょっと!」
言葉のキャッチボールができない人が俺の周りに多い気がする。自分の信念を曲げないっていうのは、他人の話を聞かないって意味じゃないと思うんだよ。あれが信念なのかどうかは知らんが。
先にしっぽを取られて場外に出ていた田中と玉谷のもとに行く。それにしても場外がなんか騒がしいな。俺が場外に出たことに誰も気づいてないんじゃないか?
「田中、いったいどうしたんだ?」
「なんかすごいことになってんだよ!」
「え?なんかすごいってなんだよ…」
みんなの視線を集めている場所に目を向けると、そこにはカンナと鈴木が。
「リディアは世界最古の何を作った?」
「貨幣!」
「ぐっ、正解!」
「元々のノルマン人の原住地に建国された―――」
鈴木が問題を出してカンナが答えて、正解したカンナが今度は鈴木に問題を出して…。なんかすごいことしてる。
「なにあれ」
鈴木にカンナを止めてくれと言ったのは俺だけど。
「一問一答で間違えた方がしっぽを差し出すんだとさ」
「へ~」
「なかなか白熱してるぞ」
目を離した隙に世界史の一問一答が始まっていた件。
~執筆中BGM紹介~
未確認で進行形より「ぜんたい的にセンセーション」歌手:みかくにんぐッ!様 作詞・作曲:Junky様




