技名
「球技大会1日目、バドミントン男女ミックスダブルス決勝戦、実況は1回戦からお世話になっております田中と、」
決勝戦まで来てさらにノリノリの実況、田中と。
「実況初参戦の玉谷の2人で頑張りまーす!」
1回戦と2回戦はもとやん、準決勝までは腐女子な松田さん、そして決勝戦では準決勝で負けてしまった玉谷が実況に入った。
「我らがA組エレ柴ペアに立ちはだかるのは――」
「準決勝で俺のチームを倒したE組の強敵、坂ンドペアだー!!」
説明しよう!坂ンドぺアとは、坂井さんとアンドレイ君(日本生まれ日本育ちのハーフ)の運動部ペアのことである!
対するエレ柴ペアは死神スナイパーエレナと、凡人の俺だ!試合が終わるまで俺のHPやらSAN値はもつだろうか?
ピーピピーーッ
「さっきから試合開始だって言ってんだろが!」
1回戦のときと同じ先生が審判の指示に従わない生徒たちに笛を吹きながらキレている。ちなみにサーブ権は坂アンペアで、俺たちはサーブを待っていた。先生に怒られた坂アンペアはどうやらコート内でのポジションで揉めていたようだ。
「なんか向こう揉めてんぞー」
「こりゃ楽勝なんじゃねぇのかー?」
「優勝見えてきた~」
決勝戦でかなりの数の観客がコートの周りに集まってきた。決勝戦まで残れなかった連中が好き放題言ってくれちゃってるが、俺はそこまで楽観視できない。坂アンペアの目、あれは本気の目だった。2人とも本気だからこそ、妥協せずにぶつかりあっているのだ。
「チーちゃん、気を抜かないで」
「抜きたくても抜けないよ…」
前には強敵、そして後ろには死神、一瞬でも気を抜けば―――死ぬ!
「試合かいしー」
「ブラックダイヤモンドサーブッッッ!」
へ?
バコーン!
とてつもなく重い音とともにアンドレイ君からサーブが放たれた。
「出ました!アンドレイ選手のブラックダイヤモンドサーブ!手首しか動かしていないのに大砲が放たれた!」
「俺たちのチームの敗因はこれをまともに止められなかったことでした。エレ柴ペアがどう対処するのか見物ですねー」
田中も玉谷も、この大砲サーブを受け止めるのは誰だと思ってんだよ。我らが死神様であらせられるぞ?
「大砲は、倍返しにするためにあるのよ!必殺、」
アンドレイ君に触発されて、エレナも技名を叫ぼうとしていた。
「エレナ倍返しショット!」
バシュンッ
あの威力のサーブをよく拾ったな、とか技術面の感想はひとまず横に置いて、まずは。
「ダッッッサ!」
ブラックダイヤモンドサーブも相当だったが、なんだよ、エレナ倍返しショットって!もうちょっと捻れよ!
「ダサくない!だって得点決まったもの!勝った方が正義!」
「得点が入った代わりにエレナは大切な何かを失った気がするぞ」
主にお嬢様なイメージとか。エレナは頬を膨らませて不満そうな顔をし、次いでニヤリと小悪魔な笑顔になった。……うげ、ヤな予感が。
サーブ権が移動し、今度は俺がサーブを打つ。その前に、エレナが周囲にも聞こえるくらい大きな声で俺に言った。
「チーちゃんもサーブに名前あるよね~?」
「えぇ!?」
エレナめ、余計なことを…!
「おっと?現在サーブ権を所持する御子柴にはサーブの技名があるようだ。みんな知りたいよなー?」
「「「おおぉぉぉおおおお!!!」」」
田中ぁぁぁぁ!観客を煽るな!!!
「はよ技名叫んでサーブ打てー。負けにすっぞー」
無情にも先生まで敵になった。ここにいる全員、顔覚えたからな!くそっ、もうどうにでもなれ!
「御子柴流奥義!」
「「「おおお!」」」
シャトルを敵コート内に向かって打つ。
「紫電サーブ!!!」
捻りだした紫電サーブは、ネットを超えることなく、自身のコート内にぽとりと落ちた…。
「「「…」」」
誰も何も喋らない。実況ですら無言だ。いや、何も言えなかった、が正解か。だって、だってこんなのって。
「うぁぁぁぁあああああああ」
御子柴智夏、恥ずか死。
膝から崩れ落ちた。サーブの名前も、頑張って考えて、「あれ?想像以上にカッコいい技名じゃね?」ってちょっとドヤ顔した直後にこれだぜ?この瞬間、俺より恥ずかしい思いをしている人間はいないだろう。世界で一番恥ずかしい男……
遅れて復活した実況の田中がフォローを入れようとする。
「あ、いや、ほら、しばちゃんは頑張ったって!な、玉谷?」
「お、おう!そうだぞ。どんな天才でも一歩目は躓くもんだよ!」
「しばちゃんの場合、顔面から派手にコケちゃっただけで!」
フォローになってねーよっ!
~執筆中BGM紹介~
ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝-永遠と自動手記人形-より「エイミー」歌手・作詞:茅原実里様 作曲:菊田大介(Elements Garden)様




